10月1日、八ッ場ダム予定地は快晴でした。
ダム事業によって建設工事が進められてきた吾妻線の新線切り替え、八ッ場大橋(湖面1号橋)の開通式典が同時に開催され、「川原湯温泉」新駅もこの日、開業となりました。
吾妻線と国道はもともと川原湯温泉街の脇を通っていましたが、代替地に移転しつつある川原湯温泉は、対岸を付け替え国道が通過し、温泉駅も上流側の上湯原地区につくられたことから、人の流れから距離を置いた立地です。付け替え国道からのアクセス道となる八ッ場大橋がようやく開通し、新駅もトンネルの向こうに開業したことから、地元民の多くは温泉街再建に期待を寄せています。
八ッ場大橋の橋上と新駅横で挙行されたセレモニーには国交省関東地方整備局の越智繁雄局長や大澤正明群馬県知事、地元自治体である長野原町の萩原睦男町長と東吾妻町の中沢恒喜町長、自民党の佐田玄一郎、笹川博義衆院議員、群馬県議らが参加し、背広を着た国交省関東地方整備局やJR東日本の職員などの関係者も大勢集まりました。
当日と翌日、セレモニーの様子を各メディアが一斉に報じました。マスメディア向けの晴れがましい写真が紙面に掲載され、交通網の整備による利便性の向上をどの記事も伝えています。
ダム事業による吾妻線の付け替え区間は、ほとんどがトンネルになります。下流側から川原湯温泉駅の新駅に来る列車は、駅の直前でトンネルから出てきます。
開業日の新線を撮ろうと、駅周辺や構内に観光客の姿が見られ、プラットフォームも賑やかでした。
新駅を発車した列車は、不動大橋(湖面2号橋)の手前で、またすぐにトンネルに入ります。
線路の山側には巨大なコンクリートの壁が長く続いています。巨大な擁壁は地下深くまで造られていますので、この擁壁が地下水の流れを遮り、長年の間に山側の地盤を軟弱化させるのではないか、と心配する声もあります。
新駅は金花山の幾筋もの沢が集まる場所に造られており、、これまでに何度も土石流による災害にあった場所です。
土石流危険渓流に指定された桜沢の流路工がプラットフォームの目の前に見えます(写真右)。流路工は線路の下を通っています。
桜沢の沢筋では砂防工事が続いており、いくつもの砂防ダムが造られていますが、大雨により大量の土砂が流れ下った時、駅は大丈夫でしょうか。
新駅の前には、シンボルツリーになりそうな大きな楡の木がありますが、この大木に地元住民が掲げた看板が掲げられていました。
「犠牲になった住民の移転代替地を産業廃棄物の捨て場にするな!! 有害な鉄鋼スラグを撤去せよ」
8月5日に毎日新聞が一面トップで八ッ場ダム予定地住民の移転代替地に有害な鉄鋼スラグが埋められていることを報じて以来、地元では波紋が広がっています。
◆参照⇒八ッ場ダム代替地整備に有害鉄鋼スラグ
吾妻線付け替えの式典を開く「川原湯温泉」新駅の出入り口正面にこんな看板を立てられた関係者は困惑したのか、布で目隠しをしようとしたようです。しかし、それも難しかったのか、式典が始まった時には看板の前に車を駐車させました。駅の乗降客や式典参加者によほど看板を見られたくなかったのでしょう。
物議をかもした看板はその後、取り外されましたが、有害スラグは駅周辺にも大量に埋められたままといわれ、問題は解決からほど遠い状態です。
式典が行われた10月1日付けで国交省八ッ場ダム工事事務所の佐々木淑充所長が本省に異動になりました。
八ッ場ダム工事事務所では現在、本省の指示を受けて鉄鋼スラグの調査を行っています。しかし、佐々木前所長はこれまで地元住民らに有害スラグについて伝える毎日新聞記事を誹謗する発言を繰り返しており、調査は事態収拾を図るためのものでしかない、と不信の目を向けられてきました。
佐々木所長については、有害スラグの使用を見逃してきたことや数々の問題発言をめぐって、責任を追及する声がありましたので、追及をかわすための人事異動であったのかもしれません。
新駅の周辺整備はまだ、道半ばです(写真右上)。
駅前には共有地の森が残されており、石仏や墓石が草むらに埋もれています。地蔵菩薩も移転対象なのか、赤いビニールテープを巻かれていました。お地蔵さまは人間の愚かな営みをどうご覧になっているでしょう。
水没予定地の川原湯温泉駅は、看板を外され、ガラス窓にベニヤ板を貼られ、痛ましい姿になりました。
駅前の国交省の相談センターも、閉鎖されるそうです。
国交省は本体工事をスムーズに進めるため、国道を廃道化して本体工事専用に使用する方針で、道路を管理する群馬県も9月の県議会でこれに従う姿勢を示しています。
吾妻渓谷では、本体準備工事が進んでいます。
◆2014年10月10日 NHK前橋放送局
http://www.nhk.or.jp/lnews/maebashi/1063925931.html?t=
ー八ッ場大橋開通で記念式典ー
八ッ場ダムの建設でダムを挟んだ2つの地区を結ぶ長野原町の「八ッ場大橋」が開通し、1日、記念の式典が開かれました。
開通したのは、八ッ場ダムの建設で新しい場所に移転となった長野原町の「川原畑地区」と「川原湯地区」を結ぶ全長およそ500メートルの「八ッ場大橋」です。
1日は橋が開通したことを記念する式典が開かれ、群馬県の大澤正明知事は「八ッ場大橋が無事に開通できてうれしく思います」とあいさつしました。
そして地元の関係者などがくす玉を割ると、出席者から大きな拍手が起きていました。
その後、地元や工事の関係者が乗り込んだ14台の車が初めて橋を渡る「通り初め式」が行われました。
式典に訪れた60代の女性は、「2つの地区が大きな橋で結ばれることで、観光客も増えて、地元が活性化してほしいです」と話していました。
◆2014年10月1日 毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20141001k0000e040226000c.html
ー八ッ場大橋:完成、ダム湖横断…群馬ー
群馬県長野原町の八ッ場ダム建設予定地で1日、ダム湖にかかる「八ッ場大橋」(湖面1号橋)が完成し、開通式が開かれた。ダム完成後に水没する地区の住民らが移転した代替地をつなぐ県道で、1日午後3時に供用開始。建設の是非をめぐって国の判断が二転三転した八ッ場ダムは今月にも本体工事が本格的に始まる。
八ッ場大橋はダムを横断する長さ494メートル、片側1車線の橋で、歩道も整備されている。2009年に着工し総工費は約49億円。また、一部区間が水没するJR吾妻線は1日の始発から、高台に付け替えられた新ルートで運行が始まった。【角田直哉】
◆2014年10月2日 上毛新聞 (ネット記事は紙面記事の前半部のみ)
http://www.jomo-news.co.jp/ns/5514122100424558/news.html
ー進む生活再建事業 八ツ場大橋が開通 吾妻線新ルート ー
八ツ場ダム(群馬県長野原町)建設に伴う生活再建事業の一環として、川原畑、川原湯両地区を結ぶ八ツ場大橋が1日、開通した。JR吾妻線も同日、岩島―長野原草津口駅間の新設区間で運行を始めた。主要な幹線道路と鉄道の付け替え工事がほぼ終わり、地元住民は生活の質がさらに向上することを祝った。
◆2014年10月2日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/local/gunma/news/20141001-OYTNT50328.html
ー八ッ場大橋開通ー
長野原町に建設予定の八ッ場やんばダム上にかかる八ッ場大橋(494メートル)の開通式が1日、現地で行われ、大沢知事ら関係者約100人が祝った。八ッ場大橋の開通でダム湖をまたいで代替地をつなぐ三つの橋は全て完成した。この日はダム建設に伴い付け替え工事が行われたJR吾妻線の新路線も開通。地元住民から「新たな一ページの始まり」と期待の声が上がった。
八ッ場大橋は片側1車線で歩道もあり、横幅13・5メートル。水没する地区住民が移転した川原畑地区と川原湯地区が結ばれ、川原湯温泉街への交通の便が向上する。同大橋を巡っては民主党政権が一時、建設凍結を検討し、2010年3月、住民の意向調査を踏まえて建設が続行となった経緯がある。開通式で大沢知事は「民主党政権で建設の中止も議論されたが、地域の方の力強い支援のおかげで完成できた」とあいさつした。
続いて長野原町の萩原睦男町長も「ダム湖を一望できる観光スポットとして地域の活性化につながる」と期待を寄せた。テープカットの後、地元小学生による鼓笛隊の演奏とともに通り初めを行った。
4年前から川原畑地区の代替地に住む主婦野口靖子さん(50)は「政治にも翻弄されてきたが、やっと出来たかという感じ。川原湯と川原畑の住民同士の行き来が楽になる」と話した。同町大津の町立中央幼稚園の小林敦子園長(61)は「通園バスはこれで10分近く短縮される」と喜んだ。
付け替え工事が行われたJR吾妻線の岩島(東吾妻町)―長野原草津口(長野原町)間の開通式は、旧駅舎から約70メートル先の高台に移転した新しい川原湯温泉駅で行われた。従来、同線は降雨などの影響で運休することが多かったが、新ルートは約8割がトンネルとなったことで、防災面が向上したという。
真新しいホームで行われた出発式では、地元住民を代表して金子典子さん(57)が午後0時25分発の「特急草津1号」の出発を合図した。金子さんは「まだ慣れない駅だけれど、新しい未来予想図に向かっている」と笑顔を見せた。川原湯温泉協会の樋田省三会長(50)も「800年続いてきた川原湯温泉が新たな産声を上げた」と感慨深そうだった。
八ッ場ダム本体は今秋にも着工し、2019年度の完成予定だ。
◆2014年10月2日 朝日新聞群馬版
http://www.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20141002100580001.html
ー八ツ場大橋開通 吾妻線新ルートもー
八ツ場ダム(長野原町)建設に伴い、水没する川原(かわら)湯(ゆ)と川原(かわら)畑(はた)地区の移転代替地を結ぶ八ツ場大橋(湖面1号橋)が1日、開通した。JR吾妻線の水没予定区域を避けた新ルートも開通し、新しい川原湯温泉駅の利用が始まった。地元住民は、日常生活や観光客の足を支える両事業の完成に期待を高める一方、思うように生活再建が進まないもどかしさも口にした。
八ツ場大橋は長さ494メートル、幅13・5メートル。2009年に着工し、総事業費は約49億円だ。ダム湖に架かる3本の橋のうち、最後に完成した。ダム湖を挟んで位置する川原湯と川原畑の両地区を結ぶ。川原畑側の国道145号と川原湯を通る県道も結び、渋川―草津方面から川原湯温泉へのアクセスが向上した。
JR吾妻線は付け替えに伴い、9月25日から一部運休していた。新たな線路は岩島―長野原草津口のうちの約10・1キロの区間で、水没予定区域から高台に移転した新しい川原湯温泉駅も通る。新ルートにはトンネルが三つあり、トンネル区間は計約8・1キロ。新ルートの約8割にあたる。
1日は鉄道と橋の開通式典もあった。式典後、大沢正明知事は「二つの交通インフラが整備され、これで大きく生活再建が前進する」と期待を込めた。
地元住民も完成を喜んだ。川原畑地区の主婦野口靖子さん(50)は「橋ができてうれしい。川原湯温泉駅に行くのにも近くなる。子どものスクールバスも時間が短縮できる」。川原湯地区の主婦篠原恵さん(40)は「ダム完成に向けていいスタートができた。川原畑地区とも近くなった」と話した。
ただ、水没予定の川原湯温泉から高台の打越代替地に移転して営業を再開した旅館は、まだ3軒にとどまる。川原湯温泉協会の樋田省三会長(50)によると、あと2軒が来年3月末までに営業開始予定で、将来的には計8軒を見込むという。樋田会長は八ツ場大橋と吾妻線新ルートの開通を「新しい川原湯温泉の第一歩になった」と歓迎すると同時に、「まだ道路、旅館、飲食店、土産屋など観光地として必要最低限の施設が完成していない。もどかしい気持ちもある」と思いを口にした。(伊藤繭莉)
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JR吾妻線の付け替えに伴い、9月24日に列車の運行を終えていた旧川原湯温泉駅の木造駅舎が30日閉鎖され、1日未明に看板が外された。鉄道ファンや住民ら約20人が作業を見守った。
1日午前0時すぎ、駅舎の照明が消えると、作業員がやぐらを組んで縦65センチ、横1・3メートルのプラスチック製の看板を取り外した。東京都大田区から訪れた中村聡さん(26)は「時代の流れを感じる。レトロな駅舎がダムに沈むのは残念」と話した。(藤田太郎)
◆2014年10月2日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20141002/CK2014100202000181.html
ー新しい歴史 出発 移転の川原湯温泉駅が開業ー
「出発進行」-。長野原町の八ッ場(やんば)ダム建設に伴い、一部区間が水没するため、高台に移転したJR吾妻線の川原湯温泉駅で一日に行われた付け替え新線の開通式。プラットホームでは、出発式が催されるなど、地元住民や鉄道ファンらが新駅の開業を祝った。 (山岸隆)
「新線を走る電車の車窓から、周りの景色が見たくて乗車した。トンネルが多くなった。駅舎が美しく立派になって良かった」。中之条町の市城駅から普通電車に乗車し、川原湯温泉駅で下車した東吾妻町新巻の農業飯塚友(とも)さん(74)、妻キクさん(74)夫妻が笑顔で話した。
新しい駅舎前にはまだ食堂や商店はないが、周辺には水没地区にあった旅館などが移転してきており、今後、住民たちの生活や経済活動の新たな核となる。この日は、カメラを構えた鉄道ファンや期待に胸を膨らます地元住民らでごった返した。
午前中にあった開通式には、県や地元住民の代表、JRと国土交通省の幹部ら約百人が出席した。
大沢正明知事は「地元の生活再建に大きな弾みとなった。吾妻地区は川原湯温泉駅の周辺に多くの温泉やスキー場があり、首都圏からの観光客の増加が期待できる」とあいさつ。
長野原町の萩原睦男町長も「これまでは台風や豪雨で電車が止まってしまうこともあったが、新線付け替えで安全で安心な吾妻線になった」と喜んだ。
テープカットの後、午後零時二十五分発の下り特急「草津1号」の出発式があり、川原湯温泉駅を管轄する長野原草津口駅の飯野紳一駅長らが手を挙げて出発の合図をした。
吾妻線は東吾妻町の岩島駅から長野原草津口駅間の約六キロが水没。新たなルートは同じ区間で一〇・四キロ。新・川原湯温泉駅は約七十メートル高台に移転した。旧駅は九月二十四日で営業を終えている。
式典の後、大沢知事は報道陣の質問に対し、八ッ場ダムの本体工事の見通しについて、「今月に着工の見込み」と答えた。
◆2014年10月3日 群馬建設新聞
http://www.kd-net.ne.jp/sample_data/kiji/detail/272031
ー八ッ場ダム関連で2つの開通式が開催式ー
八ッ場ダム建設事業に伴い、工事が進められていた八ッ場大橋(湖面1号橋)とJR吾妻線の付け替え新線の開通式が1日にそれぞれ挙行された。
両開通式では、来賓に佐田玄一郎衆議院議員や笹川博義衆議院議員、須藤昭男県議会議長、長野原町の萩原睦男町長、東吾妻町の中澤恒喜町長らも駆けつけた。
八ッ場大橋の開通式典では、主催者を代表して大澤正明知事が「川原湯地区と川原畑地区が直接つながり、国道145号から川原湯温泉へ直接アクセスすることが可能となった。代替地における生活再建にも大きく寄与するものと確信している」と祝意を寄せた。来賓祝辞後には、テープカットとくす玉開披も行われた。
八ッ場大橋は、L494mの5径間連続PCエクストラドーズド橋。国道145号八ッ場バイパスと一般県道林岩下線とをつなぎ、八ッ場ダム完成後は湖面の最下流に位置する橋梁となる。
一方のJR吾妻線の付け替え新線の開通式典は、川原湯温泉駅の新駅舎で開催。冒頭、主催者である国土交通省関東地方整備局の越智繁雄局長が「八ッ場ダム建設事業は、各地で代替地の整備が進んでいるところ。新線の開通により、代替地の利便性はさらに向上し鉄道による下流地区とのつながりも強くなる。これから八ッ場ダムの完成に向けて着実に進めていく」とあいさつ。
続いて、JR東日本高崎支社の黒岩雅夫支社長は「旧川原湯温泉駅は、多くの人に長く愛され続けた駅だったが、この新しい駅も地域から末永く愛されてほしい」と期待した。
来賓のあいさつ後、駅舎前でテープカットが行われ、新駅の出発式が執り行われた。
JR吾妻線の付け替え工事は、岩島駅から長野原草津口駅までのL約6㎞が八ッ場ダム建設によって水没するために計画。L約10・4㎞の途中に新川原湯温泉駅を整備しながら付け替えた。主要な構造物には、L4489mの八ッ場トンネルやL431mの第2吾妻川橋梁などがある。