9月の鬼怒川水害によって甚大な被害を受けた茨城県常総市では、さる12月20日、水害被害者の集会が開かれました。
関連記事とともに、記事で取り上げられている嶋津暉之さん(当会運営委員)による講演「鬼怒川水害と行政の責任」の要旨をお伝えします。
◆2015年12月22日 東京新聞茨城版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201512/CK2015122202000154.html
ー「水害は行政の不手際」 常総・被害者の会で専門家の嶋津さん講演ー
元東京都環境科学研究所研究員で水問題専門家の嶋津暉之(てるゆき)さん(72)が二十日、常総市内で講演し、関東・東北水害による鬼怒川決壊について、国土交通省の資料などを基にした科学的知見から「今回の水害では行政の不手際があった」と結論づけた。
嶋津さんは、国に賠償請求するため被災住民らでつくる「常総市水害・被害者の会」の集会で講演した。鬼怒川全体の堤防整備率は約43%なのに比べ、下流の県内は約17%と、はるかに低いことを指摘。三坂地区の決壊現場について、図で示しながら「河道の整備が遅れ、洪水を流せる流量がもともと少なく、危ないところが決壊した」と説明、「ダム偏重の河川行政のため、河川改修がなおざりにされてきた」と強調した。
昨年十月の国交省関東整備局の鬼怒川改修事業計画で、三坂地区は「おおむね二十~三十年内に改修する予定」とされたが、嶋津さんは「国交省の認識が不足していた」と批判。越水した若宮戸地区は「自然堤防が堤防代わりに扱われ、河川改修の対象にもなっていなかった」と断じた。
さらに、市内を流れる八間堀(はちけんぼり)川の氾濫では、水害当日、鬼怒川に排水するポンプが約九時間停止していたことを問題視。「少なくとも運転を早めに再開すれば、八間堀川の氾濫を最小限に抑えることができた」と見方を示した。 (増井のぞみ)
◆2015年12月21日 毎日新聞茨城版
http://mainichi.jp/articles/20151221/ddl/k08/040/013000c
ー「被害者の会」集会に200人 常総水害「賠償を」アピールー
関東・東北豪雨による被害補償を国に求めるため「常総市水害・被害者の会」は20日、同市で集会を開いた。
参加者の窮状を聞いたうえで「私たちは被災者ではなく被害者。法に基づく損害賠償を国と県に求める」との集会アピールを発表した。
今後、被害額をまとめ、行政に対する活動を本格化させる。
約200人が参加し、逆井正夫・共同代衷は「みなさんがいなければ前に進めない」と協力を呼びかけた。
水海道地区で事業を行う女性は「私ら事業主への資金支援がない。来年の固定資産税が払えない」と明かした。
「常総の未来をつくるため国土交通省と前向きに話したい。まず国交省にはごめんなさいと言ってほしい。それがなければ始まらない」「人災と言えるデータを整理し、法の力で解決を図るべきだ」などの指摘もあった。
また、水問題研究家で元東京都環境科学研究所研究員の嶋津暉之氏が講演し、行政の問題点を指摘。
①同市三坂町の決壊堤防は上下流より低いのに改修は20~30年内と後回しになっていた。
②同市若宮戸の越水地点は河川改修の対象にもなっていなかった。
③八間堀川の氾濫原因は排水停止という判断ミスの可能性があるーーーを挙げた。
(去石信一)
◆2015年12月24日 しんぶん赤旗
ー茨城水害 「行政に不手際」 「被害者の会」集会で専門家が指摘ー
常総市
20日、茨城県常総市で開かれた「常総市水害・被害者の会」の集会では、元東京都環境科学研究所職員で水問題研究家の嶋津暉之氏が講演し、国土交通省の資料などをもとにした科学的知見から、国や自治体の対応について「今回の水害では行政の不手際があった」 と述べました。
嶋津氏は、9月に発生した関東・東北豪雨で大洪水を起こした鬼怒川の堤防整備率は平均約43%だが、下流の茨城県内では約17%とはるかに低かったと指摘。そのうえで、大きな被害が出た三つの発生現場の問題点を詳細に報告しました。
具体的には、①堤防が大規模に決壊した三坂地区については、堤防の高さが周辺より低く、幅も狭くて決壊の危険性があったにもかかわらず、補強工事が20~30年内と後回しにされていた②堤防を越えて水があふれ出した若宮戸地区については、自然堤防まで河川区域を広げず、河川改修の対象にしていなかったこと③二次的氾濫が発生した鬼怒川支流の八間堀川について、鬼怒川氾濫直前の9月10日午後1時の排水機場の運転停止の判断が妥当だったか疑問があり、運転を速やかに再開すべきではなかったか―と話しました。
— 転載終わり—
講演「鬼怒川水害と行政の責任」のスライドより
国交省は2014年10月に「鬼怒川直轄河川改修事業」を公表した。
この河川改修事業の計画では決壊地点の三坂地区は今後20~30年に河川改修を行う対象となっており、この地区の破堤の危険性、対策の緊急的必要性を国交省は認識していなかった。
25km付近(若宮戸地区)の越水について国交省は自然堤防の掘削がなくても越水が避けられなかったと説明している。
しかし、国交省は一方で、上記の河川改修事業の計画では若宮戸地区を河川改修の対象にもしていなかった。これは、国交省は、若宮戸地区の自然堤防を堤防と同様に評価し、同地区の危険性を認識していなかったことを示している。