国の名勝・吾妻渓谷では、八ッ場ダムの本体準備工事が進められていましたが、梅雨の増水によって工事用の堰が流され、工事が止まっています。
吾妻渓谷の滝見橋の直下には、今年4月に川の流れを堰き止める石垣(堰)が造られました。石垣の脇には、2009年に完成した仮バイパストンネルの呑み口があり、石垣で流れを遮られた吾妻川の水は、このトンネルに流れ込むようになっていました。
梅雨の増水によって流されたのはこの石垣です。(右の写真は5月10日撮影)
関東地方の梅雨入りは、今年は6月5日でした。
以下の動画は6月7日の撮影です。この日は雨が激しく降り、ダム予定地を走るJR吾妻線は、吾妻渓谷下流の東吾妻町・松谷での倒木により不通になりました。
吾妻川の流れを堰き止めていた石垣の左側から水が流れ込み始めているのが見えます。工事によって流れが消えていた滝も復活しています。
翌8日、吾妻川の流れは再び石垣によって遮られていましたが、石垣の上流側の水位がだいぶ上がっています(写真右)。
石垣の下流の河床にはコンクリートが敷かれていました。ここに高さ29メートルの小ダムを造る仮締切工事は、工期が7月末までとなっています。(ダム本体工事を始める前に、吾妻川の流れを完全に堰き止めるために小ダムを造ることになっています。)
【参考】仮締切工事の入札情報
しかし、その後も雨は降り続き、とうとう石垣が崩され、吾妻川の流れが蘇りました。(下の写真は6月14日撮影)
6月17日、吾妻渓谷のある長野原町では町議会が開かれ、国交省八ッ場ダム事務所が八ッ場ダム事業の進捗状況を説明しましたが、石垣が壊れていない時の写真を使って順調に工事が進んでいるという趣旨の説明を行ったそうです。石垣が壊れたことが知られるようになると、八ッ場ダム工事事務所長は工事業者のせいであると説明しているということです。八ッ場ダム事業では、嘘と責任転嫁がつきものです。
この日、石垣があるはずの吾妻渓谷の現場で撮影した映像です。後半に、川原湯郵便局の脇で行われている地質調査がうつっています。
翌18日、吾妻川はやはり勢いよく流れていましたが、滝見橋の上を長い板を運ぶ人の姿が見えました。
滝見橋の入り口には、「歩道橋撤去工事中」の看板
滝見橋の上では、作業員が橋げたを外していました。
メディアがサッカーのワールドカップや富岡製糸場の世界遺産決定を大きく報じる中、国の名勝・吾妻渓谷の滝見橋は、人知れず取り壊されていきます。多くの観光客が滝見橋の上から探勝した渓谷十勝の一つ、白糸の滝や鉄橋を渡る吾妻線の風景も、二度と見られません。
環境大臣が「金目」発言で物議をかもしても辞任する気配すらなく、自然と文化が破壊されてもニュースにも取り上げられないこの国は、一体どこに向かってゆくのでしょうか。
25日には太田国交大臣が八ッ場ダム予定地を視察するとのことですが、これまでの現地視察と同様、案内する国交省現地事務所は問題のある現場を素通りするでしょう。