8月5日に毎日新聞朝刊がスクープしたこの問題に関しては、その他にも多くの記事が掲載されていますので、以下のページの続きとして、記事を転載します。
https://yamba-net.org/wp/?p=8361
赤旗の記事は、八ッ場ダム事業で行われているJR吾妻線の川原湯温泉新駅周辺の整備事業で有害資材が使われていることを報じています。
◆2014年8月5日 上毛新聞(共同通信配信)11:00
http://www.47news.jp/localnews/gunma/2014/08/post_20140805124732.html
ー大同特殊鋼 スラグ問題で役員賞与を不支給ー
鉄鋼メーカー、大同特殊鋼渋川工場(群馬県渋川市)のスラグ問題を受け、同社(本社・名古屋市)は4日、嶋尾正社長ら監査役を含めた取締役以上の役員23人に対し、2014年3月期決算の役員賞与を不支給にしたと発表した。役員進退などに関する経営責任は県の判断が出た時点で決めるとした。
内部調査の結果も公表。09年6月以前はフッ素や六価クロムなどの出荷管理基準を誤って定めず、検査をしなかったため、基準値超のスラグの路盤材が出荷されたことを認めた。
同7月以降は基準を設けて外部の業者が毎年1回検査していたが、多様な鋼種を扱っているために見逃したスラグもあったと結論付けた。
スラグの生産はことし1月から停止しているが、同社は「品質の安全性を完全に確保できるまで停止を続ける」と説明し、再開時期は現時点で未定だとした。
◆2014年8月5日 19:02 共同通信配信
http://www.47news.jp/CN/201408/CN2014080501002123.html
ー八ツ場代替地で有害資材か 国交省、県が調査開始ー
八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設に伴い、水没予定地から住民移転が進む代替地の整備で、有害物質を含んだ建設資材が使われた疑いがあることが5日、分かった。国土交通省や群馬県が施工業者から事情を聴くなどして事実関係を調べている。
国交省などによると、鉄鋼の製造過程で出る副産物「鉄鋼スラグ」を含む砕石が、代替地の盛り土や周辺の生活道路の工事に使われた恐れがある。鉄鋼スラグにはフッ素など有害物質が含まれ環境基準を上回る場合もある。
国交省は八ツ場ダムの代替地整備には天然砕石を使うよう義務付けており、施工業者が提出した品質規格証明書にも天然砕石と明記されていた。
◆2014年8月5日 朝日新聞群馬版
ー有害物質含むスラグ 撤去費の一部 大同が負担へー
大同特殊鋼渋川工場(渋川市)が排出したスラグに六価クロムなどの有害物質が含まれていた問題で、同社は4日、群馬用水を管理する独立行政法人・水資源機構が県内16カ所の管理用道路などから同社のスラグを撤去する際、経費の一部を負担すると発表した。
有害物質を含む製品を出荷したことについて、同社は「2009年6月以前は重金属に関する品質管理は不要と誤って判断しており、出荷管理基準がないマニュアルを運用していた」との調査結果を明らかにした。
同工場は今年1月から鉄鋼スラグ製品の製造販売を中止しており、再開は未定。また2013年度決算で取締役以上の役員と監査役計23人の賞与を不支給とした。
◆2014年8月6日 しんぶん赤旗
ー八ッ場ダム工事に有害物 基準超えフッ素ー
群馬県長野原町の八ッ場ダム建設予定地の工事で建設資材として使われた鉄鋼スラグから環境基準を超えるフッ素が検出されたことが5日、判明しました。スラグは溶かした鉄を精錬した際に出る酸化物。同ダム事業では、水没予定地の住民が移り住む代替地の整備工事など、少なくとも18件で問題のスラグを使っており、撤去が急がれます。
「毎日」(5日付)によると、代替地3カ所で採取した砕石を第三者機関で鑑定した結果、環境基準の5~23倍の溶出量のフッ素が検出されました。
高濃度のフッ素は、嘔吐や腹痛などの中毒症状を起こす可能性があります。また、強いアルカリ性があるため、植物を枯らすなどの影響もあります。
スラグは、群馬県渋川市の建設会社が大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」の渋川工場から”購入”したものとみられます。検出された代替地の工事に、この建設会社が関係しています。
環境基準を超えるスラグは本来、産業廃棄物として処分すべきものです。ところが大同特殊鋼は、この建設会社に販売額を上回る手数料を支払う「逆有償取引」を行っていました。同社は、群馬県から廃棄物処理法違反の疑いで調査を受けています。
スラグを買えば買うほど利益を得る建設会社は、スラグに自然石を混ぜて、群馬県内の公共工事などで使用していました。
八ッ場ダム事業をめぐっては、日本共産党の塩川鉄也衆院議員らが6月、現地調査を行っています。調査では、水没予定地の地面に多数のスラグを発見。国土交通省に調査を求めていました。
同ダムが仮に完成した場合、首都圏の住民の生活水源となります。同じスラグが使われた水資源機構の群馬用水では、スラグを撤去しており、同ダム事業でも撤去が求められます。
また、スラグは高台に移転した新「川原湯温泉駅」の周辺整備で使われています。国交省は、9月26日に現「川原湯温泉駅」を閉鎖して、10月にダム本体工事に着手する計画ですが、国交省同ダム工事事務所は「担当者がいないため、わからない」として、本紙の取材に回答していません。
◆2014年8月6日 毎日新聞
http://mainichi.jp/shimen/news/20140806ddm041040132000c.html
ー群馬・八ッ場ダム建設:国道「路床」にも鉄鋼スラグ 使用不可部分 9000立方メートル、行方不明ー
国が群馬県長野原町で建設を進める八ッ場(やんば)ダムの移転代替地に有害物質を含む建設資材が使われていた問題で、同県を走る国道の「路床」にも有害資材が許可なく使用されていたことが毎日新聞の調べで分かった。有害資材は約3・5キロ離れた2カ所で検出され、関係者の証言によると大量使用されたとみられる。一方、ダムや国道の工事に関与した同県渋川市の建設会社では、帳簿上保管されているはずの同種の資材約9000立方メートルの行方が分からなくなっていることも判明した。【杉本修作、沢田勇、角田直哉】
有害資材の無許可使用が確認されたのは、前橋市などで建設中の国道17号バイパスの路床部分。八ッ場ダムの代替地などと同様、資材は大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から渋川市の建設会社が引き取った「鉄鋼スラグ」とみられる。
このスラグを巡っては同国道の「路盤」に使われていたことは判明しているが、路盤への使用は国土交通省に認められている。一方、路床については天然砕石の使用が義務づけられ、渋川市の建設会社は天然100%の砕石を使うとする材料証明書を提出していた。
関係者によると、同社がスラグを路床にも使用したのは、大同特殊鋼の工場から出るスラグの在庫を圧縮するのが目的。厚さが数十センチの路盤だけではスラグを使い切れないが、路床は盛り土部分を合わせると高さ数メートルにも達するため「天然砕石に混ぜて大量のスラグを使うことができた」(関係者)という。
毎日新聞は建設中の国道2カ所からスラグとみられる砕石を採取し、環境省指定の第三者機関に鑑定を依頼。主成分などがスラグの特徴と一致し、環境基準を超える有害物質「フッ素」が検出された。国交省もスラグと特徴の似た砕石を確認し、調べを進めている。
一方、大同特殊鋼から出たスラグと天然砕石を混ぜた資材約9000立方メートルが渋川市の建設会社に出荷後、行方不明になっている。
大同によると、渋川市の建設会社との「逆有償取引」などが問題になった今年1月に群馬県が廃棄物処理法違反の疑いで立ち入り検査したことに伴い、大同の出荷伝票と、建設会社から受け取った建設資材の管理報告書を調べたところ、約9000立方メートルについて行方を確認することができなかったという。県はスラグが廃棄されたり無許可で工事に使われたりした可能性もあるとみて調べている。
渋川市の建設会社社長は「帳簿と合わない理由は分からない。路床に故意に混入したことはない」とし、大同は「行方不明のスラグは今後も調査を続けたい。路床については事実関係を調べている」とコメントした。
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■ことば
◇路盤と路床
道路は、表層のアスファルト▽直下の路盤▽最下層にある路床−−の3層構造で、路盤には砂や小石を混ぜた建設資材が使われる。路床は路盤の下の基礎部分で舗装面から1メートルほど下にあり、公共事業では天然砕石の使用を義務づけられることが多い。国土交通省は路盤にのみ鉄鋼スラグの使用を認めている。
—転載終わり—
上記の記事には、国道17号バイパスで採取した砕石の成分という表と国道17号の写真が載っており、表によれば環境基準を超えるフッ素が検出されたのは前橋市田口町と前橋市上細井町です。写真には「有害資材が検出された付近の国道17号バイパスの壁は、建設途上にもかかわらず盛り上がっていた。鉄鋼スラグは水分を含むと膨らむとされ、その影響の可能性もある=前橋市上細井町で」という説明があります。
◆2014年8月6日 上毛新聞 (以下のサイトでは、紙面記事の後半が省略されています。)
http://www.jomo-news.co.jp/ns/2414072885165683/news.html
ー八ツ場代替地にスラグ 有害物質含む可能性も ー
鉄鋼メーカー、大同特殊鋼渋川工場(群馬県渋川市)の鉄鋼スラグを含む砕石が、八ツ場ダム(長野原町)の代替地整備や生活道路の工事で使われていたことが5日、分かった。同ダム関連では18工事でスラグが使われており、全てで環境基準への適合が確認されている。ただ、他の工事でもスラグが使われた可能性があり、国土交通省が事実関係を調べている。
ダム本体工事は10月にも着工される見通しだが、国交省治水課は「現時点で工期が変わるなどの影響はない」と説明した。
鉄鋼スラグは鉄鋼の製造過程の副産物で、基準を超えたフッ素など有害物質を含む場合がある。国交省関東地方整備局によると、ダム関連では2008~13年度の計18工事で、スラグを含む砕石が生活道路の路盤材などとして使われた。うち16工事は品質規格証明書で環境基準への適合が証明され、2工事も分析試験で基準以下と確認された。
国土交通省は代替地整備の盛り土には、天然砕石を使うよう義務付けている。ただ、18工事以外でも、スラグを含む砕石が、代替地の盛り土などに使われていた可能性が浮上。太田昭宏国交相は5日の記者会見で有害物質の有無などについて早急に調べる意向を示した。
長野原町の萩原睦男町長は「国からは18工事の結果を教えてもらった時点で安全性に問題はないと聞いている」とした上で、他の工事でも使われた可能性が否定できない観点から「国に事実関係の確認をお願いした」と述べた。国交省八ッ場ダム工事事務所は「県や上級機関と相談して対応したい」としている。
—転載終わり—
上毛新聞は関係住民の多くが購読している地元紙です。水没予定地住民がやむなく移転させられた代替地に有害資材が使われていたという衝撃的なニュースの影響を考慮してか、上記の記事は、八ッ場ダム関連では「18工事でスラグが使われており、全てで環境基準への適合が確認されている」と言いきっています。
この根拠とされているのは3月28日の国交省関東地方整備局による記者発表です。
以下の記者発表では、八ッ場ダム事業で鉄鋼スラグが使われたことが確認されている18工事のうち、「16工事は品質規格証明書で環境基準への適合が証明され、2工事も分析試験で基準以下と確認された。」としており、上毛新聞記事でもこの文言がそのまま使われています。
◆国土交通省関東地方整備局 記者発表資料 「鉄鋼スラグを含む砕石の分析試験結果について」(平成26年3月28日)
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000101962.pdf
八ッ場ダム事業で環境基準を超える鉄鋼スラグが使用された問題について、最初に報道した毎日新聞の記事では、有害物質の検出場所が地図で示され、川原湯地区と横壁地区の代替地であることはわかるものの、工事名は書かれていません。
国交省関東地方整備局の記者発表によれば、16工事は「品質規格証明書で環境基準への適合が証明され」ているものの、分析試験は行われておらず、2工事は「分析試験で基準以下と確認された」ものの、工事現場の一部の鉄鋼スラグを分析試験に供しただけです。地表からは見えない部分に使われていたり、家屋等が建っている場所に使われている鉄鋼スラグまでは調査されていません。
長野原町の萩原睦男町長によれば、「国からは18工事の結果を教えてもらった時点で安全性に問題はないと聞いている」ということですが、18工事の安全性が確認されているわけではありません。
八ッ場ダム事業では、水没予定地住民の移転を「現地再建ずり上がり方式」によって行うことが地元のダム受け入れの条件として1985年に決まり、ダム湖予定地周辺の「代替地計画」が進められてきました。
しかし、1990年代に完成するはずだった代替地はいまだに造成中で、代替地の分譲地価も周辺地価よりはるかに高額であり、大規模盛り土造成地の安全性、川原湯温泉の再建の困難さなどが秋からになってきました。このため、多くの住民が代替地への移転をあきらめ、他地区へ転出していきました。
当初は300世帯以上の住民の移転地として計画された広大な代替地には未分譲の場所が多く、国交省は追加の分譲募集を行うこととなっています。
有害資材は住宅地や観光地に使われてはならないものであり、早急な撤去が必要です。民間の売買であれば、このような土地を分譲した不動産業者は当然、多額な賠償を請求されるでしょう。