12月26日に国交省関東地方整備局が調査結果を公表した有害な鉄鋼スラグについて、この問題を追及してきた毎日新聞の全国面に解説記事が掲載されました。

 八ッ場ダムの本体工事の着工を来月に控え、ムダな公共事業批判にさらされる国は、ダムを予定通り2020年に完成させなければならず、スラグ問題の早期幕引きを図りたいのかもしれませんが、26日の調査結果は問題解決から程遠い実態を露呈するものでした。

 八ッ場ダム湖周辺にひろがる水没予定地住民の移転代替地に有害スラグが使用された問題は、地すべりと共に住民の生活再建を根底から揺るがす深刻な問題です。八ッ場ダム事業では他に例を見ない大規模な代替地を造成しているため、嵩んだ費用が代替地の分譲価格に転嫁されています。
 国交省八ッ場ダム工事事務所は水没予定地住民に対して、代替地の希望を今年中に出すよう要求しており、住民は周辺地価よりはるかに高額な上、スラグの有害性が危惧される代替地を購入するか、他地区へ移転するかの選択を迫られています。
 
 今回の調査は、9月29日の群馬県議会産経土木委員会における群馬県特定ダム対策課長の説明によれば、「八ッ場ダム事業区域内における代替地の造成等に本来天然の砕石のみの使用を求めているところに大同特殊鋼の鉄鋼スラグが使用されている疑いがあるというような報道があることを受け」、「鉄鋼スラグの混入の有無を判定する作業」でした。
 しかし、有害スラグの撤去が必要とされた場所は、八ッ場ダム事業区域内で「有害スラグがあることが判定された場所」ではなく、八ッ場ダム事業区域内の一部を掘削し、「有害スラグを天然砕石とまぜた塊の状態で分析した結果、環境基準値を超えた場所」でした。
 以上のことから、国交省による調査には、少なくとも次のような問題があります。

・調査個所が代替地の一部であること。
・鉄鋼スラグが表面に露出していない場所は、調査対象から除外されていること。(代替地は30メートル超の盛土造成地である。)
・宅地の調査は、住民から要望がないことを理由に、ほとんど行われていないこと。
・国交省八ッ場ダム工事事務所に住民の要望を聞く姿勢はみられず、問題の矮小化を図る説明に終始していること。
・有害スラグの分析方法は、有害スラグそのものではなく、天然砕石と混合した塊の状態で環境基準値と照らし合わせた結果を公表していること。(本来は、有害スラグ単体で分析しなければならない。)

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◆2014年12月30日 毎日新聞東京朝刊
 http://mainichi.jp/shimen/news/20141230ddm003040044000c.html
ークローズアップ2014:広がる有害スラグ 根深いリサイクル偽装ー

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の移転代替地の整備工事などで有害物質を含む建設資材「鉄鋼スラグ」が使われていた。国土交通省が26日に公表した分析結果では、スラグ使用の疑いがある国発注の56工事のうち27工事で環境基準を超える六価クロムなどが検出された。スラグを巡っては過去にもトラブルが繰り返されており、その背景に本来は産業廃棄物であるスラグの再利用を巡る「リサイクル偽装」とも言える構造的な問題が浮かぶ。【杉本修作】

 ◇「手数料」付け販売

 問題となったスラグは、大手鉄鋼メーカー・大同特殊鋼(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から排出され、その大半を渋川市の建設会社が販売または自社の工事に利用したとみられる。スラグは本来、環境基準を下回っていることを前提に道路の路盤材などに許可を得て使用できる。だが今回は、群馬県内の公園や駐車場で使われたスラグから基準を超える有害物質が次々と検出され、本来使用が認められていない宅地にも使われていた。

 スラグは鉄精製時に出る副産物で、石や砂利の形状をしている。さまざまな化学物質が残存することがあり、そのままでは廃棄物処理法上の産業廃棄物となる。一方で、建設資材などとして以前から再利用され、1991年施行の「再生資源の利用の促進に関する法律」(リサイクル法)でも指定対象となった。

 大同の渋川工場も90年代半ばからスラグの製品化を始め、最盛期で年間2万トンを建設資材として出荷した。だが、毎日新聞が入手した2009年の売買契約書によると、大同側は渋川市の建設会社に1トン当たり100円で販売しながら「販売管理費」として1トン当たり250円以上(出荷量に応じて変動)を支払っていた。製品を売る側が販売額以上の費用を別の名目で支払うこうした取引は「逆有償取引」と呼ばれる。

 スラグを廃棄物として処分するには遮水などの管理が必要で、1トン当たり2万〜3万円の費用がかかるとされるが、逆有償取引なら輸送費などを負担しても同数千円程度とみられ、格段に安価だ。一方、買い取る側は購入した分だけ逆に収入が増えるため、適正な使途のあてがないのに取引を続けることになりかねない。渋川市の建設会社OBは「大同から『スラグを取りに来い』と言われれば全て引き受けた。使い道がないから許可されていない工事にも使わざるを得なかった」と証言する。

 逆有償取引は07年、山陽特殊製鋼(兵庫県姫路市)でも発覚し、リサイクル販売とされた約10万トンのスラグが淡路島で野積みのまま放置されていた。山陽は買い取り業者に運搬費など1億数千万円を支払ったとみられるが、仮に全量を廃棄物として処分していれば20億〜30億円の費用がかかった計算だ。

 スラグは原材料の3〜4割、年間約4000万トン生成されているが、鉄鋼スラグ協会(東京都中央区)のまとめによると、99%が再利用され、廃棄物などの埋め立て処分はほとんどないとしている。再利用の約半分を占めるセメント製造は100年以上の実績がある一方、近年は路盤材などの「逆有償取引」が繰り返されている。ある製鉄関係者は「スラグを廃棄物処分すれば鉄鋼価格に反映され国際競争力は保てない」と打ち明け、「リサイクル偽装」の根深さを示唆した。

 ◇格安、行政にもメリット

 有害スラグの拡散を生んだ別の理由として、建設業界からは行政の不作為を指摘する声も少なくない。

 スラグを使った建設資材は元手があまりかからず、競合する別の資材と比べて価格が3〜4割ほど安いとされ、費用を抑えたい自治体にとっては「渡りに船」という。群馬県では10年6月に県内工事での使用が認められたのを機に、市町村や国の出先機関で利用が広まった。だが、行政による資材の検査は行われず、安全管理は業者任せだった。

 スラグ以外の資材を扱う業者は「あれだけ安く売られたら勝負にならない。行政もそのことを知りながら(有害物質拡散の懸念を)放置していた」と憤る。

 26日に国交省が公表した調査結果に対しては、八ッ場ダム移転代替地の住民に国への不信感ものぞく。今回調査された無許可の56工事の大半は国の管理地で、住民に分譲された土地については「調査に地権者の同意が必要」だとして、一部しか行われなかった。

 ある住民は毎日新聞が八ッ場ダムの問題を報じた8月以降、国交省八ッ場ダム工事事務所の担当者が住民説明会で「住宅地にスラグは使われていない」と強調していたと証言。宅地の下にスラグが使用されていれば土壌や住民の健康に影響を及ぼす可能性もある上、撤去も困難だ。26日の国交省関東地方整備局による記者会見でも担当者は「使われたのは家の下ではなく敷地内。庭の一部」と強調し、影響を最小限に抑えたいとの思惑が垣間見える。長野原町の70代男性は「国が調査結果を公表しても、それだけでスラグの使用がとどまるとは思えない。調査で幕引きしようとしている」と危機感を募らせる。

 一方、スラグを取り扱った渋川市の建設会社は、群馬県以外に長野県などで工事を受注しており、そうした工事に有害スラグが利用された可能性も否定できない。環境問題に詳しい粕谷志郎・岐阜大名誉教授(環境生態学)は「行政は安全管理を業者任せにせず、汚染防止に主体的に取り組むべきで、スラグについても問題がある以上、使用されている資材を徹底して調査すべきだ」と話している。

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 ◇鉄鋼スラグを巡る主な事件やトラブル

2005年
 7月 「神鋼スラグ製品」(神戸市)が親会社の神戸製鋼からスラグを買い取った価格が通常より高く、親会社に所得を移転したとして大阪国税局が所得隠しと認定していたことが発覚

10月 JFEスチール東日本製鉄所千葉地区(千葉市)で、スラグの堆積(たいせき)場から汚染水が海に流出しながら水質測定データを改ざんしたとして社員3人を水質汚濁防止法違反で略式起訴

2007年
 8月 山陽特殊製鋼(兵庫県姫路市)がスラグをリサイクル販売した形を取りながら引き取った業者に販売額以上の運搬費などを支払う「逆有償取引」を行っていたことが判明。スラグは野積みされ健康被害を訴える苦情が相次ぎ、山陽が自社で撤去

2010年
 2月 新日鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)でスラグを積んだ敷地内から高アルカリ水が名古屋港に流出していたことが発覚

2014年
 1月 大同特殊鋼(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)でスラグの逆有償取引が判明。群馬県が同社を立ち入り検査

 8月 八ッ場ダム(同県長野原町)の移転代替地でも大同渋川工場から出たとみられる有害スラグが使用されたことを毎日新聞が報じる

 10月 名古屋市上下水道局が発注した水道管の取り換え工事で特定の数社が請け負った約220カ所で道路が盛り上がるなどのトラブルが生じていたことが判明。埋め戻し材にスラグが使われ、水を吸って膨らんだためとみられる

〈関連ページ〉
★「八ッ場ダム代替地整備に有害鉄鋼スラグ」(2014年8月5日」
 http://yamba-net.org/?p=8361

★「八ッ場ダム:代替地の調査を開始、鉄鋼スラグ問題で国交省」(2014年9月18日)
 http://yamba-net.org/?p=8727

★「八ッ場ダム関連事業で六価クロムなど基準超える有害物質検出」(2014年12月27日)
 http://yamba-net.org/?p=10113