八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「全国のダムで想定超える土砂 八ッ場は大丈夫?」(東京新聞)

2015年2月8日 東京新聞特報面より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2015020802000130.html
ー全国のダムで想定超える土砂 八ッ場は大丈夫?ー

 全国のダムの四分の一近くで、計画の想定を超える土砂がダム湖にたまっていることが、国土交通省の資料で分かった。計画以上に土砂がたまれば、利用できる水が減り、治水効果も失われる。七日に本体着工式典のあった八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)のダム湖でも、近い将来、土砂に埋まることはないのか。 (篠ケ瀬祐司)

 ダム計画を立てる際には、百年間でダム湖にたまる土砂の量(計画堆砂容量をはじき出す。ダム湖の総貯水容量のうち、どれだけ水をためるのに使えるかを考えるためだ。
 国土交通省が、全国七百五十七のダムについて、ダム湖に堆積した土砂の量を調べたところ、百七十五カ所で、この計画堆砂容量を超えていた。うち八十カ所は、百年どころか、運用開始から五十年未満で計画堆砂容量を突破していた。

 市民団体「水源開発問題全国連絡会(水源連)」が、情報公開で国交省の二〇一二年度ダム堆砂実績調査の結果を入手。それを「戦後河川行政とダム開発」の著書がある民間のダム研究家、梶原健嗣氏が分析した。国交省がデータを示した全国九百七十三のダムのうち、計画堆砂容量が未設定や、運用開始から十年未満のダムを除いて検討した。
 想定以上に土砂が堆積すると、利用できる水の量の減少や、洪水を防ぐ能力の低下を招く。土砂がたまり続ければ、最悪の場合、ダム湖が埋まってしまい機能不全となる。梶原氏は、中でも五十五のダムは、運用開始から百年以内に埋まるペースでたまっていると指摘する。

 梶原氏は「不要不急のダムを建設するのではなく、堆砂対策をはじめとする既存のダムのメンテナンスをしっかり行うことが、厳しい財政状況の中での最優先課題だ」と警鐘を鳴らす。
 梶原氏が全国のダムで「最も深刻だ」と指摘するのは、北海道日高地方にある二風谷ダムだ。
 利水、治水など多目的ダムで、一九九六年に試験的に水をため始めると、〇三年には当初の計画堆砂容量五百五十万立方メートルを超える土砂がたまってしまった。
 一二年度調査では千六百六十七万立方メートルの土砂がたまっていた。約十五年で、総貯水容量三千百五十万立方メートルの半分以上が埋まったことになる。

 国交省北海道開発局は「計画堆砂容量にはまだ余裕がある」(河川管理課)という。〇七年に計画堆砂容量を千四百三十万立方メートルに引き上げた。一〇年ごろからは「ダム湖底に四百八十万立方メートルのくぼ地がある」と言いだした。くぼ地にたまった土砂堆砂実績から差し引くから、今の堆砂は計画堆砂容量を超えていないというのだ。
 河川管理課は「上流に建設中の平取ダムが完成すれば、二風谷ダムの水位を落として運用するので、土砂が通過しやすくなる」などの理由で、当面問題ないと説明する。

 二風谷ダム問題に取り組んできた北海道自然保護協会の佐々木克之副会長は「開発局の計算は非科学的だ」と憤る。
「七〇年代に行われた専門家の調査では、想定される年平均の土砂堆砂量は約九十二万立方メートルだった。(開発局は当初)そのわずか6%程度の年平均五万五千立方メートルとの数字を使って洪水調節機能を大きく見せて、ダム建設の正当性を誇張したのではないか」
 会計検査院は昨年十月、土砂堆積で治水機能が低下しているダムが全国に百六ヶ所あるとして、対策をとるよう求めた。

 国の堆砂見込み疑問 近隣ダム 85%埋まった

 八ッ場ダムは、一月二十一日に本体工事が始まった。今月三日に現地を訪れると、ダム本体の上部にあたる吾妻川左岸で重機が動き、ダンプカーが行き交っていた。ダム湖に沈む予定の旧国道145号は一般車両の通行が制限され、地域住民も通れなくなっていた。

 完成後、このダム湖の土砂はどうなるだろうか。
 八ッ場ダムは総貯水容量一億七百五十万立方メートル、計画堆砂容量は千七百五十万立方メートルだ。一一年のダム事業検証で、国交省は「堆砂計画は妥当」と判断している。
 検証では八ッ場ダムの半径三十キロ以内にあるダムのうち、群馬県安中市の霧積ダム、長野県内の湯川、菅平の両ダムで堆砂実績を使って検討。八ッ場ダムへの流入、流出土砂の量を、複雑な式を使って計算している。
 計画堆砂容量にとどまれば、百年後であっても八ッ場ダムのダム湖は約15%しか土砂で埋まらず、計画している利水、治水能力も影響を受けない。

 この検証方法に対して水源連の嶋津暉之共同代表は疑問を投げかける。近隣にあり、周辺の地質が似ている品木ダム(群馬県中之条町)の実績を考慮すべきと主張している。「流れ出る土砂の割合を大きく見積もりすぎている」というのだ。
 
 品木ダムは八ッ場ダム建設地から北西十数キロにある。一二年度の堆砂量は百四十三立方メートル。計画堆砂容量の約三・五倍もたまっている。完成から五十年たたずに、ダム湖は85%以上が埋まった。
 ダム湖では一二年度までに、計七十一万立方メートルをしゅんせつした。しゅんせつ物は土砂が六割で、残る四割は、酸性度が高い吾妻川支流を中和した際にできた中和生成物や、未反応の石灰だ。
 嶋津氏は、堆積物もしゅんせつ物も六割が土砂だと仮定。集水面積あたりの年平均堆砂量を計算した。すると品木ダムは約八百九十立方メートル。八ッ場ダムの二百四十七立方メートルの三・五倍以上のペースで、ダム湖に土砂がたまっていることになる。

 嶋津氏は「八ッ場ダムは堆砂見込みが極めて過小であり、仮に完成しても比較的早く機能が低下するだろう。全国的にみても、堆砂速度が計画より大幅に早く、治水、利水機能が低下しているダムが少なくない」と指摘する。

 上流部に火山 流入しやすい

 品木、八ッ場の両ダム上流部には火山である草津白根山、浅間山がある。地元の地質研究者で日本地質学会会員の、中村庄八氏は「この地域には火山から噴出し、まだ固まっていない土砂が多い上に、熱でもろくなった「熱水変質帯」もある。ダム湖に土砂が流入しやすい環境といえる」と話す。

 地盤のもろさは、ダム湖の堆砂以外にも影響する。
 八ッ場ダムの本体工事現場から数百メートルの「付け替え国道」145号の路肩で、昨年秋、約五十メートルにわたって亀裂が走っているのが見つかった。
 現地を訪れた三日も、亀裂ができたままだった。付近のコンクリートや鋼材は赤茶色に変色していた。熱水変質帯が道路の建設工事で露出し、酸化してさらに弱くなり、地滑りが始まっている可能性が指摘されている。
 市民団体「八ッ場あしたの会」が昨年、国土交通省関東地方整備局に原因や崩落防止策を求める公開質問状を送ったが、これまでに回答は得られていない。

 デスクメモ 自民党政権で大型公共事業が次々と息を吹き返している。民主党政権下で始まった全国八十三ダムの検証作業。半分以上の四十六で建設継続、中止が決まったのは二十一にすぎない。残りは検証が続く。財政が厳しい中での優先順位。国民の命を守るのは、福祉かダムか。ここはもう一度よく考えてみたい。(国)

—転載終わり—

(写真下=上記の記事が報じている、地すべりが発生している八ッ場ダム予定地の付け替え国道のり面と亀裂。付け替え国道の地すべり調査を群馬県が行っているとされるが、地すべりの原因と考えられる白茶けた熱水変質帯が道路の手前の住民の移転代替地にも広がっている。)

地すべり法面shuku

亀裂が広がっているshuku