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八ッ場ダム東京訴訟最高裁決定に対する抗議声明

八ッ場ダムをストップさせる東京の会より、このたびの最高裁の決定に対する抗議声明を送っていただきましたので転載します。

 八ッ場ダム東京訴訟最高裁決定に対する抗議声明
                                       2015年9月15日

 最高裁判所第一小法廷(櫻井龍子裁判長)は、本年9月10日付けで、八ッ場ダムに関する公金支出差止等請求住民訴訟(東京事件)に対する決定を下した
 決定は、上告を棄却する、上告審として受理しないという不当極まりないものであった。上告人兼上告受理申立人らは、最高裁に向けて、これまでに300頁を超える理由書と、第1ないし第6の6回にわたる理由補充書を提出し、控訴審である東京高裁判決の誤りを明らかにしてきた。しかるに、最高裁判所第一小法廷は、わずか数行の理由を述べるだけで上記の決定を行った。これは、最高裁に課せられた使命、下級審の誤りを正す使命をかなぐり捨てるものであって、厳重に抗議する。

 今日の利根川治水計画は、八ッ場ダム等のダム建設を合理化するために策定されたものである。しかし、国交省はこの治水計画の根幹である基本高水の毎秒2万2000㎥を説明すらできないものであった。そして、国交省がすがった日本学術会議も、また同じくその説明ができなかった。
 こうした不当不合理な治水計画に基づく流域都県の巨額の負担金の支出について、住民が住民訴訟として争うと、裁判所は国の計画や行政処分は、重大かつ明白な違法ないし瑕疵がなければ違法との判断はできないとし、住民らはそれを立証していないとした。
 私たちは、最高裁において、八ツ場ダム計画の不合理性は重大かつ明白であると重ねて強く指摘した上、一連の高裁判決の判断は、国と地方自治体との関係を上命下服、上意下達の関係と扱うもので違法であり、憲法(92条、94条)に違反するものと強く主張し、また、高裁の判断は、従前の最高裁判例にも抵触するものであると、強く主張してきた。
 しかるに、この度の最高裁決定は、「本件上告の理由は、違憲を言うが、その実質は単なる法令違反を主張するもの」として、上告の申立をすら認めなかった。
 今般の決定に限らないが、最高裁は、司法府に託された行政権への監視監督の役割を全く放棄したものと言わざるを得ない。
 このような最高裁の下では、放漫な公共事業も野放しとなる。

 司法の役割を放棄した最高裁決定で悪しき河川行政が罷り通る。
 折しも、今回の台風18号で鬼怒川の堤防が決壊し、甚大な被害が発生したことは、大規模ダムの建設に河川予算の大半を投入するダム優先の河川行政の誤りを露呈させるものになった。
 鬼怒川上流には国交省の大規模ダムが四基もあり、そのうちの湯西川ダムは2012年に完成したばかりである。これら4ダムの治水容量は八ッ場ダムの2倍もあり、今回の洪水では計画どおりの洪水調節が行われたが、鬼怒川下流で堤防が決壊し、甚大な被害をもたらした。洪水時の雨の降り方は様々であり、上流ダムで洪水調節をしても、中下流域での降雨が卓越すれば、中下流は氾濫の危険にさらされる。今回の鬼怒川堤防決壊はその典型例であった。ダムでは流域住民の安全を守ることができないのである。
 流域住民の生命・財産を守る喫緊の治水対策は、いかなる雨の降り方にも対応できるように堤防の強化を図り、決壊を防止できるようにすることであるが、国交省の河川行政は大規模ダムの建設を優先し、堤防の強化を怠ってきた。
 本訴訟はそのような誤った河川行政を根本から正すことを企図したものであったが、今回の最高裁決定で、悪しき河川行政が罷り通ることになった。

 八ッ場ダムの問題は治水面だけではない。縮小社会に入り、水余りが一層進行して利水面での不要性がますます顕著になっていくこと、ダム予定地は脆弱な地層が広く分布しており、深刻な地すべりが誘発される危険性が十分にあること、吾妻渓谷をはじめ、かけがえのない自然が失われることなどの問題があり、それらも含めて八ッ場ダムの不要性・不当性を訴えたが、最高裁はそれらのことに関しても判断を回避した。
 最高裁の理解を得られなかったことは非常に残念であり、司法のあり方の根幹が問われる重大な結果である。私たちは住民の生命・財産を守る真の治水政策への転換を求め、闘い続けることを表明する。今後とも利根川流域5県の住民訴訟の弁護団および上告人とともに手を携え、八ッ場ダムの不要性・不当性を訴えて活動していくことを表明する。今後とも皆様のご支援をお願いしたい。

 八ッ場ダムをストップさせる東京弁護団  弁護団長 高橋利明
 八ッ場ダムをストップさせる東京の会代表  深澤洋子

—転載終わり—

 群馬と茨城でも、最高裁決定に対する抗議声明が出されたとの連絡がありました。八ッ場ダム住民訴訟のホームページにそれぞれの抗議声明が掲載されています。

 ○群馬の抗議声明 http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/gunma_s/gunma_s_seimei.pdf

 ○茨城の抗議声明  http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/ibaraki_s/ibaraki_s_seimei.pdf

 ○埼玉の抗議声明 http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/saitama_s/saitama_s_seimei.pdf

 ○栃木の抗議声明 http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/tochigi_s/seimei.pdf