八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

有害スラグ問題についての(株)大同特殊鋼の対応と学習会レポート

 群馬県が9月、群馬県警に(株)大同特殊鋼ら三社を刑事告発したことにより、有害スラグ問題は新たな局面を迎えました。
 群馬県は鉄鋼スラグの使用箇所の解明を進めていくとして、公共工事については各市町村に要請し、民間工事については、大同特殊鋼に調査をし、県に報告するよう指示をしたとしています。(9月18日 群馬県議会本会議における環境森林部長の答弁より)。

 キャプチャこれを受けて、大同特殊鋼は同社サイトのトップページで、「鉄鋼スラグ使用工事 お問い合わせ窓口」を設け、個別の事案についての相談を受け付けています。
http://www.daido.co.jp/

 有害スラグは調査が進められている公共工事現場だけでなく、県内の民有地でも使われており、群馬県、大同特殊鋼には一般の住民からの問い合わせも相当数あるようです。

「ぐんま有害鉄鋼スラグ問題を考える会」の現地調査と学習会レポート

 さる2015年10月3日、「ぐんま有害鉄鋼スラグ問題を考える会」の現地調査と学習会が開かれました。
 午前中に渋川市内と周辺地域でスラグが不法投棄された場所を見学、午後は東京農工大学准教授の渡邉泉氏、日本科学者会議会員の齋藤安史氏のお話しを伺いました。

 大同特殊鋼の企業城下町と言われる群馬県渋川市では、市の協力の下、有害スラグの投棄場所として公共工事現場が長年利用されてきました。最初に問題が発覚したのも渋川市です。
 9月県議会で取り上げられた渋川広域圏の一般廃棄物処理場は、大同の関連会社が長年にわたって管理をしていました。灰を3メートル、その上に土砂を50センチ盛るのですが、その土砂にスラグが使用されていたのです。

 鉄鋼スラグ写真1 しかし、有害スラグが使用されていたのは渋川市だけではありません。八ッ場ダム関連工事、上武国道の擁壁工事、農道、ソーラーパネルの下、民有地など、県内のいたるところで有害スラグが大量に使用されてきたことが明らかになりつつあります。(右写真=見学場所に転がっていた鉄鋼スラグ)

 (株)大同特殊鋼の本社がある愛知県では、鉄鋼スラグを天然砕石と混合させて、地表に露出した状態や土壌、地下水に影響を与える状態で工事に使用することが禁じられています。群馬県における有害スラグ問題は、規制を緩くしてきた行政と企業との長年の馴れ合いの結果であり、露見しているのはまだ氷山の一角という見方もあります。
 榛東村の処分場は吉岡町の水源に排水が流れこむ沢の上にあり、水源への今後の影響が懸念されます。
 利根川の河川敷にある大崎緑地公園では、4×100メートル以上に有害スラグが敷かれているとの報告もありました。
 すべて撤去すれば費用が巨額になることから、撤去箇所を最小限に絞りたいという意向が働いているようですが、有害物質の経口摂取、土壌汚染、地下水汚染、「膨張」による建築物等への影響を踏まえれば、有害スラグは直ちに撤去する必要があります。

 鉄鋼スラグで問題とされている有害物質の一つが「フッ素」です。製鋼過程において不純物除去のために「蛍石」を使う結果、製鋼スラグがフッ素を多く含んでしまうのです。一般には有害性の問題があることから、蛍石を使用することは少なくなっていますが、群馬県内では蛍石が採掘されることから、大同特殊鋼渋川工場では蛍石の使用が続けられてきました。もう一つ問題とされているのが「六価クロム」です。六価クロムは重金属の中でグループ1であり、最も危険性が高いとされています。
 これら重金属は目にみえず、匂いもせず、分解もされないことから、蓄積性が高く、「直ちに影響がない」から安全とは言えません。長期的な健康被害を考えた場合、四大公害病と同じ構造で、半永久的な問題となり立証が困難になります。

 さらに問題なのが、有害スラグの「膨張」という性質です。スラグが水を含むと、スラグの中の生石灰と水が反応し、膨張する性質があります。これを回避するためには、適切なエージング処理(水を含ませる作業)によってスラグを安定化させる必要がありますが、大同特殊鋼渋川工場から排出されたスラグはこの処理を行っていませんでした。建築物の地盤に有害スラグが埋められている場合、時間の経過とともに地盤の変形によって、建築物に亀裂が生じたり、歪んだり、傾いたり、という深刻な影響を及ぼす可能性があります。

 「膨張」の問題が懸念されている場所の一つに八ッ場ダム予定地住民の移転代替地があります。八ッ場ダム事業で使用された鉄鋼スラグは、地表に露出しているものは撤去作業が行われてきていますが、地中の調査は殆ど行われていません。たとえ使用されたスラグが”生一本”でなかったとしても、大量に使えば地盤に影響すると考えられ、時限爆弾を抱えた状態という指摘すらあります。しかし、国交省は住民から要望がない限り調査できないとしています。
 
★見学箇所の写真
スカイランドパーク ・渋川市では市立小中学校、体育館、遊園地で敷き砂利としてスラグが使用され、今もむき出しの状態となっています。現場は立ち入り禁止になってはいますが、風で六価クロムなどが飛散しないか心配されます。

硬くて釘が入らない。 ・親子連れが訪れる遊園地、渋川スカイランドパークの駐車場では「生一本」と呼ばれるスラグが使用され、いまだ撤去されず、むき出しのまま放置されています。大きなスラグが今も転がっており、鉄筋を打っても固くて土中に入っていきません。
(写真右=渋川市議会でスラグ問題を追及してきた角田喜和市議がスラグが埋められた駐車場に鉄筋を打ってみたが、硬くて中に入らない。)

上武国道 ・上武国道でも、テールアルメ工法の擁壁工事でスラグを使用してきました。(利根川を渡る上武国道の橋付近)