9月の鬼怒川水害から三ヶ月を機に、茨城版各紙が特集を組んでいます。昨日の毎日新聞は鬼怒川水害を予言したともいえる嶋津暉之さん(当会運営委員)の住民訴訟での証言を取り上げました。
今回の水害を教訓として、治水効果の低いダム偏重の河川行政を改め、より安価な堤防強化工法を導入した堤防整備に予算を重点配分することが求められているのですが、いまだその兆候はありません。
◆2015年12月13日 毎日新聞茨城版
http://mainichi.jp/articles/20151213/ddl/k08/040/078000c
ー「治水政策「ダム優先」 遅れた堤防整備 大水害の備え、時間との闘い」ー
「治水効果が希薄なダム建設に巨費を投じるべきではない。鬼怒川下流は(洪水を流す)流下能力の確保が非常に遅れている。堤防のかさ上げ、河道を掘削して断面を大きくする必要があり、治水費用を優先的に投入すべきだ」−−。2008年4月9日の宇都宮地裁。鬼怒川水系上流部の湯西川ダム(栃木県日光市)を巡る公金支出差し止め住民訴訟で、原告側証人として出廷した水問題の専門家、嶋津暉之さん(72)はこう述べた。訴訟は原告側が敗訴。嶋津さんの証言から7年5カ月後に常総市三坂町で鬼怒川の堤防が決壊。不安は現実となった。
× ×
嶋津さんは東京大大学院で工学を学んだ後、東京都環境科学研究所で、河川と水質の研究を重ねてきた。ダム建設偏重の河川行政に疑問を持ち、住民訴訟に協力。現在は「水源開発問題全国連絡会」(横浜市)共同代表として、各地で講演活動を行っている。
鬼怒川水系上流部には総事業費約1840億円をかけて12年に完成した湯西川と、五十里▽川俣▽川治(いずれも栃木県日光市)−−の四つのダムがある。建設目的の一つは、ダムの放流量を減らして下流の水位を抑え、氾濫を防ぐことだ。だが今回、ルール通りに洪水調節を実施したにもかかわらず、氾濫を防げなかった。
豪雨の際、ダムに水をためれば、上流部分の水位を抑えることはできる。しかし、雨は中流、下流にも降り注ぐ。しかも、鬼怒川は中流部の川幅は600〜700メートルあるが、下流部は半分程度しかなく、水位が上昇しやすい地形。「ダムでは安全を守れない」と考える理由だ。
国土交通省関東地方整備局は今回の豪雨に関連し、四つのダムの治水効果を公表。常総市水海道では、ダムによって水位を約25センチ低下させたほか、鬼怒川下流東側の浸水域、氾濫水量をそれぞれ3分の2に抑え、約40平方キロ、3400万立方メートルになったと試算する。だが氾濫によって犠牲者や大きな被害が出たという事実は動かせない。
× ×
国は堤防整備へ向け、ようやく動き出した。関東・東北豪雨後、鬼怒川や小貝川の河川整備計画策定へ向けた有識者会議を約7年ぶりに開催。国交省や県などは4日、「鬼怒川緊急対策プロジェクト」を発表し、ハード対策として、支流の八間堀川も含め20年度までに約600億円を投じることを盛り込んだ。堤防のかさ上げ・拡幅に加え、川底を掘って流れる水量を増やすなど、集中的に河川改修を行う。鬼怒川の堤防整備率を43・1%から74・9%へ、このうち遅れていた県内は17・4%から93・0%へ引き上げる計画だ。
とはいえ、拡幅には用地買収が必要なケースもある。国交省関東地方整備局の檜森裕司専門官は「用地で支障となる場所は少なく、買収は十分可能だ」と自信を示すが、嶋津さんは「時間を要して計画倒れに終わる可能性もある」と懸念する。
温暖化の影響もあり、局地的な豪雨や台風の大型化が目立つようになった。大水害はいつ起きても不思議ではない。その時、備えは間に合っているのか。時間との闘いでもある。【安味伸一】