八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムの基礎岩盤の掘削量

 こちらのページでお知らせしましたように、さる11月22日、国交省関東地方整備局は事業評価監視委員会を開催し、八ッ場ダムの再評価に関する資料を公開しました。
 この資料の中に、「事業費の内訳書」があり、「ダム費」について、以下のように表示されています。

 ●八ッ場ダムの資料2-2-② 97ページhttp://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000660815.pdf
キャプチャ
 
小蓬莱より 八ッ場ダム事業では、本体工事の第一段階である「基礎岩盤の掘削工事」が2015年1月に開始され、今年9月に終了、10月より堤体部のコンクリート打設が始まっています。
 この表では、「本体掘削」は数量84万1,068立方メートル、179億1,400万円、堤体工は100万9,814立方メートル、263億2800万円となっています。(写真右=両岸の山が削られている八ッ場ダム本体工事現場)

 基礎岩盤の掘削量は、2014年の本体工事の入札公告では60万立方メートルでした。今年9月、千葉県は基礎岩盤の掘削量を約70万立方メートルと回答し、国交省の数字であると説明しています。
 上記の表の掘削量84万1,068立方メートルと入札公告の60万立方メートル、千葉県による国交省回答の70万立方メートルとはどのような関係にあるのでしょうか?

 国交省関東地方整備局河川計画課の担当者に問い合わせたところ、次の説明がありました。

 「入札公告にあった60万立方メートルは、ダムの天端(標高583メートル)より下の掘削量で、堤体工と減勢工を合わせた掘削量である。
 60万立方メートルより大きい数字は、天端より上の掘削を含めた数量である。
 ダム建設予定地の吾妻川の右岸側(川原湯地区)では、天端より上の掘削は本体工事とは別に行うことになっていたが、契約をうまくできず、本体工事を受注した清水建設共同企業体(JV)が行うことになった。
 左岸側(川原畑地区)の天端より上の掘削工事は、本体工事とは別に関連工事として行っていた。これらの掘削量を含めたのが84万立方メートルである。
 清水共同事業体との本体工事の契約書の数字は掘削量69万㎥、コンクリート量101万㎥である。5年契約で、2018年10月までとなっている。」
(カッコ内は当会による補足説明)

 また、98ページの残事業費の表(下の表)に書いてある堤体工の数量156,754立方メートルについて、国交省の担当者は次のように説明しました。
 「156,754㎥は平成28年度以降で未契約の分を示している。一期工事の契約に入っていなかった分と、基礎岩盤掘削で出てきた弱部を埋めるために必要になった分が156,754㎥である。」

キャプチャ残事業費

左岸作業ヤード 本体工事現場では、両岸の山が切り崩され、それぞれ作業ヤードが設けられています。84万立方メートルという掘削量は、両岸の作業ヤードを造成するための掘削量を含めた数字というわけです。
70万立方メートルという数量は、清水共同事業体との契約書に記載された69万立方メートルに対応しており、左岸の天端以上の掘削量が除かれた数字であるようです。(写真右=左岸作業ヤード)

 本体右岸の天端より上の掘削工事が遅れたことは、当会の公開質問書(2014年12月9日付)に対して国交省関東地方整備局が2015年2月27日に出した回答で明らかになりました。(参照➡「八ッ場ダム本体工事の工期に関する公開質問への国交省回答について」
 入札情報によれば、2014年3月、「八ッ場ダム本体右岸上部掘削・造成工事」の入札公告が出され、同年6月、「右岸上部掘削・造成工事」の入札公告が出されたものの、いずれも入札不成立でした。このため、本体工事を受注した清水JVが右岸上部の掘削工事を請け負ったものとみられます。

 2015年9月5日に本体工事の右岸側を撮ったのが下の写真です。天端の標高の位置にオレンジ色の網が見えます。天端以上の掘削工事が始まったばかりであることがわかります。その右手では、右岸作業ヤードへ行くための工事用道路の建設が進められているのが見えます。
 展望台から右岸眺望 (2)

 下の写真は、現在、左岸作業ヤードとなっている場所を2009年5月に撮影したものです。八ッ場沢の流路工が見えますが、周囲の山並みは、この時はまだ自然の姿のままでした。現在、流路工の右手の山は左岸作業ヤードをつくるために切り崩され、左手の岩山も山頂が削られて本体工事の展望台「やんば見放台」となっています。

八ッ場沢砂防、手前に栃螺沢砂防(打越)2009年5月1日

 2009年8月、国交省は民主党が政権公約に八ッ場ダム中止を掲げたことを受けて本体工事の入札を凍結しました。しかし、本体工事のための左岸作業ヤードの掘削工事は開始されていました。
 下の写真は、吾妻渓谷の入り口を2009年11月に撮った写真です。現在はダム本体工事現場として立ち入り禁止となっている場所ですが、当時はまだ家があり、今は廃線となっている国道の八ッ場大橋とJR吾妻線の鉄橋がありました。右上の山が少し削られて、地肌が見えています。
 
09年11月15日 024 (2)

 下の写真は、翌2010年2月、同じ場所を撮った写真です。八ッ場沢の流路工の右手の山が一部削られ、その断面だけ雪が積もっていないので黒く見えます。
2010年2月 本体左岸作業ヤード

川原畑地区字八ッ場 民主党政権発足後、国交省は「生活再建工事」のみを行い、本体工事は2014年になってから始めたはずですが、本体左岸掘削工事は本体工事が凍結されていた間も進められていたようです。

 右の写真は2011年6月の撮影です。地質の断面に酸性熱水変質帯が広がっているのがはっきりと見えます。酸性熱水変質帯は川原畑地区に広く分布している地層で、本体工事現場や付替え国道の走っている場所でも見られます。地元では「山が動いている」とも言われます。

付替え国道の地すべり対策工事 左岸作業ヤードの脇では付替え国道が変形してしまったため、11月よりアンカーボルトを打つなどの対策工事が始まっています。(写真下:2016年11月30日撮影)