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八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持の目的」および「導水路設置と減電補償」に関する公開質問書

 本日、国交省関東地方整備局に提出した公開質問書の全文を掲載します。

 2017年3月1日
 国土交通省関東地方整備局 局長 大西 亘 様

 八ッ場あしたの会
 代表世話人 大熊 孝(新潟大学名誉教授)ほか
 
八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持の目的」および「導水路設置と減電補償」に関する公開質問書

 八ッ場ダム建設事業は看過することができない問題をいくつも抱えながら、進められています。今回、それらの問題のうち、二つを取り上げ、貴局の開示資料を使って、「八ッ場ダムの『吾妻川の流量維持』の目的がなくなることによる112億円の負担問題」と「八ッ場発電所からの導水路設置と減電補償の問題」について検討した結果を添付の資料1資料2のとおり、まとめました。
 その検討結果を踏まえて、下記のとおり、質問しますので、文書で真摯にお答えくださるよう、お願いします。
本質問書への回答は3月15日(水)までにFAXでお送りください。
 なお、昨年9月16日に本会が貴局に提出した「八ッ場ダム基本計画変更案(第5回)に関する公開質問書」について、貴局から回答するとの確約はあったものの、いまだに回答をいただいておりませんので、早急にご回答ください。

1 「八ッ場ダムの『吾妻川の流量維持』の目的がなくなることによる112億円の負担問題」

1-1 吾妻川の流量が吾妻渓谷付近でわずかになることが多かったのは、東京電力・松谷発電所が吾妻川の水を取り尽くしていることによるものでしたが、2016年12月1日に松谷発電所の水利権更新が許可されたことにより、河川維持用水の下流責任放流が松谷発電所に義務付けられ、吾妻渓谷は毎秒2.4㎥の流量が維持されるようになりました。このことについて、国土交通省の見解を示してください。

1-2 八ッ場ダムの目的の一つ「吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)」は吾妻渓谷で毎秒2.4㎥の流量を維持することですから、上記の水利権更新許可により、この目的の必要性はなくなりました。このことについて国土交通省の見解を示してください。

1-3 国土交通省は2010~2011年に八ッ場ダム建設事業の検証を行いました。その中で、吾妻川の流量維持(流水の正常な機能の維持)に関するダム案とダム代替案との比較を行い、水利権更新後の松谷発電所から河川維持用水が放流されて吾妻渓谷で毎秒2.4㎥の流量が確保された場合のケース2-2を想定し、そのケースでは代替案の費用がゼロになることを示していました。
今回の水利権更新により、国土交通省が想定したケース2-2のとおり、費用を全くかけずに、八ッ場ダムの代替案を実現できたのですから、吾妻川の流量維持の目的そのものがなくなったことは明白です。このことについて国土交通省の見解を示してください。

1-4 八ッ場ダムの目的の一つ「吾妻川の流量維持」が喪失したのですから、八ッ場ダム基本計画を変更しなければなりません。このための基本計画変更をいつ行うのかを明らかにしてください。

1-5 2016年12月の八ッ場ダム基本計画の変更で、事業費の総額が4600億円から5320億円に増額されたことに伴って、「吾妻川の流量維持」の目的の負担額は97億円から112億円に増えました。この目的が喪失したのですから、112億円の負担分をどのようにするのかの問題が生じてきました。
「吾妻川の流量維持」が負担している112億円を八ッ場ダム事業の参画者に割り振ることになるのでしょうか。112億円の処理方法について国土交通省の見解を示してください。

2 「八ッ場発電所からの導水路設置と減電補償の問題」

2-1 2016年12月10日の上毛新聞の記事「ダム建設で東電 八ッ場下流へ導水路 発電所の水量確保」には、八ッ場発電所から東京電力・松谷発電所までの導水管を設置することにより、松谷発電所から下流の6発電所で八ッ場ダムの影響を緩和すると書かれています。この記事に関して、八ッ場発電所の放水口のレベルと松谷発電所の取水口・放水口のレベルとの関係はどうなっているのか、八ッ場発電所の放流水を松谷発電所の発電に利用できるのかを明らかにしてください。

2-2 八ッ場ダムの貯水で影響を受けるとされている東京電力の松谷・原町・箱島・金井・渋川・佐久発電所のうち、箱島発電所は八ッ場発電所より下流にある吾妻川の箱島取水堰でも取水して発電に使用し、下流の発電所に順次送っています。このため、導水管がなくても、箱島発電所から下流の発電所は八ッ場発電所の放流水を利用することができます。となると、箱島発電所から下流の発電所にとってこの導水管は意味を持たず、導水管で八ッ場ダムの影響を緩和できるのは原町発電所だけになります。このことについて国土交通省の見解を示してください。

2-3 八ッ場発電所からの放流水のうち、毎秒2.4㎥は吾妻渓谷の河川維持用水として流さなければなりません。したがって、八ッ場ダムに貯水をしなければならないときは、八ッ場発電所から毎秒2.4㎥しか放流されませんから、導水管を流れる水量はゼロとなります。また、八ッ場ダムから利根川の流況改善のために放流する時も、毎秒2.4㎥を超える分しか導水管に流すことができません。となると、導水管で原町発電所に送水できる水量はかなり限られると考えられますが、国土交通省は、導水管で平均してどの程度の水量を送水できるとしているのか、その試算結果を示してください。

2-4 上記の記事では、この導水管を東京電力が設置し、その固定資産税を東吾妻町と長野原町に払うと書かれていますが、東京電力からすれば、減電の原因をつくるのは八ッ場ダムですから、導水管の設置費用や固定資産税の支払いも含めた減電補償を国土交通省に要求することになると考えられます。このことについて国土交通省の見解を示してください。

2-5 国土交通省として、この導水管の設置費用がどの程度になると考えているのかを明らかにしてください。

2-6 八ッ場ダムによる東京電力・松谷等6発電所の減電に対する補償をいつ支払うのかを明らかにしてください。

2-7 八ッ場ダムによる東京電力・松谷等6発電所の減電に対する補償交渉は現在、どのような段階にあるのかを明らかにしてください。

2-8 八ッ場ダムによる東京電力・松谷等6発電所の減電に対する補償額はどの程度の金額になる見通しかを明らかにしてください。

2-9 国土交通省は2011年の八ッ場ダム検証報告において、八ッ場ダムによる東京電力・発電所の減電量はわずかであると主張しました。しかし、この計算は東京電力の同意を得たものではなく、多くの疑問があり、減電量が極力小さくなるように恣意的に計算されたものであると私たちは考えています。詳しくは、添付の資料2「八ッ場発電所からの導水路設置と減電補償の問題」の別紙「八ッ場ダムによる東電発電所の減電量と減電補償額の試算」のとおりです。この別紙の2に記した疑問点のそれぞれについて国土交通省の見解を示してください。
                    以上

—転載終わり—

キャプチャ 上記の公開質問書で取り上げている問題について、3月1日に群馬県庁記者クラブで会見を行いました。(写真右)
 記者発表資料を下記のページに掲載しています。

★「八ッ場ダムの建設目的 ”吾妻川の流量維持” の喪失による112億円の負担問題」
 https://yamba-net.org/wp/?p=20170

★「東京電力の導水路設置計画と八ッ場ダム事業の減電補償問題」
 https://yamba-net.org/wp/?p=20195