長野県の浅川ダムの内部が公開され、長野県版に関連記事が掲載されています。
浅川ダムは、ダムサイトの断層、ダム貯水池の地すべりなど、様々な危険性が指摘されてきましたが、今年3月に運用が開始されました。
長野県では、2001年に田中康夫知事の脱ダム宣言により、以下の県営8ダムが見直しの検討対象となりました。その後、2003年、浅川ダムも他のダムと同様、一旦は事業中止となったのですが、2006年の知事選で自民党が推す村井仁知事が誕生すると、推進勢力の巻き返しによって治水専用の穴あきダムとして復活しました。
写真右=浅川ダムの堤体。2016年9月29日撮影。
★「脱ダム宣言」によって検討の対象となった県営8ダム
信濃川水系・・・浅川ダム(建設)、清川治水ダム(中止)、角間ダム(中止の方向)、黒沢ダム(中止)
天竜川水系・・・下諏訪ダム(中止)、駒沢ダム(中止)、蓼科ダム(中止)、郷土沢ダム(中止)
なお、このほかに、2000年に大仏ダム(信濃川水系)が中止されています。また、上記8ダムに含まれる角間ダムはまだ中止にはなってはいませんが、いずれ中止になる見込みです。
完成した浅川ダムで心配されているのは、このダムの堤体の下腹部に設けられた「穴」が、洪水時、果たして有効に機能するのかということです。
右図=長野県作成のリーフレット「浅川ダム」より
穴あきダムとして建設された浅川ダムは、平時はダムに水を貯めず、空にしておきます。
通常のダムは、水だけでなく、上流から流れてくる土砂もため込みます。わが国にこれまで建設されたダムでは、想定以上に土砂が急速に貯まり、ダムの機能が早くに低下するほか、土砂浚渫などの維持管理費が嵩むという深刻な問題が明らかになっています。穴あきダムでは「常用洪水吐(じょうほうこうずいばき)」と呼ばれる穴から、ダム下流に、水とともに土砂を流すため、ダムの寿命を延ばすことが期待されています。
しかし、浅川ダムの「常用洪水吐」の幅は1.3メートルしかありません。「常用洪水吐」は流木で詰まらないように、格子状の金属で覆われていますが、大洪水時に流木等で詰まって洪水調節機能を失えば、水害被害を拡大してしまう可能性があります。
◆2017年7月13日 信濃毎日新聞
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170713/KT170712ATI090007000.php
ー「穴あきダム」の特徴は 県が浅川ダムの内部公開ー
県は12日、3月に運用を始めた県営浅川ダム(長野市)の本体内部を報道機関に公開した。県浅川改良事務所(同)の吉川達也所長らが「穴あきダム」の特徴や検査機器について説明。運用開始後、異常は見られないとした。県などは24日、現地で完成式を開く。
浅川ダムは治水専用。通常時はダム下部に設けたトンネル構造の穴「常用洪水吐き」(高さ1・45メートル、幅1・3メートル)から河水を流し、大雨時には自然と水がたまる仕組み。上流側は流木などによる「穴詰まり」を防ぐため、格子状の金属「スクリーン」で覆われている。
ダム内の点検用通路「監査廊」には、ダムの漏水量や傾きなどを測る機器を設置。監査廊最下部には、漏水をポンプで上げる装置があるが、平時に水をためないことから、他のダムに比べて漏水量は少ないという。監査廊内には地震計もあり、震度4以上の揺れを観測した場合などに、施設を点検するとした。
浅川ダム本体の高さは53メートル、上部幅165メートルで、総貯水容量は110万立方メートル。県はダムを含む流域の治水水準について「100年に1度」の大雨(日雨量130ミリ)に対応できる規模としている。総事業費は約380億円。
運用開始後、最も水位が上がったのはダムの雨量計が1時間当たり32ミリの降雨を観測した11日。常用洪水吐きの上部から1メートルほど高い位置まで水が漬かり、約1千立方メートルの水がたまったという。
◆2017年7月13日 産経新聞中部版
http://www.sankei.com/region/news/170713/rgn1707130016-n1.html
ー曲折たどった治水対策 脱ダム宣言象徴、3月から運用 長野ー
田中康夫元長野県知事による「脱ダム宣言」の象徴ともなった県営浅川ダム(長野市)が完成し、県は12日、施設内を報道陣に公開した。ダムの建設工事をめぐっては、地元住民の一部が活断層の存在などを主張し、反対運動を展開。一方で、長野市の中心市街地を流れ、氾濫を繰り返してきた「暴れ川」の浅川(長野市-小布施町、延長17キロ)流域の住民は、完成を心待ちにしていた。曲折をたどった治水対策を振り返る。(太田浩信)
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浅川ダムの本体の高さは53メートル、横幅165メートルで最大貯水量は110万立方メートルに上る。周辺の付け替え道路も含めた総事業費は約380億円。浅川の流域全体で実施された河川改修事業と、千曲川との水位差で豪雨時に浅川の水があふれる「内水氾濫」への対策も講じたため、市街地の洪水も防げるという。内水の対策事業も今年度中にほぼ終了する。
工事の最終段階として昨年10月~今年2月、排水口(高さ1・45メートル、幅1・3メートル)をふさいで満水状態にする試験湛水(たんすい)が行われた。その結果、ダム本体や周辺の地形に異常はなく、3月から運用が開始された。
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■田中元知事が中断
浅川ダムは当初、千曲川に流れ込む浅川の治水と利水を目的に計画された。平成12年9月に工事契約が結ばれたが、反対運動もあって同10月に就任した田中元知事が工事の中断を決断した。
13年2月には、唐突に脱ダム宣言を行い事業は白紙に。治水対策は有識者や地元住民らによる検討委員会に委ねられた。だが結局は、恒久的な対策を見いだせず、県議会は田中元知事の責任を問う形で14年7月、県政史上初めてとなる不信任決議を可決した。
ダム建設はその後、遊水池の整備などが検討されたが、国や地元の理解を得られず迷走を続けた。最終的には、村井仁前知事が19年2月、治水専用となるダム建設を容認し、動き出すことになる。
貯水せずに堰堤(えんてい)の底部に排水口を設け、常に川の水が流れ続ける特異な構造が採用され、大雨のときだけ一時的に水をせき止め、流量を調節する機能を持たせた。22年5月に着工し、同9月に就任した阿部守一知事も、第三者機関の調査で安全性が確認できたとして工事を継続した。
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■「流域の住民に安心」
24日には県や浅川改修期成同盟会(会長・加藤久雄長野市長)が完成式典を開き、治水拠点の運用開始を祝う。だが、その一方で、一部住民による建設工事関連の公金差し止め訴訟は今後も続く。
東京高裁は今年3月、住民側全面敗訴の判決を出した。原告側は「建設地には活断層が存在し、周辺は地滑りが起きる危険もある。費用対効果もない」と主張し、上告の手続きを行っている。
県浅川改良事務所は「ダムの安全を常時監視しながら、流域の住民が安心して暮らせるように今後も適切な運用を図っていく」と話している。