八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

堤防整備に関する会計検査院の指摘

 会計検査院が全国の河川改修事業による堤防の整備状況を調べたところ、高さが不足している堤防があることが判明したとのニュースが先月ありました。
 この報道の基になったのは、会計検査院が11月8日に内閣に送付した平成28年度決算検査報告です。

 会計検査院の公式サイトに報告書の内容が掲載されましたので、お知らせします。

〇平成28年度決算検査報告の概要ー特に掲記を要すると認めた事項
 http://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary28/tokutei.html

「河川整備計画等により堤防等を整備することとしている区間において、一部未整備の箇所又は改築が必要な橋りょうが残存していて、整備済みの堤防等の整備効果を十分に発現させる方策を講ずる必要がある事態について」
 http://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary28/pdf/fy28_tokki_01.pdf 

 上記報告書より
 キャプチャ

 国交省はダム建設を優先し、堤防整備を後まわしにするような河川行政を続けてきています。
 2015年9月の鬼怒川水害は、国交省が上流に四基の大型ダムを建設する一方で(最後の湯西川ダムは2012年完成)、下流部の河川改修をなおざりにしてきたことによって引き起こされたものでした。今年7月下旬と8月下旬に起きた秋田・雄物川の氾濫も、国交省が上流で成瀬ダム(総貯水容量7,850万㎥、2024年度末完成予定)の建設にまい進する一方で、雄物川中下流部において流下能力が極めて低い状態を放置してきたことに起因するものです。

 関連記事を転載します。

◆2017年10月26日 NHK
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171026/k10011199031000.html
ー全国の堤防 約20か所でかさ上げ不十分 会計検査院ー

 洪水対策を目的とした堤防の改修工事が進められている全国の川のおよそ20か所で、堤防の高さのかさ上げが不十分であることなどが原因で増水した際に水があふれるおそれがあることが会計検査院の調べでわかりました。

 大雨による川の氾濫などの被害額は、ここ数年、年間3000億円を超えていて国土交通省は、毎年4000億円をかけて、全国の堤防の高さをかさ上げしたり川幅を広げたりするなどの対策を進めています。

 会計検査院が対策の状況について全国800余りの川の堤防を抽出して調べたところ、およそ20か所で、堤防の一部がかさ上げされず低いままになっていたり、川が一部だけ拡幅されないままになっていたりして、5年以上にわたり水があふれるおそれがある状態になっていたことがわかりました。

 このうち埼玉県内の荒川では、高さおよそ7メートルの堤防をおよそ10メートルにかさ上げする工事が進められていますが、古い橋の周辺だけがかさ上げされないままになっています。

 ほかの場所でも古い橋が残っていたり周辺の土地を取得できなかったりしたことが、原因で堤防のかさ上げや川の拡幅ができていないということです。

 背景には、橋を架け替える部署との連携不足や地権者との合意形成が難航していることがあるということで、検査院は国土交通省に対し改善を求めることにしています。

 国土交通省は、NHKの取材に対し、「改修には時間がかかるため危険性の高い場所から順番に進めざるをえないのが現状だ。関係部署との連携などについては一層努力していきたい」としています。

 堤防低い部分で水あふれる被害
 古い橋があるために堤防が低くなっている部分から水があふれる被害は最近も起きています。

 滋賀県長浜市の姉川では、ことし8月、台風による大雨で増水し、古い橋があり堤防が低くなっている部分から川の水があふれ、およそ20棟が浸水する被害が出ました。 この橋は昭和8年につくられましたが、橋の部分だけが周りの堤防よりも1.5メートルほど低くなっていたということです。

 この部分の対策として、大雨で増水するおそれがある場合には、住民たちが角材を積み上げて「せき」をつくり、水があふれるのを防ぐことにしていましたが、8月の台風では、水位が急激に上昇したため、間にあわなかったということです。

 専門家「防災上 大きな問題」
 堤防の整備に詳しい京都大学防災研究所の多々納裕一教授は「古い橋の周辺で堤防のかさ上げなどができていないことは防災上、大きな問題だ。洪水が起きやすい場所は緊急に対策を講じる一方で、そうでない場所は、堤防が低くなっている部分を閉鎖する「陸閘(りくこう)」と呼ばれる設備を整備し、とりあえずの対策をとることも一つの方法だと思う。抜本的な対策としては、堤防や橋の整備だけでなく、周辺の都市計画も含めて検討する必要があり、国土交通省内部の複数の部署をまたいだ取り組みが重要になる。河川を管理している国土交通省は、工事を行うべき場所の優先度を把握しているはずなので、ロードマップを作るなどしたうえで、市民も巻き込んで幅広く議論していくことが求められる」と話しています。

◆2017年10月27日 朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/DA3S13200382.html
ー堤防、不完全20カ所超 豪雨時、水害の恐れ 途切れや高さ不足 検査院調べー

 全国の河川改修事業による堤防の整備状況を会計検査院が調べたところ、途切れていたり高さが不足していたりして堤防の役割を十分に果たせない恐れのある場所が、計二十数カ所あることが分かった。豪雨の際に水害が発生する危険性が高いとして、検査院は国土交通省に事態を早めに解消するよう指摘する。

 国交省と各自治体が進める河川整備計画は、過去の豪雨時の水位や流域人口などを勘案して堤防の高さを定めている。検査院が指摘する二十数カ所の整備事業には約500億円が投じられている。

 検査院が進行中の河川改修事業を調べたところ、関東や東北、九州、四国、北陸、中国の地方整備局管内の事業で、一部の区間だけ堤防が完成していない場所が10カ所以上見つかった。また、河川に橋が架かっているため、計画した堤防の高さまで「かさ上げ工事」ができない場所も約10カ所あった。こうした箇所のなかには、豪雨の際に実際に洪水の被害が発生した場所もあった。

 整備が進まない主な原因は、堤防が途切れているケースでは必要な用地の買収ができないことで、高さが足りないケースは橋のかさ上げ工事に高額な費用がかかるためだった。

 検査院は国交省に対し、関係者との協議を進めるよう指摘するほか、自治体に早期完成を促すよう助言することを求める。

 ■430メートルだけ土嚢…川あふれた 用地買収・工事費、壁に

 秋田県南部に位置する大仙市。河畔で行われる「大曲の花火」で知られる雄物(おもの)川は、たびたび水害に見舞われる。今年7月の豪雨でも、堤防の数カ所で水が氾濫(はんらん)し、市内の住宅852棟で浸水などの被害が出た。

 その雄物川の中流域に、造成が済んだ堤防に挟まれて約430メートルにわたって土嚢(どのう)を積み上げた仮設の堤防が続く区間がある。完成済みの堤防より2~3メートルほど低く、幅が狭い。7月の豪雨ではこの場所からも川の水があふれ出た。

 堤防の計画地の脇には企業がある。当初、この企業が移転したあとで堤防を完成させることになっていた。しかし、企業の移転先が見つからなかったため、国は造成に着手できなかった。企業は来春にも移転するめどが立ったが、堤防の完成には移転からさらに1~2年かかりそうだという。

 人口が集中する首都圏でも、同様に不完全な堤防が見つかった。

 埼玉県から東京都内を流れる荒川。川にかかる橋によって計画通りの堤防の高さが確保できていない場所が埼玉県内にある。堤防を高くするには橋のかけ替えが必要だが、工事費用などがネックとなって整備できていないという。

 荒川では、先行してかさ上げ工事が進む橋もある。京成本線が通る橋は周辺の堤防より約3・7メートル低く、2004年度から橋をかけ替える事業を進めている。総工費は現時点の概算で約400億円。しかし、用地買収はこれからで、工事が本格化するのはまだ先になりそうだ。

 国土交通省荒川下流河川事務所によると、低い橋がかかっていて堤防の高さが足りない場所では、橋の周囲に応急的にコンクリートの壁を設置し、水が堤防を越えないように対策を進めている。しかし、橋の上には壁をつくれないため、いざという時は土嚢を積んで浸水を防ぐしかないという。(小林太一、末崎毅)

 ■急場しのぐ策を

 京都大学防災研究所の中川一教授の話 堤防にすき間があったり、十分な高さがなかったりするなら、持ち運びができる仮設の堤防を増水時に配置するなどして急場をしのぐための対策を進めるべきだ。用地の買収にあたっては、堤防をつなげることで多くの命や財産を守れることを地権者に伝え、協力を得ることが大事だろう。

◆2017年10月27日 朝日新聞
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171026-00000068-asahi-soci
ー「大曲の花火」雄物川に不完全な堤防 7月に氾濫ー

 全国の河川で、高さが不足している堤防が二十数カ所見つかった。会計検査院は国土交通省に事態の早期解消を求める。

 秋田県南部に位置する大仙市。河畔で行われる「大曲の花火」で知られる雄物(おもの)川は、たびたび水害に見舞われる。今年7月の豪雨でも、堤防の数カ所で水が氾濫(はんらん)し、市内の住宅852棟で浸水などの被害が出た。

 その雄物川の中流域に、造成が済んだ堤防に挟まれて約430メートルにわたって土囊(どのう)を積み上げた仮設の堤防が続く区間がある。完成済みの堤防より2~3メートルほど低く、幅が狭い。7月の豪雨ではこの場所からも川の水があふれ出た。

 仮設の堤防のそばに住む高橋絹子さん(63)は自宅玄関が水没し、押し寄せた水で庭の小屋が流された。「怖かった。堤防が途切れていなければ、すごく安心できるのに」。

◆2017年 11月9日 共同通信(佐賀新聞)
 http://www.saga-s.co.jp/articles/-/146857
ー堤防未整備で洪水の恐れ 佐賀など11道県24カ所ー

 堤防の未整備区間から水があふれ、住宅などに浸水被害が出た雄物川=7月(国交省東北地方整備局提供)

 豪雨に伴う洪水を防ぐため堤防をかさ上げしたり、川幅を広げたりする国土交通省の事業を会計検査院が調べた結果、未整備区間が残っているため十分な効果が見込めない場所が11道県で24カ所あることが8日分かった。実際、未整備部分から水があふれ、被害が生じた地域もあった。

 地権者や周辺住民の理解が得られなかったり、幹線道路と交差するため工事が難しかったりすることが主な原因で、検査院は交渉・対策を急ぐよう要求。国交省は「調整を引き続き進め、地域の安全の向上に努める」としている。

 検査院は2012~16年度の国の直轄事業、地方自治体が国から補助金を受け取って行う補助事業の対象である計857河川の状況を調べた。その結果、未整備区間で堤防の高さが予想水位を下回っている場所が佐賀県の巨勢川(1カ所)、浜川(1カ所)など12河川で14カ所あった。

 このうち国交省東北地方整備局湯沢河川国道事務所が工事を担った秋田県大仙市の雄物川では、堤防予定地にある事業所の移転先が決まらなかったことから未整備の区間が430メートル残り、07、11、17年度には実際に水が堤防を越え、住宅や農地が浸水した。

 また、堤防の整備予定地に橋があれば、堤防の整備と同時に橋も高くしたり延ばしたりする必要がある。しかし主にコスト面で鉄道会社などの橋の管理者と歩調が合わず、10カ所の橋で対応が後手に回っていた。【共同】