2013年4月27日
八ッ場ダムは来年にも本体工事着手といわれますが、国交省はすでに事業費増額、工期延長やむなしと明言しています。
事業費増額と工期延長には、都知事と都議会の承諾が必要なダム計画の変更手続きが行われなければなりませんが、ダム事業は多くの問題を先送りにしたまま、矛盾を抱えて進められており、今後、さらに混沌とした状況となることが予想されます。
そこで、あしたの会東京支部では猪瀬都知事に八ッ場ダム事業について慎重な対応を求める為、面談を求めることとなり、昨日、東京都庁の知事本局総務部秘書事務担当課長へ都知事への手紙を手渡しました。斎藤あつし都議会議員(民主党)にご同行いただきました。
面談の有無など、知事からのご返答については、後ほど当サイトにて公表します。
猪瀬都知事への手紙の全文を掲載します。
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東京都知事 猪瀬直樹 様
日頃のご活躍に心より敬意を表します。
八ッ場あしたの会は、「八ッ場ダム本体工事の中止」と「水没予定地域の再生」をめざして活動しているNGOです。
国土交通省は八ッ場ダムの本体着工を急ぐとしていますが、八ッ場ダム事業は様々な問題を抱えており、国土交通省の試算でも工期延長、事業費増額が必要です。そこで、これらの問題の詳細を知事にお伝えし、都民のために今一度ご検討いただきたいと存じます。
ご多忙のところ恐縮ですが、面談の機会を設けていただきましたら幸甚です。面談の有無についてのご回答を5月10日までにお寄せ下さい。(ご回答は公表させていただきます。)
以下に、東京都が八ッ場ダム事業に引き続き参画することで、どのようなデメリットが考えられるか、主なものに絞って説明させていただきます。
1. 八ッ場ダムの危険性と事業費増額、工期延長
八ッ場ダム予定地は“地すべりのデパート”とも言われ、脆い地質と急峻な地形が特徴となっています。水没予定地住民の移転代替地は、沢を30m以上も盛土して造成されています。その上、東日本大震災をふまえた地震対策はまだ考えられていません。住民の被害を防ぐためには、さらなる安全対策に今後も膨大な時間と費用がかかる可能性があります。
東京都が八ッ場ダムの建設を求め、地すべりなどの対策に巨費を投じ続ければ、その損失は計り知れません。現に大滝ダムの事業費は、地すべり対策などにより当初の16倍に増えました。
国交省はすでに事業費増額、工期延長やむなしと明言していますが、都知事と都議会の承諾が必要な計画変更が今後何度繰り返されるか、わからない状況です。
2. 東京都の水あまりと水道財政の悪化
東京都の一日最大配水量は3ページのグラフの通り、20年前から減少の一途を辿り、現在では2割以上も減っています。東京水道施設再構築基本構想(2013年3月)は将来の一日最大配水量を約600万㎥としていますが、実際には節水型機器の普及などにより、昨年度は469万㎥まで低下しました。さらに八ッ場ダムが完成するとされる2020年以降は都の人口も減少に転じますので、水需要が減り続けていくことは必至であり、都の予測のように急角度で上昇傾向に転じることはありえません。
一方、保有水源は十分な量を確保しており、渇水年とされた昨年も、取水制限の影響は受けませんでした。大規模な施設更新を控える中、水が余っているのに更に水源を求めてダム事業費の負担を続ける行為は、東京の水道財政の悪化をもたらすに違いありません。
知事は「日本国の研究」(文芸春秋、1997年刊)の中で、「長良川河口堰―「水」とは何か 特殊法人の落とし子」という章をもうけ、水源開発事業が抱える構造的な問題について詳しく論じておられますので、この問題についてはよくご存知のことと思います。
3. 八ッ場ダムの治水効果は、江戸川下流ではごくわずか
都は国から八ッ場ダム事業の治水負担金を求められてきましたが、八ッ場ダムの治水効果はごくわずかです。国交省のデータからも、八ッ場ダムの治水効果は下流に行くほど減衰し、東京都が接する江戸川下流では水位低減効果が数㎝以下とされています。
4. 疲弊したダム予定地の再生を
八ッ場ダム予定地は上流に草津温泉などの観光地や浅間山麓の畜産・畑作地があり、ダム湖ができると富栄養化によって水質がひどく悪化すると予想されます。また観光シーズンの夏場は、洪水調節のために水位が28メートル以上も低下するため、ダム湖を観光資源とするには無理があります。
それに比して、ダムに沈む名勝・吾妻渓谷、由緒ある川原湯温泉、水没予定地の膨大な遺跡群は、地域ならではのかけがえのない観光資源です。ダム予定地の縄文遺跡は、“縄文王国”と称される八ヶ岳山麓の遺跡群に匹敵し、また江戸・天明の浅間山噴火で埋もれた集落は、当時の人々の営みをタイムカプセルのように生々しく残し、“日本のポンペイ”と呼ばれる火山災害遺跡の中でも特に遺存状態が良く、文化的価値が高いとされます。
地元の方々は可能性の薄いダム湖観光に期待をつなぐしかない状況にありますが、水没予定地一帯を自然と歴史のフィールドミュージアムとして整備すれば、多くの観光客が東京からも訪れ、地域が本来の力を取り戻して蘇ることでしょう。
不要なダムを長年地元に押しつけ、何世代にもわたり犠牲を強いてきたことは、ダム予定地住民と都民との間に大きな溝をつくることになりました。東京都が率先して対立の構図から抜け出し、地域の再生に貢献することを私たちは願っています。
熊本県の潮谷前知事、鳥取県の片山前知事、滋賀県の嘉田知事など全国各地の知事が、ダム事業の見直し、ダム予定地の再生事業に取り組んできました。こうした地方の取り組みが、これまでの硬直した国の河川行政に風穴をあけてきました。
八ッ場ダム事業は国の事業ですが、東京都が撤退すればダム事業の見直しにつながります。公共事業の問題に造詣の深い猪瀬知事が変革の先頭に立たれることを、多くの都民が願っています。
2013年4月26日
八ッ場あしたの会代表世話人 野田知佑、大熊孝、加藤登紀子、永六輔、澤地久枝ほか
八ッ場あしたの会東京支部(川原理子)
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