2005年4月15日朝日新聞群馬版より転載
「温泉街 川原湯どう対応ー八ッ場ダム建設 地元と交渉大詰め」
総事業費4600億円。ダム建設では国内最大の事業費を計上する八ッ場ダム建設で、移転を強いられる水没地区の住民と国土交通省による交渉が大詰めを迎えている。このうち、全世帯が水没し、温泉街を抱える川原湯地区が国交省案に合意すれば、分譲基準妥結となるが、先行きは不透明だ。難航すれば2010年度の完成予定に影響を及ぼしかねず、ダム関係者は同地区の動きを見守っている。(熊井洋美)
地区で唯一の全水没 代替地価格に強い不満
移転対象の町内5地区の住民代表がつくる「代替地分譲基準連合交渉委員会」(萩原明郎委員長)は03年12月に始まった。水没で失われる土地や建物の補償問題はすでに決着し、国交省から、移転住民が新たな住まいを得るための代替地の分譲価格(非公開)や条件など「分譲基準」が提示された。これまでに長野原、林、横壁、川原畑の4地区が受け入れる方針を決めている。
今月13日夜、JR川原湯温泉駅前の「八ッ場ダム総合相談センター」で開かれた11度目の会議では、国交省が川原湯地区の値下げ要望に回答。関係者によると、「これ以上価格引下げはできない」とのゼロ回答だった。分譲価格は他地区の代替地よりも3割ほど高い。今月中に住民が協議し、次回の委員会で結果を報告する。
萩原委員長は「4地区だって不満はあるが、『早く決まるなら』と了承した。早い機会に5地区合わせて調印できればいい」と早期解決を切望する。
川原湯地区で交渉が難航するのは、地区で唯一全戸水没することと、温泉を引き入れ、新たに温泉街とするため分譲価格が住宅地に比べて高く設定されたことにあるという。
同地区には借地者もいる。新規購入となる借地者にとっては容易な負担でなく、地区の足並みがそろわぬ一因を招いている。
また、01年に補償妥結後、代替地分譲基準交渉の開始までに2年余りの時間が流れたのも大きい。国交省の代替地取得が済んでいないなどの理由で延び、住民に「交渉疲れ」感を残した。
妥結を待ちきれず、補償費を受け取り町内外へ引っ越した人も。当初約200あった同地区の世帯は半減したという。
地区住民の一人は「結局、「値下げをあきらめるかあきらめないか、という話。地区に納得できない人がいる限り、意見は聞かなくちゃいけない」と話す。
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国土交通省は現在、代替地の造成と関連道路2本の建設を進めている。07年度の本体着工に向け、年度末までの移転開始が目標だ。妥結後は、改めて住民の意向を調査し、個別に分譲区割り、価格を確定させる。代替地は当初計画より縮小される可能性がある。