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「八ッ場ダム建設:代替地交渉大詰め 川原湯地区 多数決で決断も(毎日新聞群馬版)

2005年4月26日 毎日新聞群馬版より転載 

 長野原町の八ッ場ダム建設に伴い、住民と国(国土交通省八ッ場ダム工事事務所)の間で進められている代替地の分譲価格交渉が大詰めを迎えている。これまで1年4カ月以上にわたる交渉で、水没5地区のうち4地区は既に受け入れを決定。こうした中で残る川原湯地区のダム対策委員会の総会が24日夜開かれたが、交渉は難航。次回会合では参加できない委員の委任状を準備して、多数決にする可能性も出てきた。計画から53年。大きな節目となるか、注目を集めそうだ。【山田泰蔵】

 ◇基準価格変わらず、募る不満

 ■ゼロ回答

 交渉は、補償基準交渉の妥結(01年6月)を経て、国側が03年12月、最初の分譲価格基準を提示。住民側の基準に対する不満は強く、交渉は難航したが、今年2月に提示された4度目の基準に対して、受け入れに難色を示していた川原畑、川原湯の全戸水没2地区のうち、川原畑地区が受け入れを決定。さらに今月の5度目の提示で国側は4度目の基準を変更しない“ゼロ回答”を突きつけ、川原湯地区の判断が焦点になっていた。

 ■特殊事情

 川原湯地区は、旅館や民家がすべて水没する。温泉街の旅館19軒など水没世帯数は最盛期には201戸あったが、現在は転居や廃業が進み、旅館は14軒に、世帯数は半分以下(87戸)になった。水没世帯数は5地区計340世帯の半数以上を占めるうえ、温泉街特有の再建の難しさもあり、交渉には他地区を上回る難しさがあった。

 温泉街は、ダム湖周辺に新たに建設され復興を目指す計画だが、続く不況の影響もあり「周辺よりも高い分譲価格では生活再建はままならない」「これまでも計画変更はたびたびあり、再建が予定通りに進むとは思えない」(旅館経営者)と不満が強い。

 一方で、「反対闘争、条件交渉と50年以上悩まされてきた。年齢的にももう限界。あきらめるしかない」(同地区男性)と交渉への疲労感から早期妥結を望む声もある。

 ■頑張るか我慢か

 24日の同委員会総会で、安田吾郎・同事務所長はゼロ回答について、「『まだまだだ』というご意見がある中、私どもとしては(4回目までの提示で)目いっぱいしたつもり。今回は『残念ながらご要望には沿えません』ということに尽きる」と理解を求めた。総会だが全世帯の半数以下の30人ほどしか集まらなかった。協議は2時間以上に及んだがまとまることはなく、多数決を求める意見も出た。終了後、豊田治明・同地区ダム対策委員長は「(交渉難航は)仕方ない。今後5年、10年と頑張るのか、基準には不満でも我慢するのか。決めるのは難しい」と話す。今年度末には、第1期の分譲地移転が計画に上るなか、地区住民は厳しい決断を迫られている。