「50年の苦闘が”無駄”とは・・・」(讀賣新聞群馬版)

2005年9月3日 讀賣新聞群馬版より転載

 「事業費には生活再建の費用も入っている。『大型公共事業は無駄』と決めつけ、事業費カット、ましてここまで来ての中止論は住民感情を逆なでする」

 長野原町の八ッ場ダム建設で水没予定の川原湯地区。温泉街で飲食店を経営する水出耕一さん(51)は語気を強める。

 水没地区は、降ってわいた構想に根強い反対の声を抱えながら50年に及ぶ国側との交渉の末、受諾。ダム建設を前提に、現地代替地での生活再建を描いてきた。一方で、事業の長期化などから見切りをつけた住民の転出が相次ぎ、約200戸あった川原湯地区は約70戸に減った。

 「7月にやっと代替地の分譲価格がまとまり、『どの場所に住みますか』と意向調査が始まった。その現実から目を反らして、ただ『無駄だ』と言われても……」と水出さんは戸惑う。

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 国の公共事業費が年々、縮小されるなか、八ッ場ダムは“特別扱い”されてきた。前回衆院選のあった2003年には、総事業費が2110億円から4600億円に引き上げられた。国土交通省が目指す10年度中に完成させるとすると、来年度以降は今年度の2倍近い年間400~500億円が投入され続ける計算だ。

 「ただ、財政難の中、いつまで“特別扱い”が続くか。反動が来たら、生活再建はどうなるのか」。住民に不安はくすぶる。

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 自民、公明の与党は公共事業の「15%削減」方針をとる一方、八ッ場ダムについては、市民団体の公開質問状に答え、「首都圏の水資源確保のため不可欠」(自民)、「治水面での必要性はある」(公明)などとして事業推進を掲げる。

 民主、共産両党は政権公約で八ッ場ダムの建設中止を盛り込んだ。同時に公開質問に対し、「透明な手続きで生活再建策を推進」(民主)、「長期計画の中止に伴う個人補償制度を法制化」(共産)と言及する。社民党も八ッ場ダムを不要としたうえ、政権公約では、中止ルールを盛り込んだ「公共事業基本法」を制定するとしている。

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 高度成長期には地方に次々と公共事業が持ち込まれ、低成長・緊縮財政期に入ると、事業の見直し、事業費の削減へ――。

 事業の対象地域で暮らす住民には、地元の声を十分に聞いたうえで練り上げられた事業ではないとの思いが強い。

 法政大の五十嵐敬喜教授(公共事業論)は「地元住民を犠牲にしないためにも、計画後一定期間が過ぎても完成しない公共事業は、いったん中止する制度が必要。継続するにしても役所主導ではなく、議会などでのオープンな議論を通じて判断すべきだ」と話す。

 水出さんは言う。「半世紀にわたってダム事業に翻弄(ほんろう)されてきた住民がいる。そのことを、政治家は忘れないで欲しい」

 公共事業の在り方について、活発な議論が求められている。(武田泰介)