2005年12月5日、全国の45市民団体は、以下の要請文を首相、国交省らに提出しました。(市民団体名は末尾に)
内閣総理大臣 小泉 純一郎 様
国土交通大臣 北側 一雄 様
社会資本整備審議会河川分科会 分科会長 西谷 剛 様
同分科会河川整備基本方針検討小委員会 委員長 近藤 徹 様
「利根川水系河川整備基本方針の策定」についての要請
2005年11月27日
ストップ八ッ場ダム住民訴訟1周年集会参加者一同
要請の趣旨
1 国土交通省河川局提案の毎秒22,000m3の基本高水流量(八斗島地点)は極めて過大であり、この過大な基本高水流量が、八ッ場ダムなどの数多くのダム建設を求める根源となっている。現在の流域の状態を踏まえて、蓄積された観測データを用い最新の解析手法で、合理的な基本高水流量を算出するべきである。
2 ダム計画が次々と中止される現状において、利根川上流に新たに大規模ダムを10数基以上つくることをも求める基本方針案は、全く現実性がないものである。現実性のない基本方針ではなく、合理的な基本高水流量に基づいて、実現可能で、かつ、利根川のあるべき将来像を示す基本方針を策定すべきである。
3 河川分科会および小委員会の委員の人選についても、これまでダム事業を行ってきた当事者である国土交通省の出身者は、公平な審議が期待できないことから、原則として排除するべきである。少なくとも委員の過半数は、公募による人選を行うべきである。
4 各委員は、河川局提案を鵜呑みにするのではなく、自らが専門的な調査・検討を行い、さらに広くパブリックコメントを求め、流域住民と議論する場を設けるべきである。
5 小委員会の開催方法についても、場当たり的な開催をやめ、審議日程を事前に決定して、広く市民参加の道を開くべきである。議事録については、発言者の氏名も公開するべきである。
要請の理由
1 はじめに
現在、国土交通省の河川整備基本方針検討小委員会において「利根川水系河川整備基本方針案」に関する審議が行われています。次回の委員会で審議を終了する予定で進んでいますが、この小委員会では重要な問題を素通りしたまま、拙速な審議が行われており、このまま原案通りの方針が策定されれば、将来の利根川において大きな禍根を残すことになります。そこで、下記のとおり、今までの審議の進め方に対して抗議するとともに、これから、その進め方を抜本的に改善することを強く要請します。
2 拙速な審議を改め、市民の意見に耳を傾けるべきである。
利根川水系河川整備基本方針案に関する審議は、小委員会において、本年10月3日に突如始まりました。そして、その後の10月12日と11月9日の審議を経て、次回の小委員会で終わりという猛スピードで進んでいます。これまでの審議時間は延べわずか4時間です。しかも、その時間の大半は、国土交通省河川局からの説明であり、各委員の発言は一人一回程度の極めて形式的なもので、これはとても審議と呼べるようなものではありません。
8年前に河川法が改正され、本来はもっと前から河川整備のあり方について着実な議論を積み上げてくるべきであったにもかかわらず、8年間何もせず、ダム事業についても抜本的な見直しをしないまま、ここにきて、急に猛スピードで審議を終わらせようとするのは、拙速の感を免れません。
現在、総事業費4600億円(関連事業費を含めると最終的には約8800億円)とされている群馬県の八ッ場ダムの建設についての是非を問う裁判が、一都五県において提訴されており、そこでは、これまでの利根川水系における治水のあり方について大きな問題があることが指摘されていることは、先般ご承知のことと思います。
このように、大きな疑問が呈されている利根川水系の治水のあり方について、本質的な議論を全く行わないまま、このような短い時間で審議を終わらせようとするのは、はじめにダム建設の続行という結論があるからに他なりません。
3 25年前の過大な基本高水流量は是正すべきである。
河川局提案の河川整備基本方針案は、25年前に定められた工事実施基本計画の数字をそのまま踏襲し、基本高水流量(八斗島地点)を毎秒22,000m3としています。
しかしながら、この基本高水流量は極めて過大な数字です。そして、この過大な基本高水流量が、利根川水系に八ッ場ダムなどの数多くのダム建設が求められる根本的な理由となっています。
上記裁判においても指摘しているとおり、毎秒22,000m3という数字は、昭和22年のカスリーン台風が再来した場合の流量を、机上の計算で求めたものです。カスリーン台風の実績洪水流量は上流部の氾濫流量を加算してもそれよりずっと小さい値でした。しかも、当時は戦後間もないころで、戦時中の森林乱伐により、利根川流域の山の保水力が著しく低下していた時代でした。その後、植林が盛んに行われ、森林が生長してきましたから、現在は昭和22年当時と比べれば、山の保水力が大きく向上しています。こうした流域の状態の変化を踏まえ、さらにこの間蓄積されてきた流量等の観測データを用いて、最新の解析手法で計算すれば、毎秒22,000m3という基本高水流量が如何に過大な数字であるか、明らかになるはずです。
こうした科学的な検討を全く行うことなく、なぜ25年前の数字をそのまま踏襲するのでしょうか。これは、八ッ場ダム等のダム建設の根拠が失われることを恐れるが故であるとしか思われません。
4 実現可能な、かつ、利根川のあるべき将来像を示す基本方針を策定すべきである
基本方針案は毎秒22,000m3(八斗島地点)という過大な基本高水流量を踏襲したため、従前の工事実施基本計画と同様に、現在では到底実現不可能な工事が多く含まれています。その端的な例は、利根川上流ダム群の建設です。国土交通省の計算では毎秒22,000m3のうち、3,900m3の洪水を新規の上流ダム群等で調節することが必要となっています。そのためには利根川上流に八ッ場ダムの他に、新たに大規模ダムを10数基以上つくらなければなりません。
しかしながら、利根川上流では、利水需要の低下によって、治水目的を含む多目的ダム計画が次々と中止されてきています。治水ダムがどうしても必要ならば、中止したダムを治水専用にしてダム計画を再構築し、利根川上流のダム治水容量の増強を図るはずですが、国土交通省はそのような検討もすることなく、ダム計画を次々と中止してきています。この事実は、ダム治水容量の増強には緊急の必要性がなく、これから治水ダムを新たに計画して建設することがきわめて困難であり、事実上不可能になっていることを物語っています。このように実現不可能なことを多く含む基本方針を策定しても何の意味もないことは、誰の目にも明らかです。
八ッ場ダムが治水上必要だという理由も、きわめて過大な基本高水流量を設定したために現実性を失った計画に依拠しているのです。このように現実性のない基本方針ではなく、合理的な基本高水流量に基づいて、実現可能で、かつ、利根川のあるべき将来像を示す基本方針を策定することを求めます。
5 委員の人選および審議方法について
河川分科会の10名の委員は、国土交通省の人選によるものです。さらに、小委員会の委員は、分科会で決定された規則により、河川分科会長が指名するとされています。小委員会の委員長として審議をリードしている近藤徹氏は、旧建設省出身者であり、平成8年1月からは水資源開発公団総裁(平成15年10月からは水資源機構理事長)として、長年、ダム推進の河川行政に深く関与してきた人物です。近藤氏が小委員会の委員長として議事をリードしていることに象徴されるように、この審議が出来レースであることは、誰の目にも明らかです。河川分科会にも小委員会にも、ダム反対派は全く入っていません。意見の異なるものを委員に加えない限り、真の議論は成立しないことは、言うまでもありません。
公平な審議が期待できない国土交通省の出身者は、原則として排除するべきです。少なくとも委員の過半数は、公募による人選を行うべきです。
加えて、小委員会の開催日程について、直前まで秘匿されている点も大きな問題です。開催日程については、わずか1~3日前に記者発表がされるという具合であり、これでは、傍聴したくても傍聴できません。事実上、傍聴が拒まれていると言っても過言ではありません。このような不当な取り扱いは、直ちに改善されるように求めます。
また、議事録についても、現在は発言した委員の氏名が秘密にされておりますが、本来発言者の氏名について秘密とする理由は全くありません。全面的な公開を求めます。
以上のとおり、分科会および小委員会の在り方については、すみやかに本要請の趣旨に沿った改善をするよう要求します。
連絡先 八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会
東京都千代田区麹町6丁目4番地 麹町ハイツ502
谷合法律事務所 電話 03-3512-3443
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【市民団体】
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