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関東弁護士連合会、国交省に意見書提出

2005年12月5日、関東弁護士連合会は国土交通省に以下の意見書を提出しました。

「利根川水系河川整備基本方針策定審議に対する意見書」

2005(平成17)年12月5日
 
関東弁護士会連合会 公害対策・環境保全委員会 
委員長 釜 井 英 法

関東弁護士会連合会(「関弁連」)公害対策・環境保全委員会は、平成4年に水資源をテーマにダム問題の調査研究を行い、その結果、「水資源の今日的課題-ダム問題を検証する-」という報告書を公表した。
また、関弁連は、かねてから定期大会におけるシンポジウムにおいて、開発と公害、環境保全問題に継続的に取り組んできた。とりわけ平成15年度の定期大会におけるシンポジウムにおいては、「ダム問題-脱ダムをめざして-」をテーマに取り上げた。シンポジウム開催の準備過程においては、利根川水系の群馬県八ッ場ダムをはじめとする全国各地のダム、湖沼、遊水池を訪問し、関係者からヒアリング等の調査を行っている。こうした調査研究活動の結果、関弁連は、現在のダム建設には、自然環境保全の観点からはもとより、事業の必要性の観点からも、根本的な見直しが行われるべきであることを決議した。
ところで、1997(平成9)年に河川法が改正され、河川管理者は、その管理する河川について、河川整備基本方針(河川法16条)及び河川整備計画(河川法16条の2)を定めることとされた。そして、現在、政府の社会資本整備審議会河川分科会内に設けられた河川整備基本方針検討小委員会において、利根川水系河川整備基本方針案の策定に関する審議が行われている。
しかしながら、同小委員会における審議内容及び審議方法等には、以下のとおりの重大な疑問がある。
そこで、過去継続的に水問題・ダム問題の調査研究活動を行ってきている当委員会としては、このような問題のある審議内容及び審議方法について意見を述べる意義があると考え、以下のとおり、当委員会の見解を発表することとした。

意見の趣旨
1 事務局提案の毎秒22,000m3(八斗島地点)の基本高水流量が過大なものであることは明らかであり、算定を根本的にやり直すべきである。
2 現状の審議方法は、不公平、不透明かつ拙速に過ぎ、審議方法を根本的に改めるべきである。

意見の理由
1 基本高水流量について
基本高水流量は、全ての計画の前提となる最大の洪水規模を示すものである。旧河川法に基づき策定された利根川水系工事実施基本計画(1980(昭和55)年)においては、毎秒22,000m3(八斗島地点)とされ、そのうち6000 m3を上流にダムを建設して調節することとされていた。ダム建設は環境に大きな負荷を与えるものであって、その建設の是非については主として環境保護の観点から近年大きな議論があるところであるが、基本高水流量は、このようにダムの建設の必要性に直接結びついている数値であって、極めて重要な数値と言える。
同計画における毎秒22,000m3(八斗島地点)の基本高水流量は、降雨確率では200年に1度の割合で来襲したとされる1947(昭和22)年のカスリーン台風が再来した場合の流量を、机上の計算で求めたものであった。しかしながら、カスリーン台風当時は、戦中の乱伐により利根川流域の山の保水力が著しく低下していたという特殊性があり、カスリーン台風時の洪水を基準とすることには大きな問題がある。現に、カスリーン台風以後の実績の洪水流量は、1950(昭和25)年に毎秒10,000m3(八斗島地点)をわずかに超えた1例があるだけで、それ以降現在まで半世紀以上にわたって、毎秒10,000m3を超えたことはない。このことは、毎秒22,000m3という数字が如何に過大なものであるかを端的に表している。そして、この点は、上記関弁連平成15年度シンポジウムにおいても、厳しく批判がされているところである。
ところが、この基本高水流量について、今回事務局(国土交通省河川局)は、この25年前の工事実施基本計画の数字をそのまま踏襲して、毎秒22,000m3(八斗島地点)を維持する提案をしている。
その数値が実績データとかけ離れたあまりにも過大な数値であることは、上記のとおりであるから、基本高水流量の算定については、非科学的な数値を踏襲することは止め、少なくとも、戦後60年間にわたって蓄積されてきた現実の流量観測データを用いて、最新の解析手法で算定をやり直すべきである。
2 審議方法について
まず委員の人選に偏りがある。河川分科会の10名の委員は国土交通省の人選によるものであり、さらに小委員会の委員は河川分科会長が指名するとされているが、その顔ぶれは、従来から国土交通省の政策に肯定的であった者で占められている。とりわけ、小委員会の委員長として審議をリードしている近藤徹氏は、国土交通省(旧建設省)出身者であり、河川局長等の重要ポストを歴任した後、平成8年1月からは水資源開発公団総裁(平成15年10月からは水資源機構理事長)として、長年、ダム建設推進の河川行政の中心的位置に居続けた人物である。このことは、この小委員会の審議がはじめに結論ありきの立場にあることを象徴しており、公平な審議はおよそ期待できない状況である。
また、小委員会における審議は、本年10月3日、同月12日及び11月9日に実施されたが、開催日程については、一般には直前まで公表されず、わずか1~4日前に記者発表がされるという具合であり、次回開催日程についても、ようやく、12月2日になって、次回小委員会が12月6日に開催することが発表された。これでは、一般市民が傍聴したくても傍聴することは事実上不可能であり、従前密室行政と言われたやり方が未だ踏襲されていると言わざるを得ない。
さらに、これまで他の水系については、2回程度の審議をもって小委員会の議論が打ち切られ、その後の河川分科会で小委員会の答申に従って河川整備基本方針が決定されていること及び前回までの審議経過からすると、利根川水系についても、次回の審議をもって小委員会としての結論が出される見込みである。しかしながら、これまでの審議時間は延べわずか4時間に過ぎず、その時間の大半は事務局からの説明に充てられており、その内容は、ほとんどが25年前に策定された利根川水系工事実施基本計画の内容を踏襲するものであって、最新のデータ及び解析手法を駆使した科学的分析は、全く試みられていない。我が国有数の規模を誇る利根川についての基本方針を定めるものとしては、如何にも拙速の感を免れない。

3 結論
以上のとおり、小委員会における審議内容は、基本高水流量の算定に根本的な疑義があり、また、審議方法についても、公平性、透明性に欠け、また拙速に過ぎると言わざるを得ず、疑問がある。
よって、当委員会は、河川分科会及び小委員会に対して、利根川水系河川整備基本方針策定の審議方法に関して、人選を含めて公平かつ透明な審議方法を確保し、また最重要課題である基本高水流量の算定に関しては、最大限慎重かつ十分な議論を尽くすよう、強く求めるものである。                     以上

(本意見書に関する連絡先)
関東弁護士会連合会 公害対策・環境保全委員会
委員 弁護士 只野 靖  TEL 03-3341-3133