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水門工事談合(毎日新聞)

2006年3月28日 毎日新聞より転載

「水門工事談合:”自白”で課徴金減免を初適用 公取委」

 国、自治体などが発注する水門工事の入札を巡り談合が繰り返されていたとして、公正取引委員会は28日、大手重工・鉄工二十数社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで立ち入り検査を実施した。関係者によると、公取委は今年1月の独禁法改正で新たに設けられた「課徴金減免制度」に基づき、検査対象の企業から事前に違反内容の情報提供を受けたという。同制度を活用して、公取委が談合事件摘発に乗り出すのは初めて。【斎藤良太、棚部秀行】

 立ち入り検査を受けたのは▽石川島播磨重工業(東京都江東区)▽三菱重工業(港区)▽川崎重工業(神戸市)▽三井造船(中央区)▽日立造船(大阪市)などで、昨年の橋梁(きょうりょう)談合事件で公取委から排除勧告を受けた企業も含まれる。いずれも業界団体「水門鉄管協会」(港区)に加盟している。

 関係者によると、各社は国土交通省や農林水産省、地方自治体、独立行政法人・水資源機構などが発注した水門や関連施設の設置・補修工事の入札で、事前に話し合って受注する会社や落札価格を決めていたという。水門は鋼鉄製で、河川から水道や農業・工業用水を取る「取水堰(せき)」の閘門(こうもん)やダムの排水設備、河口や運河への高潮や津波の侵入を防ぐゲートなどに使われていた。入札1件あたりの落札金額は数百万~数億円で、国内の市場規模は約600億~700億円。

 課徴金減免制度は、談合やカルテルなど独禁法違反にかかわった事業者が公取委に「自白」し、資料の提出など調査に協力すると、課徴金が減免されるというもの。今回、同制度に基づき事前申告していた少なくとも1社と、公取委は毎日新聞の取材にいずれも「申告に関することはコメントできない」と回答している。

 水門工事を巡っては、石川島播磨、三菱重工などメーカー37社が「睦水会」という親ぼく組織を結成し、事前に受注予定社を決定し落札価格を決めていたとして、公取委が79年10月に排除勧告している。

 ▽課徴金減免制度 価格カルテルや入札談合など、独占禁止法違反行為を公正取引委員会に自発的に申告した事業者の課徴金を減免する制度。米国、EU、韓国などで既に導入されている。日本では今年1月の独占禁止法改正で導入された。適用対象は公取委への申告順位が先着3社までで、立ち入り検査前の場合、1番目が全額免除、2番目は50%、3番目は30%減額され、立ち入り後は3社とも30%の減額となる。公取委は申告企業名を原則非公表としている。

 ◇他業界にも波及か

 独占禁止法の改正(今年1月)により、談合などを自主申告すれば課徴金が減免される制度が、導入後わずか3カ月で初適用された。「アメとムチ」が明確なのがこの制度の最大の特徴であるため、今回のケースを機に、ほかの業界に申告が波及する可能性もある。

 この制度では、申告の「先着3社」が課徴金の減免対象で、とりわけ、立ち入り検査前に1番目に申告すれば、課徴金の全額と刑事告発が免除される。メリットはそれだけでなく、国土交通省は、同法違反に伴う指名停止期間について、減免対象社は通常の2分の1に短縮する方針を打ち出した。公共事業依存度が高い企業ほど、課徴金や損害賠償の支払い以上に、指名停止による経営上の影響が大きいとされるだけに、この差は大きい。

 一方で、申告しなかったり、先着3社から漏れた企業は、課徴金納付、指名停止などの処分に加え「申告しなかったことにより、損失が増えた」などとして、経営陣が株主代表訴訟を起こされる可能性もある。申告の順番について他社と相談することは認められていないため、他社に先んじて「先着3社」の椅子を獲得するしかないわけだ。

 企業に“自首”を促す減免制度の導入により、立ち入り前に情報を入手できることから、公取委の摘発能力は高まったともいえる。加えて、強制調査権を持つ犯則審査部も設置され、悪質なケースに関しては、これまで以上に刑事告発していくことが予想される。「身に覚えのある」企業は早急に内部点検することを迫られそうだ。