八ッ場と同じく、首都圏の水がめ、洪水調節などを目的に建設された滝沢ダム試験湛水のニュースです。
2006年8月30日 朝日新聞埼玉版より転載
独立行政法人水資源機構が荒川上流に建設を進めている秩父市の滝沢ダムで05年11月、地滑りの危険がある亀裂が発見されたため中断していた試験湛水(たんすい)が、今月から再開した。約39億円かけた再発防止工事は終了し、同機構は「地滑りの心配はなくなった」としているが、もともと地盤の弱い地質なだけに、再発の危険性も指摘されている。(角幡唯介)
機構は05年10月、ダムの水位を変えて安全性などを確認する試験湛水を始めたが、翌11月、ダムから上流約1・5キロの斜面に、長さ2~15メートルの亀裂が4カ所確認された。
大量の土砂が下方にずれており、崩れる可能性のある土塊は約88万立方メートルに達することが分かり、水をためるのを中断した。
地滑りの進行を食い止めるため、幅370メートル、高さ45メートルにわたり、約50万立方メートルの土砂で、地すべりの危険がある土塊の基部を固定する工事を進めた。工事は今月終了し、18日に試験湛水を再開した。
機構荒川ダム総合事業所によると、滝沢ダム周辺は数億年前の中・古生代の堆積(たいせき)岩が分布する地域で、岩は層状に堆積している。
着工前から衝撃が加わると亀裂も層状に入り、大規模な地滑りが起こりやすい状態だったため、18カ所の地滑り対策工事で地盤を補強し、ダム建設に踏み切った。
今回亀裂が入った個所も山腹に鋼管を打ち込み、安全と判断していた。それでも亀裂が発生したのは、不安定な土砂の規模が、機構の当初の予想より大きかったためだという。
地滑りを受け、機構は過去の調査結果を再び洗い出したが「他の個所では地滑りの心配はない」という。
ダムの地滑りをめぐっては03年5月、奈良県川上村の国交省・大滝ダムの試験貯水中に、周辺の家や道路で亀裂が見つかり、37世帯77人の住民が移転したことがある。
ダムの問題点を追及する水源開発問題全国連絡会(東京都千代田区)の嶋津暉之共同代表は「もともと危険だと分かっていた場所で、地滑りは起きるべくして起きた。水位を上げたら再発しかねないので、湛水はゆっくり慎重にやるべきだ」と指摘している。
《滝沢ダム》 秩父市大滝に計画されている洪水調節や利水、発電などを目的とした多目的ダム。総工費は2320億円。99年に着工し、04年に本体が完成。08年04月に運用を開始する予定。