2008年4月24日 朝日新聞社説より転載
淀川のダム―「待った」に従う時だ
淀川水系で国土交通省がつくろうとしている四つのダムに、ほかならぬ国交省の諮問機関から「待った」がかかった。
住民や学識経験者らで構成される流域委員会がダムの費用対効果を考えて、「ダム建設より堤防の補強をすべきだ」との意見書をまとめたのだ。
国交省は「ダムは必要」と反論するが、足元の諮問機関から「脱ダム」を求められたのは極めて異例のことである。流域委の意見は納得できる。ただちに建設を中止し、河川整備計画を練り直すべきだ。
流域委が「待った」をかけた根拠のひとつは、ダムの建設費が高いことだ。この建設費は国交省だけでなく、地元の自治体も負担する。改めて建設費を算出するよう国交省に求めたところ、4ダムで合計約3800億円かかることがわかった。当初の計画より820億円もふくらんでいた。
1200万の流域住民の安全が確実に守れるのなら、それでも計画を進めるという選択肢もあるだろう。
だが、流域委がそれぞれのダムを検証すると、治水の効果はあまり期待できなかった。たとえば、滋賀県に計画中の大戸川ダムは、200年に1度の大洪水が起きた時に、下流の大阪市で水位を最大19センチ下げるだけだった。
ほかのダムの建設についても、国交省は委員を納得させるだけの十分な説明ができなかった。
淀川水系には、水があふれれば壊れかねない堤防が、延べ約100キロもある。そうした危険な堤防を造りかえることこそ急がねばならない。住民の避難態勢を整え、川があふれることを前提とした土地利用計画を立てることも大切だ。流域委はそう指摘した。
住民の被害を抑えるうえで、流域委の指摘は的を射ているものばかりだ。
ところが、あきれたことに、国交省は意見書に反論し、「堤防は洪水時に確実な効果が期待できない。ダムなら下流の全域の水位低下に貢献する」などと主張している。
国交省がダム建設にこだわるのは、いったん始めた事業を途中でやめたくないというメンツに加え、これまでに多額の金をつぎ込んできたという背景があるだろう。だが、ここで中止しないと、さらに多額の建設費がかかる。国家財政が行きづまっている時に、そのことをよく考えてもらいたい。
地元の自治体は声を上げるべきだ。これらのダム建設で、たとえば大阪府の場合、負担は400億円を超えるという試算もある。今年度1100億円の歳出削減を図ろうとする大阪府に、そんな余裕があるのか。
今回の意見書は、その川の流域に暮らす人たちが考え抜いて出した結論である。それを遠く離れた霞が関でくつがえしてはいけない。