「連載 八ッ場ダムはいま」(朝日新聞)

2008年6月22日 朝日新聞群馬版より転載

【茂原璋男(あき・お)副知事に聞く】「住民の生活再建 急務」

 ――仮排水トンネルの工事が始まりました。「八ツ場ダム地域生活再建推進連絡会」委員長としての思いを。

 ほっとしている。本体工事の着工につながる一つの区切りだ。地元の人にとっても、ダムを「造る」「造らない」の議論は昔のこと。今は「造る」という方向の中で、「早く新しい生活に移りたい」というのが実感ではないか。

 ――県の果たすべき役割は。

 下流都県の利水や治水のためとはいえ、水没する世帯が多くなるのは残念だ。その住民たちが生活を早く再建できるようにすることが、県の最大の責任だ。

 昨年末に工期が5年延び、移転が遅れると心配した人も多いだろう。これ以上工期が延びないよう、国土交通省に働きかけている。

 ――利水や治水という八ツ場ダム建設の目的には疑問視する声もあります。

 確かにここ数年、水不足という話はあまり聞かなくなった。節水の技術が進んできたこともあるだろう。

 だが、温暖化で気候は不安定な時代になった。将来まで見すえた上で本当に水が余っていると言えるかは疑問だ。

 また、災害はいつどこで起きるか分からない。昨年は、雨があまり降らないはずの西毛地区を台風が直撃した。

 防災に「ここまでやればいい」という限度はない。120%の対策を講じて万が一に備えるというのが、防災に携わる者の基本的理念だ。

 ――県議会内には、賛成と反対、双方の立場の議員連盟が設立されました。

 議論していただくのは大いに結構。ただ、「ダムは要らない」という話になってしまうと、また完成が遅れるのでは、と地元は心配するだろう。造ることを前提に、地元の住民の生活をいかに再建させるかという点に絞って考えを深めてほしい。

 ――万が一、ダム建設が中止になった場合、地元への支援にも影響は出るのでしょうか。

 ダムが完成し、水没するからこその支援だが、建設をやめたからといって、ほっといていいものではない。

 旅館は、客に快適なサービスを提供するための設備投資をしたかったのに、「水没する以上は(ムダになる)」と控えてきた。老朽化した住宅の建て替えを見送ってきた人もいるだろう。そんな状態が何十年も続いた。
 たとえ中止になっても、住民が不安なく、暮らせるようにしなくてはならない。(聞き手・吉田拓史)

 1952年に計画が示された国営八ツ場ダム(長野原町)。ダム本体の準備工事が現地で始まるなど15年度の完成に向けた工程が着々と進む一方、いまだにダムの必要性を疑問視する声も上がる。今後の見通しやダムへの思いを関係者に聞いた =随時掲載

2008年6月23日 朝日新聞群馬版より転載
【ダムを考える議員の会 関口茂樹氏に聞く】 「水は十分 建設は不要」

 ――1都5県の県議らによる会を結成した目的は何でしょうか。

 水は限られた資源であり、共通の財産。八ツ場ダムで蓄えた水は、東京など首都圏でも利用することになっており、ダムの事業費のうち約2500億円を1都5県で負担する。ダムの必要性や税金の使い道をチェックするのは、この6都県の議員の責任だ。

 東京では、水の供給能力が需要を大きく上回っており、新たな水源は必要としていない。群馬では約20億トンの地下水が蓄えられているという。これは八ツ場ダムの貯水量の約20倍にあたる。

 ――国土交通省は、治水面でもダムの必要性を強調しています。

 昨年の台風9号では百年に一度の大雨が降ったのに、吾妻川流域では大きな被害はなかった。川の上流では戦後に植林された木が育ち、緑のダムができている。自然の調整機能が証明されたといえる。

 国交省は、ダムによる治水効果を机上の計算で過剰に見積もっている。いまこそ、しっかり計算し直し、データを国民に公開すべきだ。

 ――元鬼石町長として、神流川の下久保ダムについても問題を指摘されていますね。

 関東一の清流、神流川もダムができて、だめになった。国の天然記念物に指定されている三波石峡もかつての美しさは見られない。川は洪水や渇水を繰り返すことで、その美しさや生命力を保っている。危険かどうかという視点だけで川を見るのは間違いだ。

 八ツ場ダムができれば、吾妻渓谷の観光客は現在の10倍以上に増えるというが、そんなことは考えられない。

 ――水没予定地の住民の生活再建は、どのようにしたらいいのでしょうか。

 ダム計画によって、長い間、地域住民を苦しめてきたのだから、その補償として生活再建のための法律を一刻も早くつくるべきだ。全国の公共事業でもヒントとなる事例があり、実現可能だと考えている。

 ――八ツ場では仮排水トンネルの工事が始まりました。ダム建設は後戻りできるのでしょうか。

 本体工事をやらなければいい。構想から随分時間がたち、ダムは目的を喪失した。東京や他県でも反対する議員が増えている。ダム建設中止は、夢物語では決してない。(聞き手・乳井泰彦)=随時掲載