2008年9月12日
長期化するダム計画の代名詞として「東の八ッ場 西の川辺」と相称された川辺川ダム計画。昨日、熊本県議会において蒲島郁夫知事がダム計画の白紙撤回を求めたことを受け、国が計画見直しを明らかにしました。
川辺川ダム事業では、ダム関連工事、水没予定地住民の移転が殆ど終わった状態で、下流の反対運動が大きく盛り上がり、利水・発電が撤退し、本体着工できないまま時間が経過してきました。川辺川ダム事業が中止されれば、水没予定地として甚大な被害をこうむってきた五木村の再生に対して本格的な取り組みを行うことが急務です。
八ッ場では膨大な税金を投入しながら地域は衰退の道をたどり、ダム事業による関連工事、住民の移転は道半ばです。国直轄の巨大ダム計画の見直しは、今後、国の河川行政にどのような影響を与えるのでしょうか?
○熊本県議会(9月11日)における蒲島郁夫知事の発言要旨はこちらです。(熊本県庁ホームページより)↓
http://www.pref.kumamoto.jp/sec_img/0141/200811120707032.pdf
○朝日新聞1面よりより転載(9/12)
「川辺川ダムの計画見直し視野 首相「地元の考え方尊重」
政府は11日、熊本県の蒲島郁夫知事が川辺川ダム建設に反対する考えを表明したことを受け、ダム建設に代わる案があるかどうかも含め、県側の意向を踏まえながら対応する方針を固めた。知事が「白紙撤回すべきだ」と明言したことから、現状の建設計画をそのまま進めることは困難と判断した。
福田首相は同日、記者団に「どういう状況で地元の意向が示されたか、よく検討した上で最終判断すべきだと思う。いずれにしても地元の考え方は尊重されるべきだ」と語った。
町村官房長官も記者会見で「知事があそこまで強く言われた以上、国として知事の意向を無視して進めることは無理ではないか。地元がイエスと言わなければ、工事は進められない。地元の理解を得てやるのが当然だ」と述べ、県側との協議なしで計画を進めることはないとの考えを示した。
一方、ダム建設を所管する国交省の春田謙事務次官も同日の会見で「ダムなしでやっていくべきだという投げかけを受け止め、きちんと検討していかなければならない。(球磨川水系の)治水対策全体を見直す」と強調。省内には「何十年も検討してきたのに急に別の選択肢があるわけではない」との慎重論もあるが、ダム建設の中止も視野に、新たな治水対策を模索することになりそうだ。
○朝日新聞社説
「川辺川ダム―撤退のモデルケースに」(9/12)
走り出したら止まらない。そんな巨大公共事業の代表格だった熊本県の川辺川ダムが、建設中止に追い込まれる可能性が高くなった。
蒲島郁夫知事が県議会で「ダムによらない治水対策を進め、川と共生するまちづくりを追求したい」と反対を表明したのだ。
川辺川ダムは国土交通省が計画を進める九州で最大級のダムだ。河川法では「知事の意見を聴かなければならない」と定められているだけだが、さすがに知事の反対は無視できないのだろう。国交省は「今回の判断を重く受け止める」という談話を出した。
国交省はただちにダムから撤退し、川床を深くしたり遊水池をつくったりする治水対策に手をつけるべきだ。
川辺川ダムの建設には、もともと無理があった。治水と利水、発電の多目的ダムとして40年以上も前に計画されたが、農業用水を供給する利水と発電からは撤退していた。350億円だったはずの事業費は3300億円にまでふくらんだ。清流が失われる、と地元の漁協や住民が反対し、完成のめどすら立たなくなっていた。
そんななかで、今春の知事選に立候補した蒲島氏は「半年後にダムの是非を判断する」と述べ、当選した。この間に有識者会議を開き、ダムの必要性を吟味した。建設予定地の相良村の村長、治水の恩恵を受けると言われた人吉市の市長が反対を表明した。
ダムを造るにはあと1千億円以上かかる。熊本県の負担は300億円以上になる。熊本県は財政難に陥っており、知事自身が月給を100万円カットしているぐらいだ。そんな財政事情も判断の根拠となったのだろう。
ここで引き返す勇気をきっぱりと示した蒲島知事の決断を評価したい。
気になるのは「五木の子守唄(うた)」で有名な水没予定地域の振興策だ。住民の多くは村内の高台や村外に移転している。国交省からは「建設中止の場合、生活再建の支援はできない」との声が漏れてくるが、とんでもない話だ。
ダムの本体は未着工で、まだ清流は流れている。地元の意向に沿って道路の建設や農地の確保などを進めるのはもちろんのこと、残された自然を活用する振興策を探ってはどうか。政府はきちんと財源の手当てをすべきだ。
国交省が全国で計画を進める約150のダムの総事業費は9兆円を超える。国家財政が危機なのに、なかなか見直そうとしない。関西の淀川では、専門家や住民でつくる流域委員会が四つのダム計画に待ったをかける意見を出したのに、国交省は無視してダム建設の計画案を発表している。
いまこそ、すべてのダム計画を再点検し、必要性の低いダムから撤退していくべきだ。川辺川ダムからの撤退をそのモデルケースにしたい。
○日本経済新聞社説
「川辺川ダムは中止すべきだ」(9/12)
一度計画されると止まらない大型公共事業の象徴として注目を集めている熊本県の川辺川ダム建設事業が新たな局面を迎えた。熊本県の蒲島郁夫知事が国土交通省に対して計画の白紙撤回を求めたためだ。
球磨川の支流の川辺川に、旧建設省がダム計画を打ち出したのは1966年。以来、地元では賛成、反対の両派が対立し、本体工事に着手できないまま42年が過ぎた。
もともとは多目的ダムだったが、地元の同意を得られずに農水省が利水事業から撤退し、Jパワー(電源開発)も発電事業を取りやめた。国交省は現在、事業費3000億円超の治水専用ダムに計画を変えている。
知事は環境面への影響などを反対の理由にあげている。実際、ダムができれば清流が失われ、アユ漁や観光面の被害は避けられない。ダムには確かに治水面で一定の効果がある。しかし、想定を超す豪雨が襲い、ダムから水が放流されれば、洪水被害が増すという指摘もある。
国交省はダムの下底部に放流口を設ける「穴あき」方式ならば環境への影響を抑えられると主張するが、巨大な人工構造物を造ることに変わりはない。その治水効果を示す実証的なデータも不足している。
ダム建設地の相良村、ダムが完成すれば治水面で最も恩恵を受ける人吉市の両首長も最近、ダム反対を表明している。国交省は知事発言を受けてダム以外の治水対策も検討する姿勢を示したが、その結果「やはりダムで」というのでは困る。
人吉市の田中信孝市長は「水害よりも、対立による不信感で人と人のかかわりが希薄になったことこそ、重大な地域被害だ」と述べている。不幸な歴史に終止符を打つのは今しかない。今後の河川管理は河床の土砂撤去や堤防強化、住宅のかさ上げなどによる「減災」に重点を移すべきだろう。
見直すべき事業は川辺川ダムだけではない。関西の淀川水系のダムなど、ほかにも全国各地に計画公表後、長期間にわたって宙に浮いている事業がある。採算性が疑問視される高速道路も少なくない。
いっそのこと、時間が経過した公共事業は一度白紙に戻すことを政府は法制化したらどうか。
○毎日新聞より転載
「事業の無駄争点に 民主」(9/12)
熊本県の蒲島郁夫知事が川辺川ダム建設計画の中止を求めたことについて、民主党の鳩山由紀夫幹事長は11日、記者団に「国も一刻も早く中止を決定していただきたい」と述べた。さらに、8月に視察した八ッ場ダム(群馬県)を「全く無駄な事業」として、「無駄をなくす民主か、一度進んだ事業は止められない自民か。選挙の争点にする大きな話だ」と指摘した。また、共産党の市田忠義書記局長は会見で、「地元住民の粘り強い長期にわたる運動の成果だ」と話した。(野口武則)