八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

公開再質問に対する国交省の回答へのコメント(付け替え国道145号線について)

2008年10月1日

「八ッ場ダムの工期延長と再評価に関する再公開質問書」に対する国土交通省八ッ場ダム工事事務所の回答について

 八ッ場あしたの会では、2008年3月25日付で国土交通省八ッ場ダム工事事務所に上記の公開質問書を提出しました。
★公開再質問書の全文はこちらです。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/article.php?storyid=531

 半年たったさる9月25日、ようやく国土交通省より回答(9月19日付)が届きました。
★国土交通省からの回答全文は、国土交通省八ッ場ダム工事事務所のサイト(Q&A)に掲載されています。↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/faq/080924-2qa.html

 回答の内容は、大河原雅子参議院議員の質問主意書に対する政府答弁書(6月3日)と重複するところがありますので、今回は国道145号線の問題に絞ってコメントを公表します。

 なお、八ッ場ダムの工期を2015年度まで延長する基本計画の変更が9月に行われましたが、実際には2015年度の完成はきわめて困難です。付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地が完成して、旧国道、旧鉄道を廃止し、地元住民の移転が完了しなければ、洪水時に水没予定地が冠水する恐れがあるので、本格的なダム本体工事にかかることはできません。国土交通省の工程表では、2009~2010年度までに付替国道等の工事や代替地への移転を完了させることになっていますが、実際にこれらの進捗状況は予定より大幅に遅れています。その中でとりわけ遅れている工事のひとつが付替国道145号線の工事です。

1 付替国道145号線の完成までにかかる年数について
1-1 工事の遅れについて
 八ッ場ダムが2015年度末に完成する工事予定表では、付替国道は2010年度初めから暫定供用されることになっています。しかし、付替国道145号線は1995年度に着工したにもかかわらず、今年3月末の工事進捗率は52%(2車線の進捗率)にとどまっています。
 このことについて国交省は「付替道路については、事業費が大きく工事に期間を要するトンネルや橋梁を先行して整備していることから、これまでの工事の進捗率を考慮しても、一般国道145号の2車線分の付替国道は平成22年度末までに・・・・完了すると見込んでいます。」と回答しています。しかし、残りの48%の区間の工事をあと1年半で完了させることはまったく不可能なことです。

1-2 川原畑地区の付替国道の難工事について
 付替国道の予定地のうち、川原畑地区は地質が劣悪で、昨年12月には川原畑代替地に隣接する国道予定地の法面2箇所(上ノ平、三平)で、大きな崩落事故がありました。この法面崩落事故に関して質問したところ、国交省は「崩落が発生した原因及びその対策工法について、調査及び検討を行い、8月から対策工事を開始しており、引き続き、川原畑地区を含む一般国道145号の付替工事を進めていくこととしています。」と回答しています。
 しかし、9月10日に現地(下流側崩落箇所 三平代替地)を八ッ場ダムを考える1都5県議員の会が視察した限りでは、対策工事はまだ始まっておらず、この回答も事実を偽っています。
 法面の崩落は2箇所ともかなり大きなもので、その対策工事も無数のグラウンドアンカーを打つ大規模なものですから、この付近の地質の脆弱さがよくわかりますし、その対策工事はかなりの日数と費用を必要とします。
 このように川原畑地区は地質が脆弱ですが、その中でもとりわけ弱いのが地すべり地形が見られる二社平で、ここはなかなか手をつけられないと噂されています。とにかく、下流側からきた松谷第一トンネルが地上に出る川原畑地区では付替国道がまだ殆ど姿を見せていないのです。
 客観的に見て、川原畑地区の付替国道工事はいつになったら終るのか、予定が立たない状況です。

2 付替国道145号線の4車線化について
2-1 4車線化を事実上放棄
 付替国道は4車線の地域高規格道路として計画されて、4車線を前提として水特法事業(水源地域整備事業)から巨額の費用が支出されています。ところが、トンネルなども含め現在までにできた付替国道は、ほとんど全線が2車線のみです。そこで、4車線化するのに必要な工事年数を質問したところ、国交省は「一般国道145号の付替道路については、平成22年度末までにダム事業として実施する2車線分の工事を完了し、平成23年度当初の供用開始を予定しています。4車線化の時期については、道路事業として群馬県が実施する事業であり、当職としてお答えできないことから、群馬県に問い合わせて頂きますようお願いします。」と答えました。

 6月3日の政府答弁書で「四車線化の時期及びトンネル部分と橋梁部分の構造については、二車線での供用開始後、交通の状況に応じて検討することとしており、現時点でお答えすることは困難である。」と答えていましたが、今回の回答では群馬県に責任を押し付けてしまいました。
 二車線での供用開始が2011年度ですから、それから検討して群馬県が判断するということは4車線化が事実上なくなったことを意味します。なぜなら、4車線化の費用は水特法事業から支出されるものですから、ダム建設事業が終了すれば、その支出も基本的には終りになり、2011年度から4車線化の検討を始めて、2015年度までに4車線化の工事を完了させるのは、今まで二車線を造るのに要した年数から考えて不可能なことだからです。

2-2 4車線化を前提した事業費計画の破綻
 付替国道145号線の事業費はダム建設事業と水特法事業から支出され、その総額は733億円となっています。この総額は4車線化を前提としたもので、2車線のままということで計画されていれば、情報公開資料から試算すると、464億円となり、約270億円も減額されます。
 しかし、付替国道の事業費執行率は2007年度末で66%(ダム建設事業と水特法事業の計)となっています。2車線での工事進捗率は52%ですから、残り34%の残事業費で2車線の付替国道ができるかどうかもわからない状況になっており、4車線化の工事費は残っていないと考えられます。
このように、4車線化を前提としてつくられた付替国道145号線の事業費計画はすでに破綻してしまっているのです。

2-3 幻の4車線化のための過大な負担
 付替国道145号線の事業費733億円のうち、水特法事業の負担額は295億円で、このうち、2/3は(旧)道路特別会計から支出され、1/3は下流都県の負担になっています。(旧)道路特別会計からの支出が197億円、下流都県の負担額は98億円です。
 ところが、2車線のままということで計画されていれば、水特法事業の負担額を情報公開資料から試算すると、110億円となり、(旧)道路特別会計からの支出は73億円、下流都県の負担額も37億円に減額されます。
すなわち、国および下流都県は幻の4車線化のために、それぞれ197億円-73億円=124億円、98億円-37億円=61億円も水特法事業の中で過大な負担をさせられつつあるのです。