2008年11月4日 東京新聞「こちら特報部」より転載
国が熊本県に計画する川辺川ダムについて蒲島郁夫知事が反対を表明、歴史の分岐点を迎えた日本のダム建設。ダム建設重視の水資源開発基本計画を国土交通省が見直す方針と報じられたが、肝心の河川法は手つかずだ。河川整備の在り方を考えようと2,3の両日、京都市で開かれた「川の全国シンポジウム」でも、流域住民の意向を無視する国交省の姿勢を追及する声が相次いだ。(関口克己)
ダム計画の見直しを求める全国の住民団体や河川整備の専門家など計六百四十人が詰めかけたシンポジウム。「国交省は、自らが決定したことを自らで否定した。暴挙だ」との声が上がった。
「国交省が自ら河川法犯した」
主に取り上げられたのは、関西の淀川水系に計画される四つのダム計画。国交省近畿地方整備局の諮問機関「淀川水系流域委員会」は十月、大戸川ダム(大津市)など四つのダム建設を否定する最終意見書をまとめた。ところが、それに先立つ六月、整備局は四ダムの建設を盛り込んだ淀川水系の河川整備計画案を決定してしまっていた問題だ。
一九九七年に改正した河川法では、ダム建設など河川整備計画案作成では、学識経験者や流域住民の意見を聴くと規定。その手法となる流域委の意見を、国交省が無視するのは極めて異例だ。
龍谷大学法科大学院の寺田武彦教授は国交省の姿勢について、「流域委の意見を聴く必要性を認めながら、意見書が出たら『聴き置く』ではすまされない。国は自ら法を犯した」と激しく批判。出席者からは「流域委をパワーアップする必要がある」などの意見が出た。
続いて、各地の市民団体が運動の現状を報告。「首都圏の水がめ」として半世紀前に計画された八ッ場ダム(群馬県長野原町)にtrすいて、「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長が総事業費が過去最多の四千六百億円となることから、「全国一の”メタボ”ダムだ」と酷評。来年度予定のダム本体着工中止と水没地の生活再建の重要性を強調した。
川辺川ダムについては、環境カウンセラーのつる祥子さんが報告。金子一義国交相と蒲島知事が先月、ダム以外での洪水対策を探る協議機関を設置することを紹介し、「球磨川流域にダムがなくなり、川と海がつながるまで頑張る」と決意表明した。
加藤さんが講演「立ち止まって」
特別講演に立ったのは国連環境計画親善大使を務める歌手、加藤登紀子さん。川辺川や八ッ場など、ダム計画地に何度も足を運び、計画に翻弄される水没地を見てきた。
加藤さんは、人間では抑えきれない自然の営みに触れつつ、各地のダム計画には「今こそ変わり目。『何も問題ない』と突き進んできた日本が立ち止まって総点検する時期にきている」と見直しを強く求め、こうささやいた。
「自然を破壊することは、結局、人間を壊すことなんです」
二日間で計十三時間に及んだシンポジウムを締めくくった「京都宣言」は、「全国の川が命をはぐくむ川ではなく、水路になってしまった」と嘆いた上で、各地の流域住民にも意識転換の必要性を唱えた。
「もう行政だけに任せてはいけません。任せてきた結果が現状なのですから」