河川行政の行方が注目される淀川についての記事です。
2008年12月14日 東京新聞特報記事より転載
「4知事、本当に改革派? 「流域委、すべて不適切」反映されず 大戸川ダム中止要請 「1つ止めガス抜き」批判も」
関西の淀川水系に国が計画する大戸川ダム(大津市)について先月、流域四府県知事が行った中止要請。識者からは「改革派知事」との声がある一方、「残る三ダムヘのゴーサインになりかねない」との批判も出ている。 (関口克己)
淀川水系は国上交通省近畿地方整備局が管轄し、現在七つのダムがある。計画では、大戸川のほか川上(三重県伊賀市)、丹生(滋賀県余呉町)の各ダムを造り、天ケ瀬ダム(京都府宇治市)を再開発する。いずれも治水、利水など多目的利用だった。
一九九七年に改正された河川法は、今後三十年の河川整備計画を作成する際、流域の有識者や住民の意見を聴くことを求めている。近畿地整局は二〇〇一年、諮問機関の淀川水系流域委員会を設置。流域委は今年四月、大戸川ダムは二百年に一度の洪水時でも淀川の治水効果が乏しいことなどを指摘し、四ダムすべての建設を「不適切」とする意見書をまとめた。
しかし近畿地整局は六月、全ダム建設を盛り込んだ河川整備計画案を発表。こうした中、大阪、京都、滋賀、三重の知事は先月十一日、共同意見を発表した。大戸川ダムは自治体が既に上水利用から撤退し、治水の緊急性も高くないと判断。川上と天ケ瀬については「基本的に合意」、丹生は「意見を保留」した。
山田啓二京都府知事は「地方自治のレベルを示すことができた」。橋下徹大阪府知事も「国の出先機関はすぐさま都道府県の下に入るべきだ」と改革派をアピールした。
その後も近畿地整局は建設推進の姿勢は崩していないが、識者はどう受け止めているのか。
「国に「NO」を言うことは大変なことだ」と評価するのは、元国交省防災課長で流域委委員長を務めた宮本博司氏。
一時計画が凍結された大戸川ダムは昨年、常時水を流す「穴あきダム」として国が復活させた経緯を挙げ、「一度計画したダムは何か何でも造るという国の意思表示。それを四知事が否定した意義は大きく、三ダム中止に向けた議論のスタートにもなる」と強調する。
すでに600億円を用地取得に使用
一方、今本博健京都大名誉教授(河川工学)は「四知事の判断は甘い」と辛口だ。丹ダムを除く三ダムの総事業費は二千七百四十億円。このうち千八十億円の大戸川ダムでは既に六百億円が用地取得などに使われた。
今本氏は「国の事業でも三割は地元負担。流域委が示した全ダム中止の意見は反映されるべきだった」とし、橋下知事には「国との対決姿勢を示す材料にダムを使うのは許されない」と手厳しい。
市民団体「水源開発問題全国連絡会」共同代表の嶋津暉之氏も「大戸川凍結があたかも地方分権の最先端かのようなポーズを取っただけだ」。
先月三十日、都内で開かれた八ツ場ダム(群馬県)中止を求める住民訴訟の四周年報告集会。長野県知事時代に「脱ダム宣言」した田中康夫参院議員は四知事について「『一つぐらい止めてガス抜きをしないと大変』という国に加担した」と批判し、こう戒めた。
「これに拍手しては、八ッ場は止まらない」