1月23日、前橋地裁における八ッ場の住民訴訟が結審しました。各紙が大きくとりあげましたので、朝日、毎日、読売の記事を転載します。
2009年01月24日
◆朝日新聞群馬版より転載
「八ツ場ダム訴訟大詰め」
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000000901240001
国土交通省が吾妻川に計画している八ツ場(や・ん・ば)ダム(長野原町)をめぐり、ダム反対派の市民ら19人が県を相手取り、建設負担金の支出差し止めを求めた住民訴訟が23日、前橋地裁(松丸伸一郎裁判長)で結審した。判決は6月26日に言い渡される。同様の訴訟は、八ツ場ダムから水を利用したり洪水抑止の恩恵を受けたりする下流域の1都4県の各地裁でも起こされている。既に東京、水戸の2地裁が結審し、判決を待つ。計画が表面化してから56年、国内最高額の4600億円を費やすダム建設をめぐって争われた異例の広域訴訟は、大詰めを迎えている。(大井穣)
04年11月の提訴から4年余り。八ツ場ダム建設の是非を問う住民訴訟は、23回目となったこの日の審理で区切りを迎えた。毎回のように満席となる傍聴席には、この日も原告側の支援者らが大勢詰めかけた。
「百害あって一利もない事業に巨額の税金を支出するのは違法だ」。判決前の最後の主張の場とあって、法廷では原告側の福田寿男弁護士が、ダムが不要と主張する理由を改めて述べた。
閉廷後、原告側の6人が県庁で記者会見を開き、原告の一人で「八ツ場ダムをストップさせる群馬の会」代表の浦野稔さんは「将来に期待が持てる判決を期待したい」と、長きにわたった裁判を締めくくった。
同席した鈴木庸事務局長は、「1都5県のうち一カ所でも勝訴すれば建設は止められる。できればダムの地元でいい結果を期待したい」と話した。敗訴の場合は控訴審で争う意向だという。
一方、朝日新聞の取材に対し、被告側の県特定ダム対策課は「われわれの主張が裁判長に認められるものと思っている」と話した。
訴訟では、利根川の治水▽水需要予測▽建設予定地の地盤――といった点を中心に争われてきた。
治水上、八ツ場ダムが必要とされるのは、1947年のカスリーン台風と同規模の200年に1度の大雨が上流域に降った場合に、上流のダム群で流量を調整し、中・下流域の堤防からあふれさせない計画の一端を担っているからだ。
原告側は、国土交通省が示す治水計画の基準となる伊勢崎市八斗島町の観測地点の流量予測を「机上の計算で、ダムの必要性を訴えるための過大な数字」とし、「国交省の計画を実現させるには、さらに十数基のダムが必要になる」などと主張。47年当時の実際の被害状況や、現在のダムや堤防などの整備状況を考慮すれば新たなダムは不要で、県が無目的にダム建設の負担金を支出しているのは違法だとしている。
これに対し被告側は「流量予測が仮に過大だったとしても、大雨に対する備えを追求した結果であり、県に不利益ではない」などと反論。治水上の空白域になっている吾妻川にもダムが必要だと訴えてきた。
水需要予測については、八ツ場ダムの水を利用する他の1都4県と同様、「過去の実績をみても現状で足りている」とする原告側と、「渇水時などに対する備えが必要」とする被告側が対立。ダム予定地の地盤をめぐっては、「問題ない」とする被告側に対し、原告側は「浅間山噴火で生じた土砂が堆積(たい・せき)してできた軟弱地盤の上に巨大な建造物を造るのは危険だ」などと指摘してきた。
2009年01月24日
◆毎日新聞群馬版より転載
「八ッ場ダム住民訴訟:前橋地裁で結審、6月に判決 /群馬」
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20090124ddlk10040097000c.html
国が長野原町に計画を進める八ッ場ダムの建設事業負担金を県が支出するのは違法として、市民団体「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」(浦野稔代表)の会員19人が支出差し止めなどを県に求めた訴訟は23日、前橋地裁(松丸伸一郎裁判長)で結審した。判決は6月26日。司法がダムの必要性に、どこまで踏み込んだ判断を下すか注目される。
差し止め訴訟は04年11月、ダムの受益者負担金を支出する群馬、東京、千葉、埼玉、茨城、栃木の1都5県で一斉提訴。すでに、東京地裁で昨年11月、水戸地裁で今月、それぞれ結審しており、前橋地裁は3番目となる。
原告はこの日、7項目にわたる最終準備書面を提出。県が水需要予測をしていない点や、47年のカスリーン台風と同規模の洪水が発生しても利根川の八斗島地点での治水効果がない点を指摘し「利水・治水上の必要性はなく、百害あって一利もない事業に巨額の税金を支出するのは違法」と強調した。
県は総事業費4600億円のうち234億円を負担するほか、国道整備など関連事業でも42億円を負担。これとは別に、水没地区の生活再建事業に3億円を支出している。記者会見で原告らは「1都6県のうち一つでも差し止めが認められればダム計画は止まる。裁判所には一歩踏み込んだ判決を期待したい」と述べた。
一方、県側はこれまで「行政訴訟は行政判断の非違を対象とせず、選挙で選ばれた代表者以外にダムの要否を争う正当性はない」と原告の適格性を否定。その上で「利水・治水上でも必要なダム」として、訴えの却下を求めている。【伊澤拓也】
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◆八ッ場ダム事業費にかかる下流都県の負担金◆
ダム事業費 水源地域整備計画事業費 ※利根川水源地域対策基金 合計
群馬 234 42 3 279
東京 871 131 14 1016
千葉 505 61 7 573
埼玉 953 143 15 1111
茨城 269 26 3 298
栃木 10 - - 10
(単位は億円)
※基金は08年度までの支出額
2009年01月24日
◆読売新聞群馬版より転載
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20090124-OYT8T00087.htm
「八ッ場ダム必要性どう判断 県支出差し止め訴訟結審」
利水・治水で対立 6月26日判決
国が計画する八ッ場ダム(長野原町)に県が事業負担金を支出しているのは違法として、「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」(浦野稔代表)が大沢知事らを相手取り、支出の差し止めと損害賠償などを求めた住民訴訟が23日、結審した。判決は6月26日。負担金を支出する1都5県で同時に起こされた住民訴訟のうち、東京都と茨城県の訴訟はすでに結審し、今春以降、相次いで判決が出される見通しだ。年内の本体工事着手を控え、ダムの必要性について司法がどこまで踏み込んだ判断をするかが注目される。
◆争点
訴訟は、市民団体が04年9月に事業負担金支出の差し止めを求めて1都5県で一斉に行った住民監査請求が棄却されたことを受け、同年11月、各都県知事らを相手取って一斉に起こされた。
前橋地裁では、法廷での審理が22回に及び、原告と被告はダムの必要性を巡り、利水と治水の両面で争ってきた。昨年11月には裁判官の現地視察も行われ、結審まで4年2か月を要した。
原告側は、利水について、今後は人口減で水需要が減るため、ダムによる新たな水源開発の必要はないと主張し、治水面でも、伊勢崎市の八斗島基準点で毎秒2万2000立方メートルの水流まで対応することを想定した国の治水計画は過大と主張。必要のないダムへの支出は、地方自治法の定める「最小限の経費で最大効果を上げる義務」に違反するとしている。
一方、県側は「治水・利水両面でダムの必要性は変わらない」との主張で一貫している。利水面では、ダム完成を前提とした暫定水利権で、すでに多くの自治体が水を使っていることを挙げる。治水については「雨の降り方次第で未曽有の被害につながる可能性がある。様々な降雨のパターンに対応するには、堤防やダムで総合的に対応する必要がある」(県特定ダム対策課)などと反論している。
◆地元
地元自治体や住民も裁判の行方を注目している。
長野原町では、水没予定地住民の代替地分譲が07年から始まり、09年度末までにほぼ完成する予定だが、現時点で十数世帯が移転したに過ぎず、希望者全体の1割に満たない。その間、代替地を希望しない住民の転出も進み、集落の維持が困難になってきた。
中でも川原湯温泉の旅館は、施設の老朽化が進む中で改修もままならず、早期移転と再スタートを待ち望んでいる。豊田明美・同温泉旅館組合長は「代替地事業には県や下流都県のお金が必要。拠出されなければ生活再建できないので、判決が心配だ」と語る。
高山欣也町長は「住民はもともとダムに反対だったが、国や県の生活再建案を前提として受け入れた。この期に及んで波風を立てられるのは迷惑」と原告側を批判。判決について「犠牲を強いられてきた住民に配慮し、棄却されることを望む」と話している。
◆狙い--原告「1勝」で計画大幅影響
原告側の最大の狙いは「1都5県の一つでも勝てば、計画に影響を与えることができる」(原告側弁護士)ことだ。4600億円の事業費のうち、群馬県は216億円を負担。他の都県も10~952億円を負担している。各都県の裁判でこれらの一つでも「違法」とされれば、計画全体に影響が出る可能性がある。
結審後会見した1都5県の原告団でつくる連絡会の島津暉之代表は「八ッ場は必ずしも首都圏で知られている存在ではなかったが、裁判によって多くの人に関心を持ってもらうことができた」と世論喚起の意義を強調した。提訴時から現在までの間に、民主党がダム建設見直しを次期衆院選での政権公約に掲げる方針を示すなど、ダム反対派の動きが活発化している。
こうした中、国土交通省は新年度政府予算案に初めて本体工事費を計上、「首都圏の治水・利水いずれの面でも必要性に全く揺るぎはなく、下流都県からも早期完成を望まれている」(関東地方整備局)と、完成を急ぐ姿勢を崩していない。