2009年2月3日 東京新聞 特報面より転載
「八ッ場ダム 市民団体が反対署名 予算審議前の入札広告「既成事実作りだ」 総選挙思惑も 与野党の対立激化」
「首都圏の水がめ」として国土交通省が新年度に本体着工を計画する八ッ場ダム(群馬県長野原町)。民主党など野党が反対しており、次期衆院選はその行方を大きく左右する見通しの中、市民団体「八ッ場あしたの会」(前橋市)が二日、計画の見直しと中止後の水没地の生活再建を支援する法整備を野党などに訴えた。(関口克己)
同ダムをめぐっては、野党が中止を求める一方、推進する自民党では建設地が選挙区(群馬5区)にある小渕優子少子化担当相が先月十八日に現地を視察、「完成を正々堂々と訴えたい」と強調するなど与野党対立が激しくなっている。
あしたの会は昨年末までの約一年間、ダム計画見直しと生活再建支援の法整備を求める署名活動を実施。首都圏を中心に全国各地で九千人を超える署名を集めた。この日、参院議員会館で開いた集会では、野党や反対する無所属議員計八人にその署名を提出、反対ムードを高めた。
あしたの会運営委員の嶋津暉之さんはあいさつで、国交省が新年度のダム本体着工、二〇一五年度完成を目指していることを紹介。「代替地など周辺関連工事は大幅に遅れ、完成が大幅に遅れることは必至。中止が遅れるほど税金は無駄遣いされ、地元住民の生活と精神状態は追い込まれていく」などと早期中止を求めた。
出席議員らも「首都圏の水は余っており、ダムは目的を失った」(共産党・紙智子参院議員)、「熊本県の川辺川ダムや淀川水系の大戸川ダムに地元知事が反対するなど、ダムをめぐって大きな変化が起きている」(民主党・大河原雅子参院員)、「すばらしい吾妻渓谷が論拠のない計画で埋められることに憤りを感じる」(社民党・近藤正道参院議員)などと同調した。
周辺関連工事の遅れは工事現場のもろい地質が原因。あしたの会はダム建設地から南東約二十㌔の群馬・長野県境の浅間山が繰り返した噴火の堆積物が地すべりを起こすため、と指摘する。
同日未明、その浅間山が小規模の噴火を起こした。ある議員からは「八ッ場ダムへの怒りが表れたんじゃないか」とジョークも飛んだ。
集会では国交省が新年度予算案の国会審議入り前にダム本体工事の入札を公告したことも問題視された。
財務省は新年度予算案で同ダム建設費二百二十五億円を計上。このうち初めて本体工事費として約十億円を認め、国交省も先月九日、新年度予算成立を前提にしながら、一般競争入札の九月実施を発表した。九月といえば衆院議員任期満了月、それまでに必ずある次期総選挙では同ダムに反対する民主党が政権を握る可能性も少なくない。
国交省は予算審議前の入札公告を「ほかの公共事業でも例があり、おかしい話ではない」と説明するが、嶋津さんは「今さらダムは止められないという既成事実づくりだ」と厳しく批判。長野県知事時代の「脱ダム宣言」で知られる田中康夫参院議員(新党日本代表)もこう訴えた。
「国交省が予算執行を急ぐのは、本体着工できなかった場合、役人が瑕疵を
問われないようにするためだ」