八ッ場ダム事業の費用便益の問題について

2009年5月30日

八ッ場ダム建設事業の費用便益比計算の問題点について(その2)

 2009年2月24日の関東地方整備局事業評価監視委員会で八ッ場ダム建設事業の再評価が行われ、継続妥当となりました。八ッ場ダムの費用便益比の新計算値が3.4となり、1を大きく上回っていることが継続妥当の判断根拠でした。しかし、八ッ場ダムの費用便益比の計算は実態とかけ離れた机上の計算に過ぎず、3.4程度の値が得られるように数字を操作したものでしかありません。

再評価の資料は以下参照↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/office2/jigyohyoka/pdf/h20/03siryo/siryo1-2.pdf

〔注〕八ッ場ダム事業は2007年12月21日の委員会でも再評価が行われています。通常は5年おきの再評価なのですが、八ッ場ダム事業は昨年度は基本計画の変更(工期延長)があるということで、今回は今年度に本体工事に着工するという理由で再評価が行われました。

 この費用便益比は現実から遊離した計算によるものと考えられるので、大河原雅子参議院議員がその計算資料の提出を参議院予算委員会で求めました。その資料が国土交通省から提出されましたので、それによって明らかになったことを報告します。
 八ッ場ダムの便益は、洪水の氾濫が軽減される便益と、吾妻渓谷の流量不足が少なくなることによる景観改善(河川の水量確保)の便益の二つから構成されています。(別紙A-1
 今回は、前者の「洪水氾濫軽減の便益計算」の問題点を報告します。後者の「景観改善の便益計算」の問題点については、さる4月7日に記者会見で公表した内容を以下に掲載しています。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/article.php?storyid=738

八ッ場ダムの「洪水氾濫軽減の便益計算」の問題点

 国土交通省による「洪水氾濫軽減の便益計算」は利根川の現実とかけ離れた机上の計算に過ぎない。計算の手順については、末尾の「解説」を参照されたい。基本的な問題点として次の六つがある。
 計算結果の一例として、1998年洪水の計算結果を別紙A-2-1~7に示す。上の表が八ッ場ダムのない場合、下の表が八ッ場ダムのある場合の被害額を示している。

(1)上流ブロックと下流ブロックの同時氾濫は実際には起こらない。
 実際の洪水では上流ブロックで氾濫すれば、河川内の洪水の一部が外に逃げて洪水位が下がるため、下流ブロックでの氾濫は起きにくくなる。ところが、国交省は各ブロックで氾濫が同時進行するという前提で計算しており、上流ブロックで氾濫しても、それとは無関係に下流ブロックでも氾濫することになっている。たとえば、別紙A-2-4の1/30(30年に一回の洪水)を見ると、12ブロックのうち、11ブロックで(八ッ場ダムがあってもなくても)同時に破堤し、氾濫することになっているが、そのような上流下流の同時進行の氾濫は1/30規模程度の洪水では起こらないことである。実際は上流側のブロックだけの氾濫に限られるのであって、国土交通省は現実と遊離した同時進行の氾濫を想定して、氾濫被害額を大幅に水増しているのである。

(2)現実にはない小規模洪水の氾濫を想定
 別紙A-2-1~3を見ると、(八ッ場ダムがあってもなくても)1/3(3年に一回)規模の洪水で早くも1ブロックで氾濫が起き、1/5(5年に一回)規模の洪水になると、4ブロックで、さらに1/10(10年に一回)規模の洪水になると、5ブロックで氾濫が起きている。1/3~1/10規模という頻繁に発生する小さい洪水でも、このように各地で氾濫が起きることになっているが、実際に利根川本川筋では1949年のキティ台風の後では、氾濫らしい氾濫が起きたことがない。50年以上氾濫がなかったのに、国土交通省の計算では3~10年に一回の規模でも各地で氾濫が起きるというのであるから、現実と遊離した架空の計算が行われていることは明らかである。

(3)想定洪水の流量が現実とかけ離れた大きな値になっている
 別紙A-3は1998年洪水の八斗島地点の観測流量を示したものである。最大流量は9,220m3/秒となっている。1998年洪水は1949年のキティ台風のあと、利根川で発生した最大洪水であるから、概ね50年に1回の洪水と言ってよい。
ところが、国土交通省の計算ではこの規模の洪水が1/10(10年に一回)の確率で発生することになっている。別紙A-4は同じ1998年洪水についての計算結果である。上図が八ッ場ダムのない場合の流量変化、下図が八ッ場ダムのある場合の流量変化を示している。上図において、1/3~1/200の7段階の洪水規模別の最大流量をみると、1/3が5,290m3/秒、1/5が6,940m3/秒、1/10が9,270m3/秒であって、実際に観測された9,220m3/秒は10年に1回の洪水となっている。過去57年間(キティ台風の後)の最大洪水である1998年洪水が国土交通省の計算では1/10(10年に一回の)洪水になっているのであるから、想定洪水流量の計算が現実とかけ離れていることは明らかである。

(4)利根川の流下能力を過小評価して氾濫を起きやすくしている
 別紙A-5は今回の便益計算に使われた利根川の流下能力図の一例で、八斗島地点から栗橋地点の少し下流までの区間を示している。最大流下能力(実際の流下能力)は最小のところでも、19,250m3/秒もあるにもかかわらず、無害流量(氾濫計算で使用した流下能力)は最小のところは11,005m3/秒しかないということで、それを超える洪水が発生すれば氾濫することになっている。国土交通省は河道の流下能力を過小評価するルールを作って、利根川の流下能力を実際よりかなり小さく評価し、それによって小さい洪水でも氾濫することにしているのである。

 (2)で見たように国土交通省の計算で小規模洪水でも氾濫するのは、(3)のとおり、洪水流量を過大想定し、一方で(4)のとおり、利根川の流下能力を実際よりかなり過小評価していることによるものである。

(5)八ッ場ダムの洪水削減効果をひどく過大評価
 (3)で述べたとおり、別紙A-4の1/10(10年に一回の)洪水が1998年洪水の実際の観測流量とほぼ同じ値になっているので、この洪水に注目すれば、八ッ場ダムの洪水削減効果の計算値と実際値を比較することができる。上図(八ッ場ダムのない場合)と下図(八ッ場ダムのある場合)のそれぞれについて1/10(10年に一回の)洪水の最大流量を見ると、上図が9,270m3/秒、下図が8,360m3/秒で、その差は約900m3/秒である。このように、国土交通省の計算では1998年洪水において八斗島地点での八ッ場ダムの洪水削減効果が約900m3/秒もあることになっている。
 1998年洪水において八ッ場ダムがあった場合の実際の削減効果は八ッ場ダム予定地直下にある岩島地点の観測流量から推測することができる。別紙A-6は岩島地点の観測流量から流域面積比でダム地点の洪水流量を計算し、さらに、八ッ場ダムの洪水調節ルールを当てはめて、八ッ場ダム地点での洪水調節量を求めたものである。その最大値は約500m3/秒であるが、これはダム地点での削減量であって、八斗島地点では大幅に小さくなる。第一に、八ッ場ダム地点の洪水ピークがそのまま下流に移行して、約70km下流にある八斗島地点の洪水ピークに重なるとは限らない。時間がずれるのが通常であって、ずれればずれるほど、八斗島地点の洪水ピークの削減量は小さくなる。第二に、実際の河川では川の合流時に洪水同士がぶつかり合って洪水ピーク流量が小さくなるという河道貯留効果がある。吾妻川の八ッ場ダム予定地からの洪水が八斗島地点に到達するまでに吾妻川の複数の支川との合流、利根川本川との合流、烏川との合流があって、それぞれで河道貯留効果が働くから、八ッ場ダム地点の洪水流量変化がそのまま八斗島地点の流量変化を構成することはなく、八斗島地点への影響はかなり小さくなる。第一と第二のことを考慮すれば、岩島地点の観測流量から見て、八斗島地点での八ッ場ダムの洪水削減効果はせいぜい300m3/秒程度である。
 それに対して、国土交通省の計算では約900m3/秒であるから、八ッ場ダムの治水効果は約3倍に水増しされていることになる。

(6)八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の計算での不可解な操作
 八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の最終値を出すに当たって、国土交通省は計画高水流量(八斗島地点で毎秒16,500㎥)の確率規模を超える部分のみを八ッ場ダムに係る分としているが(別紙B-3)、これは辻褄合わせのための数字の操作である。
 計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期は遠い将来のことであり、一方、八ッ場ダムの完成予定年度は現時点では平成27年度とされているから、遠い将来に達成される予定の計画高水流量で八ッ場ダムに係る分を取り出すのはまったく不合理である。それにもかかわらず、そのような取り出しを国土交通省がわざわざ行ったのは、そうでもしないと、八ッ場ダムの費用便益比が14~15倍という異様に大きな値になってしまうからに他ならない。すなわち、前回の計算による費用便益比が2.9であったから、今回の計算でもそれに近い値が得られるように数字の操作を行ったに違いない。ということは、八ッ場ダムの費用便益比の計算は最初からおよその数字がきまっていて、それに近い値が得られるように行ったものに過ぎないことを意味するのであって。(1)~(5)で述べた問題も含めて科学的な計算とは程遠いものなのである。

(7)まとめ
 以上のように、八ッ場ダムの洪水氾濫軽減便益は現実と乖離した架空の計算によるものであって、実際には意味を持たないものである。現実と遊離した計算によって洪水氾濫軽減便益の値が大きく膨れ上がり、一方で、あまりにも膨れ上がったため、不合理な理由で数字を操作して、前回の計算による費用便益比と同レベルの数字にしているのである。
 そのようにきわめて恣意的な計算で八ッ場ダム建設事業の費用便益比が求められ、それによって事業継続が妥当という判断がされていることは由々しき問題である。

【解説】 洪水氾濫軽減の便益と費用便益比の計算の手順
 国土交通省による洪水氾濫軽減の便益計算の手順の概要は次のとおりである。
① 利根川の氾濫ブロックの設定
利根川の河口距離約200km上流地点から河口部までの両岸流域を12の氾濫ブロックに分ける。(別紙B-1)  (八斗島地点は河口距離約182km)
② 各氾濫ブロックの破堤地点の設定
 各ブロックごとに、破堤した場合に最大被害が生じる破堤地点を設定する。
③ 計算対象洪水の選定
過去の10洪水(1947年洪水、1998年洪水など)を選定する。(10通りの時間的地域的降雨パターンを想定)
④ 洪水流量規模の設定
1/2、1/5、1/10、1/30、1/50、1/100、1/200の7段階の洪水流量規模を設定する。1/200(200年に1回)の洪水流量は既設ダム+八ッ場ダムがない場合が八斗島地点で20,980m3/秒。
⑤ 氾濫シミュレーション、
10洪水の洪水流量規模ごとに八ッ場ダムがない場合とある場合について各ブロックで氾濫シミュレーションの計算
⑥ 被害額の計算
 八ッ場ダムがない場合とある場合について10洪水の洪水流量規模ごとに氾濫被害額を計算する。(別紙B-2)
⑦ 年平均被害軽減期待額の計算
 八ッ場ダムがない場合とある場合について10洪水の被害額を洪水流量規模ごとに平均。
 八ッ場ダムのない場合とある場合の被害額の差をとって洪水流量規模ごとに八ッ場ダムによる被害軽減額を算出。
 各洪水流量の発生確率と洪水流量規模ごとの被害軽減額から、八ッ場ダムによる被害軽減額の平均値(年平均被害軽減期待額)を求める。(別紙B-3)
Ⅳ そのうち、計画高水流量(八斗島地点で毎秒16,500㎥)の確率規模(1/57(57年に1回))を超える部分を取り出し、その合算値を八ッ場ダムに係る年平均被害軽減期待額とする。(別紙B-3)
⑧ 費用対便益比の計算
 年平均被害軽減期待額から現在価値に換算した毎年の洪水調節便益を求め、それに維持用水便益(景観改善便益)と残存価値を加算して便益の合計とし、それを費用で割って、八ッ場ダムの費用便益比を計算する。(別紙B-4)