2009年6月2日
八ッ場あしたの会では、八ッ場ダム事業の本体工事着工を前に開催された関東地方整備局事業評価監視委員会(2009年2月24日)の「費用便益計算」に多くの疑問があることから、本日、国土交通省八ッ場ダム工事事務所に公開質問書を提出しました。「費用便益計算」についての会の見解、根拠となるデータ(本文に別紙と記載)は以下に掲載しています。
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https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=567
「八ッ場ダムによる吾妻渓谷の景観改善(事業評価の問題点)」
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=599
「八ッ場ダム事業の費用便益計算の問題点について(その2)
公開質問書の内容を以下に転載します。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所 所長 澁谷 慎一 様
八ッ場ダム建設事業の費用便益比の計算に関する公開質問書
2009年2月24日の関東地方整備局事業評価監視委員会で八ッ場ダム建設事業の再評価が行われ、継続妥当となりました。八ッ場ダムの費用便益比の新計算値が3.4となり、1を大きく上回っていることが継続妥当の判断の根拠でした。しかし、この八ッ場ダムの費用便益比の計算は実態と大きくかけ離れており、重大な疑問がいくつもあります。
八ッ場ダムの便益は、洪水の氾濫が軽減される便益と、吾妻渓谷の流量不足が少なくなることによる景観改善(河川の水量確保)の便益の二つから構成されています。
この二つの便益計算の疑問点について下記のとおり質問しますので、文書でお答えくださるよう、お願いします。費用便益比の計算の妥当性は八ッ場ダムの継続是非に関わるきわめて重要な事柄ですので、真摯にお答えください。
ご回答を6月20日までにお送りくださるようお願いします。
1 洪水調節に係る便益計算について
(1)洪水氾濫シミュレーションについて
ア 洪水調節に係る便益は洪水氾濫のシミュレーションの計算結果から求められています。このシミュレーションは利根川の上流部(河口距離約200km付近)から河口までの本川(江戸川を含む)の周辺を12ブロックに分けて行われています。昭和22年のカスリーン台風の後の実際の洪水で、この12ブロックのそれぞれにおいて本川からの氾濫が起きたことがあるならば、その氾濫浸水面積を洪水ごとに示してください。
イ 今回の計算結果の一例(平成10年9月型洪水)をみると、3年に一回の洪水では12ブロックのうちの1ブロックで破堤・氾濫が起き、そして、5年に一回の洪水では4ブロックで、10年に一回の洪水では5ブロック、30年に一回の洪水では11ブロックで破堤・氾濫が起きていますが、実際にはそのように頻繁な氾濫はまったく起きていません。実際には起きていない破堤・氾濫が計算される理由を詳しく説明してください。
ウ 今回の洪水氾濫シミュレーションの結果が実際と大きく異なった第一の理由として考えられるのは、想定洪水流量が大きすぎることです。利根川の八斗島地点で昭和25年以降の最大の洪水は平成10年9月洪水の毎秒9,222㎥であって、実績流量の推移から見て、これが50年に一回程度の洪水であると考えられます。今回の計算でも平成10年9月型洪水が計算対象となっていますが、実績の毎秒9,222㎥程度の洪水が今回の計算では何年に一回の洪水と想定されているのかを明らかにしてください。
エ 第二の理由として考えられるのは、利根川の河道の流下能力の過小評価です。今回の計算でたとえば八斗島地点から栗橋地点までの区間において氾濫開始流量が毎秒何㎥とされたのかを明らかにしてください。また、堤防の天端まで洪水が流れる場合の流下能力を考えた場合、この区間における最小の流下能力が毎秒何㎥であるかも明らかにしてください。
オ 第三の理由として考えられるのは、各ブロックの氾濫が同時に進行することがあるという前提で計算していることです。しかし、実際には、上流ブロックで氾濫すれば、河川内の洪水の一部が外に逃げて洪水位が下がるため、下流ブロックでの氾濫は起きにくくなります。今回の計算において上流ブロックで氾濫しても、それとは無関係に下流ブロックでも氾濫するという現実離れした計算を行った理由を明らかにしてください。
(2)八ッ場ダムの洪水調節効果について
ア 今回の計算では八斗島地点における八ッ場ダムの洪水調節効果をどのようなデータと手順で求めたのかを明らかにしてください。
イ 八ッ場ダム予定地の直下では岩島地点で毎時の流量観測が行われています。岩島地点の毎時の観測流量で見て、今回の八ッ場ダムの洪水調節効果はあまりにも大きすぎると考えられます。今回の計算による八ッ場ダムの洪水調節効果が妥当であるかどうかを岩島地点の毎時の観測流量で検証した結果を示してください。
(3)八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の計算での不可解な操作
ア 八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の最終値を出すに当たって、計画高水流量(八斗島地点で毎秒16500㎥)の確率規模を超える部分のみを八ッ場ダムに係る分としていますが、そのように計画高水流量の確率規模を超える部分を取り出す理由を説明してください。
イ 計画高水流量の確率規模を超えない部分も含めた場合は八ッ場ダムの費用便益比がいくつになるのか、その計算値を示してください。
ウ 利根川において計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期の見通しを明らかにしてください。また、今後30年間の河川整備の内容を定める現在策定中の利根川水系河川整備計画では河道で対応する八斗島地点の目標流量を毎秒何㎥にする予定なのか、およその数字の範囲を示してください。
エ 計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期は遠い将来のことであり、一方、八ッ場ダムの完成予定年度は現時点では平成27年度とされていますから、遠い将来に達成される予定の計画高水流量で八ッ場ダムに係る分を取り出すのはまったく不合理です。それにもかかわらず、そのような取り出しを国土交通省がわざわざ行ったのは、そうでもしないと、八ッ場ダムの費用便益比が14~15倍という異様に大きな値になってしまうからに他なりません。すなわち、前回の計算による費用便益比が2.9であったから、今回の計算でもそれに近い値が得られるように数字の操作を行ったものと推測されます。となると、八ッ場ダムの費用便益比の計算は最初からおよその数字がきまっていて、それに近い値が得られるように行ったものに過ぎず、(1)と(2)で述べた問題、および後述の2で述べる問題も含めて科学的な計算とは程遠いものです。そのようにきわめて恣意的な計算で八ッ場ダム建設事業の費用便益比が求められ、それによって事業継続が妥当という判断がされていることは由々しき問題です。この点に関する見解を明らかにしてください。
2 景観改善に係る便益計算について
(1)八ッ場ダム建設のマイナス面に何も触れないアンケート
景観改善については吾妻渓谷の観光客を対象としたアンケート調査を行い、その結果から便益計算が行われていますが、そのアンケート用紙は、八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナス面にはまったく触れないものになっています。八ッ場ダムが建設されれば、
①「渓谷の上流部は破壊され、水没する」、②「渓谷の前面に大きなダムが聳え立って渓谷の視野が遮られる」、③「残る渓谷の中下流部も八ッ場ダムで洪水調節を行うようになると、下久保ダム直下にある三波石峡のように洪水が渓谷の岩肌を洗うことがなくなり、岩肌に草木やコケが生えて景観がひどく悪化する」ことが確実に予想されるのであって、そのことにまったく触れないアンケート用紙を配布するのはあまりにも不誠実です。八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナス面にまったく触れないアンケートを行った理由を明らかにしてください。
(2)吾妻渓谷の観光客数を大きく水増しした景観の便益計算
今回の計算では、上記のアンケートの結果から得た数字(景観改善に観光客が一人当たり年間1,560円払う)に観光客数をかけて、八ッ場ダムの景観改善の便益を計算しています。そこで使われた観光客数は約57万人ですが、これは実際よりもかなり大きな数字です。吾妻渓谷の散策を楽しめる日数は、雨天、厳寒、酷暑の日を除くと、せいぜい年間の半分、180日程度ですから、57万人を180日で割ると、一日平均で3,000人になりますが、そんなに大勢の人が吾妻渓谷に来ているはずがありません。国土交通省が11月初旬の最もよい季節で延べ5日間、アンケート調査を行った対象が677人にとどまっていることから見ても、一日平均で3,000人、5日間で15,000人という観光客数が現実離れした数字であることは明らかです。この点について見解を示してください。
(3)八ッ場ダムがなくても、発電の水利権更新で解消される吾妻渓谷の流量減少
吾妻渓谷の晴天日の流量は多くはなく、渇水時の冬期には毎秒1㎥前後まで流量が落ち込むことがあります。この原因は東京電力の水力発電所の大量取水にあります。吾妻川には多くの水力発電所が設置されていて、川に流れるべき水の大半が発電所への送水管の中を流れています。吾妻渓谷と並行して走っている松谷発電所の送水管には最大で毎秒25.6㎥の水が流れています。しかし、これらの発電所は水利権の更新時期を近々迎えることになっており、そのときに下流放流が義務付けられるので、吾妻渓谷の減水状態は解消されることになります。このことに関して次の三点の質問にお答えください。
ア 松谷発電所の水利権の更新時期はいつか。
イ その水利権更新によっておよそ毎秒何㎥の下流放流が義務付けられると予想されるのか。
ウ このように発電所の水利権更新で解決する吾妻渓谷の減水状態の解消を八ッ場ダムの便益とすることに問題はないのか。
以上