2009年7月3日 朝日新聞社会面より転載
民主党の鳩山代表が「コンクリートの方が大事で、人の命を粗末にする政治」の例に挙げ、同党のマニフェストで中止がうたわれることになった八ッ場ダム。その建設予定地は、自民党の小渕優子少子化担当相(35)の地元・衆院群馬5区にある。
小渕氏は父の故・恵三元首相から地盤(後援会)、看板(知名度)、カバン(資金)を継ぎ、00年総選挙で初当選した。父が企業・団体献金の受け皿とした「党群馬県ふるさと振興支部」も継承、父が竹下登元首相の下で築いた「さい銭方式」と呼ばれる小口献金の収集方式も踏襲した。
祖父の光平・元衆院議員から3代目になる世襲議員の典型。そんな小渕氏の足元にも「政権交代」の波は迫る。
「地元の国会議員なのに何もしないのはまずい」
「ダムを通過するだけで視察したことがない」
ダム湖に水没する長野原町の川原湯温泉で、小渕氏への不満が町議らから沸き起こったのは昨年8月、鳩山氏が視察し「中止宣告」をしたのがきっかけだった。
隣の草津温泉より酸性の弱い「草津の上がり湯」として知られるが、ダム建設に伴う補償を待ち望む旅館経営者は少なくない。民主党が政権を取ればダムは白紙になるーそんな不安から、小渕氏への不満を募らせた町議らに押される形で、自らも旅館を閉じた高山欣也町長が1月に集会を開き、小渕氏を呼び寄せた。
6月26日に議員生活10年目に入った小渕氏は「世襲だから駄目だと言われないよう、初当選時から一生懸命頑張ってきた」。だが、党県連関係者は「優子氏はアイドル。仕事は周りがする」。初当選から陳情のほとんどは父の時代からの秘書がさばいてきた。南波和憲県連幹事長は「3回目までは親の選挙、4回目の次が初めての自分の選挙」。そろそろ独り立ちしなければ有権者が離反しかねない、との危機感がのぞく。
「最年少閣僚」「閣僚初の妊娠」で話題を呼び、磐石に見える小渕氏だが、前回総選挙は「小泉旋風」が吹き荒れる中、初当選時より2万票近く減らした。04年には伯父の光平中之条町長(故人)が町長選でマニフェスト選挙を展開した新顔に大敗。後援会トップの柳沢本次元県議は「小渕家が国政も町政も長年独占してきたのは許されないとの批判が出てきた」と分析する。
「選挙がいつあるのか本当に心配。臨月になって遊説車の窓から顔出したら怒られるかな」。小渕氏は同21日、地元での講演で苦笑した。懐妊を発表した2月には後援会幹部に「2人目(の妊娠)が始まっちゃったの。選挙前で大臣で忙しいのに、しかられちゃうわよね」と漏らした。
ただ、民主党にとって、「世襲」の壁はなお高い。「八ッ場ダム中止」を打ち出しながら対抗馬を擁立しない。表向きは社民党候補への支援を理由にしているが、本音は「世襲に挑戦するのは大変」(党関係者)。
小渕氏は26日の記者会見でこう語った。「げたを履かせていただいている。他にやりたい若手がいても出られない環境にある。新たなルール作りをしていただく必要がある」 (鶴岡正寛)