八ッ場ダム 予定地に共有地8カ所 相続人295人 所在確認難航

2009年7月3日 朝日新聞群馬版より転載

 国土交通省が15年度の完成を目指している八ツ場ダムで、用地買収が遅れる可能性があることがわかった。長野原町川原湯地区の水没予定地には8カ所の共有地があり、295人の相続人がいるが、所在がつかめなかったりダムに反対の立場だったりする人も含まれているとされるからだ。国交省は「交渉を急いでいる」としているが、3度目の工期延長にもつながりかねない。(菅野雄介)

 地元関係者によると、共有地は、川原湯温泉の共同浴場「王湯」周辺や神社、橋周辺、墓地など。8カ所で計約5500平方メートルある。

 登記簿では、王湯付近の土地は366平方メートルあり、1919(大正8)年の売買で32人の共有名義になった。その後、40(昭和15)年に相続で16人分が、04年に1人分の名義が変更されただけで、残りは大正時代の名義のままだ。

 41(昭和16)年に43人の共有名義で登記され、04年に1人分だけ名義変更された土地や、21(大正10)年に登記されたままの共有地もある。

 当時の制度上、土地を購入した行政区「川原湯区」が、行政区名義では登記できず、住民の名前を借用したとみられている。

 国交省八ツ場ダム工事事務所によると、共有地は名義人から子や孫に代替わりし、現在295人が法定相続人となっている。用地買収は住民らの移転代替地、JR吾妻線や国道145号の付け替え工事などにかかわる土地を優先していたため、約2年前、水没予定地の共有地の存在に気づいたという。

 法務省民事局によれば、基本的に相続人の同意なしに名義変更や譲渡などの処分はできない。このため同事務所は、相続人に依頼文書を送って理解を得て、川原湯区へ名義を変更した上で買収する方針。

 だが、相続人は移転するなどして全員の所在確認は簡単にはいかない。また地元関係者は「名義人の中には(ダム反対の)共産党の支持者もいる。交渉は簡単ではない」と話す。

 本体工事などの関係上、用地買収は12年度に完了させることになっており、同事務所では「所在確認を急ぐ。早く理解を得るよう死に物狂いで努力するしかない」と取材に説明した。

 「地元の理解を得られない」として、土地収用法に基づく強制執行手続きは取らない方針だ。

 ダム計画がスタートしてから57年もの時間の経過が権利関係を複雑にした格好。八ツ場ダムはこれまで2度、工期を延長してきただけに、地元では「また先延ばしか」との声も漏れている。