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民主「中止」公約、地元は推進要望 八ッ場ダムどうなる(西日本新聞)

2009年8月25日 西日本新聞より転載
http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/display/6797/

焦点・FOCUS=民主「中止」を公約、地元は推進要望 八ツ場ダムどうなる 群馬 構想から57年進む周辺工事

 ●川辺川ダムに影響も
 政権交代を目指す民主党が、川辺川ダム(熊本県相良村)とともにマニフェスト(政権公約)で「中止」を明記した群馬県長野原町の八ツ場(やんば)ダム。民主党は「無駄な公共事業」と名指ししたが、国土交通省はダム本体の着工準備を進め、地元知事も建設推進を求めている。衆院選後に民主党政権が誕生した場合には「中止」をめぐる混乱が避けられない状況で、川辺川ダム計画の先行きに影響を及ぼす可能性もある。 (東京報道部・山本敦文)
 
 全長440メートルのコンクリート製の橋げたが清流の上にアーチを描く。
 八ツ場ダム建設に伴う水没予定地の生活再建事業として建設中の通称「3号橋」。現在は2車線だが、将来は4車線の地域高規格道路として山峡を結ぶ。
 
 現地で目を引くのは、ダム建設地の周辺で進む公共事業の潤沢さだ。水没地には4本の橋が架けられ、国道や県道、JR吾妻線も移設される予定。国交省によると、総事業費の8割以上が生活再建事業に費やされるという。
 
 ダム本体の工事現場では工事中に水を迂回(うかい)させる仮排水トンネルが7月に完成した。国交省は9月24日にダムの本体工事の入札を行い受注業者を決める段取りになっている。
 
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 八ツ場ダムと川辺川ダム。反対運動などで構想から40年以上が過ぎても完成していない歩みと、周辺整備が進む現状はほぼ重なる。違うのは地元自治体の対応だ。
 
 熊本県の蒲島郁夫知事が建設反対を表明した川辺川ダムに対し、八ツ場ダムは「(中止すれば)給水区域内の県民約160万人の水道水に影響する」(上田清司・埼玉県知事)など受益地がある1都5県はすべて建設推進の立場。ダム計画を中止するには国が地元知事に意見を聴く手続きが必要となるが、知事全員の同意を得るのは困難とみられる。
 
 民主党政権が誕生し中止を強行した場合、ダム建設のために自治体が払ってきた負担金の返還を求められる可能性もある。民主党は、ダム中止の影響を抑えるため、水没予定地に交付金を支給する特別措置を検討している。しかし、下流域の対策には言及しておらず論点はかみ合っていない。
 
 「ダムを中止する場合の最大のハードルは関係者の合意形成。だが課題が多すぎて、シミュレーションのしようがない」。国交省事業監理室の担当者はお手上げの様子だ。
 
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 山峡では5地区で住宅などの代替地の整備が進み、一部で新しい生活が始まっている。国交省によると水没予定地の4割にあたる134世帯が代替地への移転を希望しているという。
 
 長野原町がある衆院群馬5区は自民の小渕優子少子化担当相の地盤。今回の衆院選で民主は公認候補の擁立を見送った。
 
 「今更ダムを中止するなんて想像できない。民主党の候補がいないから、地域をどうするつもりなのか話も聞けないし…」。代替地に移った男性は、当事者抜きで進む「ダム中止」の議論にもどかしさを口にした。
 
 水没予定地の生活再建策や、ダムに代わる治水対策の検討は川辺川ダムにも共通する課題。民主党の政権担当能力は「中止」の決断後に問われることになる。