読売新聞群馬版連載「八ッ場ダムを問う」

 読売新聞群馬版が、八ッ場ダムをテーマに、推進派、中止派の論客へのインタビュー記事を交互に連載しています。

1.2009年10月22日ー長野原町長 高山欣也さん(66)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091021-OYT8T01289.htm

(一部転載)
――ダム湖にこだわっていないのか。

 それは違う。長く再建案を練ってきたのだから、いきなりなくされては途方に暮れる。あと6年もすればダムから逃れられるはずだったのに、今から再建案を練っていては5年、10年とすぐにかかる。約束通りダムを完成させてほしい。

――前原国土交通相が現地視察した際、意見交換会に参加しなかった理由は。

住民の大多数は「ダムを中途半端に止めてもらっては困る」という意見だが、国交相はダムに反対する特定の住民の声だけ聞き、就任して2時間たたずに中止と言った。決めてから話を聞いても仕方がない。出席しなくて正解だった。「十分意見を聞いてから方針を決める」と言えば、こんなことにはならなかった。

2.2009年10月23日ー水源開発問題全国連絡会代表 嶋津暉之さん(66) 
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091022-OYT8T01242.htm

(一部転載)
――民主党政権の「中止」の進め方をどう見るか。

 前原国土交通相は、まだダム不要の具体的理由を話していないが、これから語っていくのだろう。利害関係者と調整しながら結論を出すのが本来のやり方だが、それでは八ッ場ダムは止まらない。トップダウンで結論を出し、その後で調整を図るのはやむを得ない。

 ――住民が置き去りだ。

 57年間もダムに振り回されたのだから、怒るのは当然。国は来年の通常国会で生活再建と補償の法律を作ると言っているが、その時に生活再建のたたき台となる案を示す必要がある。衰退した地域産業を立て直す計画も必要だ。地元はダム湖前提のプランを持っているが、ダム湖が観光資源になった例は少ない。現実的な再生の道を歩んでほしい。

3.2009年10月24日ー埼玉県知事 上田清司さん (61)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091024-OYT8T00375.htm

(一部転載)
――知事も民主党出身だ。

 民主党が八ッ場ダムをマニフェスト(政権公約)に掲げてすぐ、代表と幹事長に手紙を出したのは、傷が大きくならないようにとの思いやりからだ。公共事業削減で生み出すとした1兆3000億円に少なくとも八ッ場ダムは入らない。初歩的なミスだ。後になって河川改修や地滑り対策など、トータルで費用がかかると言っているが、気分で言っているようなものだ。

 ――国に望むことは。

 代替案を早く説明に来てほしいが、説明する内容がないから来られないと疑わざるを得ない。過去の計画変更では必ず説明に来た。事業費が2110億円から4600億円に増えた時も。前原大臣は、増額のメカニズムを暴けばいい。国交省の外郭団体しか一元的に資料を持っていないのはなぜか、費用見積もりが正しいのかなどを解明し、まさに無駄を取り除けばいい。

4.2009年10月26日ー民主党県連会長代行 中島政希さん(56)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091025-OYT8T01072.htm

(一部転載)
 ――無駄の象徴だと。

 八ッ場ダムへの年間支出は、インド洋での海上自衛隊の補給活動を上回る。それだけ大きな負担をして、不要なダムのために若山牧水や与謝野晶子が愛した希少な自然を湖に沈めてしまうのは大きな間違いだ。戦争と同じで、巨大公共事業も引き返すには勇気がいる。やめるには政治の力によるしかない。戦前、尾瀬を水力発電のためにダムで沈める計画があった。当時は、推進の議論にある程度正当性はあったと思う。だが今、尾瀬をダム湖に沈めると言ったとしても、賛成する人はいない。時代によって住民の意識も、公共事業の必要性の判断も変わる。

 ――地元では建設を求める声が強い。

 地元の有力者が推進論に傾いているのは知っているが、一代前までは皆あの場所を残そうと反対していた。中止すればきっと後世、あそこに住む人たちも造らなくて良かったと思うはず。吾妻渓谷の貴重な自然は、今の住民だけのものではなく、先祖から未来に至る日本国民の財産だ。

5.2009年10月27日 川原湯温泉旅館組合長 豊田明美さん(44)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091027-OYT8T00007.htm

(一部転載)
――今の住民の心境は。

 ショックが大きい。人生設計が崩され、これからどう生きていくか一人ひとり考えているところだ。転出する人も出るだろう。一部報道のバッシングによる苦痛も味わっている。住民が余分に金をもらうと勘違いする人がいるが、国からはいま建っているものを建てる金しかもらえない。いい家を建てた人は自腹を切っただけ。それを金もうけと思われるのは悲しい。

 ――中止を受け入れる余地はあるのか。

 個人的には、ダム本体と生活再建は切り離して考えるべきだと思う。本体は賛成派・反対派がいて、双方のデータの真偽を調べるにも時間がかかる。それは専門家や政治家にじっくり議論してもらえばいいし、その結果、ダムが国益に資さないのなら中止もやむを得ないだろう。一方、生活再建は誰もが必要と認めるのだから、先に仕上げてもらいたい。再建が長引けばまた人口が減り、温泉地が成り立たなくなる。もうこれ以上は待てない。

6.2009年10月29日 八ッ場あしたの会代表世話人、歌手 加藤登紀子さん(65)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091028-OYT8T01403.htm

(一部転載)
――07年5月には川原湯でコンサートも。

 私は歌手なので、この場所をすばらしいと思う気持ちを何十年もの苦しみを味わった人たちに歌で聞いてほしいと申し入れた。私がダム反対の立場なので、なかなか決まらなかったが、旅館組合で話し合って「小さい規模なら」と実現した。当日、「百万本のバラ」を歌った時、地元の人から大きなバラの花束を贈られたが、「今日は皆さんの気持ちにバラを差し上げたい」と、集まってくれたおばあちゃんたちに一輪ずつ配ってもらった。心の中にふるさとへの愛を持ち続けている人たちが、故郷を失わずにこれからを素晴らしく生きていけるようになるのが私の夢。

 ――地元の人たちは、前原国土交通相の中止表明に涙ながらに建設継続を訴えた。

 今は仕方ない。住民の意思は中止反対が大半という報道もあったが、住民の発言も変化してきている。地元の人が納得して、自分のスタンスを見つけるための時間が必要。みんなで、自分たちの良い未来を開くプランを作りながら国と交渉するスタートラインに立ってほしい。

7.2009年10月30日 自民党県連幹事長 南波和憲さん(62)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091030-OYT8T00012.htm

(一部転載)
――長引いたのは自民党政権下で、特に現地を含む旧群馬3区では、福田赳夫、中曽根康弘両元首相が激しく競ったことが背景との指摘がある。

 1965年から75年ごろは、国が一番八ッ場ダムを造りたかった時期で、反対も激しかった。その時代、国は水没地域に一切金を出さず、公共事業を行わなかった。橋はつり橋のまま。そんな中、県が78年につり橋を鉄筋コンクリートに架け替えて、地域の将来を一緒に考えようと言ってくれたことで、地元の一部は、「県が間に入るなら」と動き始めた。それを受けて、賛成、反対の意見が過激になり、賛成の人はあの国会議員、反対の人はこの国会議員、とそれぞれ頼み、県議も同じ系列で動いた時代があった。確かに現地に金を出さなかったのは自民党政権。だが、当時は関東地方建設局長がサインしたら、国がやってくれると思っていた。

 ――前原国交相は生活再建は進めると言っている。

 関連工事を進めるのは最低限必要だが、それは生活再建ではない。法律上、生活再建はダム湖に面する大字で行う事業で、それ以外の地域で行う地域振興整備を含め、あらゆることがダム湖を前提に組み立てられている。その前提で、県や下流都県は、水源地域対策特別措置法に基づく事業を進めている。その前提が無くなったときの事業主体すら決まっていない。

8.2009年10月31日 新党日本代表 田中 康夫さん(53)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091030-OYT8T01351.htm

(一部転載)
――八ッ場ダムは不要だという考えなのか。

 必要ない。仮に完成しても、治水基準点の八斗島(やったじま)(伊勢崎市)では堤防の上端まで4メートルも余裕がある一方、水位はわずか13センチしか下がらない。基本高水流量とか貯留関数と言う河川工学の実は、日本だけの特殊な方程式で、数字を入れたが最後、「ダムは必要」となる。とするなら、地球温暖化の危機を訴えたアル・ゴアの「不都合な真実」に学ぶべき。「北極の氷が解けてシロクマがこんなに死ぬ」と恐怖をあおるだけでなく、「この発想で産業を転換すれば、新しい雇用が生まれてハッピーな社会になる」と具体的に示しているから、勇気や希望になる。公共事業がいけないのではなく、そのあり方を変えねばならない。戦中に造られて古くなったダムを壊す「廃ダム」だって新しい公共事業だ。なのに、要る要らないの感情論に終始するから、「こんなに翻弄(ほんろう)されたのに、何を今さら都会の連中が」となる。

 ――前原国土交通相の手法はどうか。

 「河川とは何か」を大本から見直して、ダム建設よりも護岸補強や森林整備、危険地域の家屋移転などの方がはるかに地域雇用が増えると説明した上で、ダムによらない治水・利水の在り方を示す必要があった。ところが「マニフェストに載せたのだから止めます」と「上から目線」で言ったのだから、地域は混乱するに決まっている。

9.2009年11月1日 県知事 大沢 正明さん(63)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091101-OYT8T00184.htm

(一部転載)
――地元との協議のために国に求めていくことは。

 地元も1都5県も、白紙撤回して話し合ってほしいという基本方針は変わらないが、百歩譲ってダム無しで生活再建すると言うなら、まず青写真を示すべき。そうでなければ、議論のテーブルに着くことさえできない。水源地域対策特別措置法や基金事業による生活再建や地域振興に、ダム無しで下流都県が負担金を出すとは思えない。そうしたことも含めて、しっかりした青写真がなければ、地元を説得できない。

 ――協議の結果、中止を受け入れる余地はあるか。

 すべての面について透明性の中で検証することが先だ。その結果、中止したほうが良いと地元や関係都県と合意が得られれば、受け入れはあるかも知れないが、それだけの青写真が描けるかどうか。

10. 2009年11月3日 京都大学名誉教授 今本博健さん(71)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091102-OYT8T01347.htm

(一部転載)
――八ッ場を訪れたことは。

 5、6回行った。最後は10月初旬。のり面など大々的な工事が進み、立派な道路が造られていた。これでは普通の人は「今さら工事は止められない」と思うだろう。面目にかけてもやるという国土交通省の強い意思を感じた。

 ――民主党の中止方針をどう思うか。

 政権を取るのが遅すぎた。これだけ工事が進み、地元住民は気の毒だ。川原湯温泉はいい湯だ。吾妻渓谷を売りにすれば必ず人は来る。コンクリートに周りを固められ、夏場に28メートルも水位が下がるダム湖に客は来ない。
 (中略)

――住民への対処は。

 余分に金がかかろうと、住民への補償は苦労をかけた分も含めて十分に行う必要がある。これは絶対条件。町を出て行った人も、再び地元に戻るのであればその対象だ。多少の増額は問わず、国はたたき台となる生活再建の代替案を示し、その上で地元が納得できるものを策定すべきだ。

 ――専門家チームを作って再検証するが。

 ダム反対派と賛成派の両方の学者を入れ、公開の場で徹底的に議論させるべき。日本のこれまでの方向を転換するという議論だから、皆が納得できるまで徹底してやってほしい。

11.2009年11月5日 関東学院大学教授 宮村 忠さん(70)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091105-OYT8T00089.htm

(一部引用)
――八ッ場ダム問題をどう見ているか。

 「50年以上もかかっている」と問題にされるが、それほど大事なことだから当然。中国の三峡ダムや米国ミシシッピー川で建設中の大型ダムは、いずれも100年構想。そのことを司馬遼太郎さんに話したら、「大規模なものほど慎重にやるのは中国が歴史から学んだ経験」と言っていた。

(中略)
――八ッ場ダムは造らなくてもいいとも言えるのか。

 利根川の特徴は、大きな支川が多く、それらが関東平野で合流すること。平地の治水は、山間部のように水を押し込めるわけにいかず、やりにくい。利根川流域は山地40%、平地60%で、割合が他の川と逆。そういう条件で、吾妻川という大きな支川にコントロールタワーが無いのは最大の弱点だ。

12.2009年11月8日 元反対期成同盟委員長 竹田博栄さん(80)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1256135252318_02/news/20091107-OYT8T01104.htm

(一部引用)
――出てよかったか。

 出た人の大多数はそう思っているはず。残った人は今もダムのことを考え、会議を繰り返している。そこから解放され、やれやれという気持ちだろう。だから今の住民には同情し、応援したいと思っている。

 ――政府の中止方針をどう思うか。

 住民のことをまったく考えず、少し見ただけで「工事が遅れているのは必要でないから。税金の無駄」と言うのは思いつきか人気取りにしか見えない。下流都県のために犠牲になったのに、なぜまた住民が苦労させられるのか。

 ――ダム湖は必要か。

 生活再建案はダム湖中心の観光開発なので、ダム湖がなければ案そのものがなくなる。住民が人生をかけて作り、その後もずっとそれに取り組み、ようやく実現するところだった。前原国土交通相が「じっくり相談したい」と言うが、冗談ではない。何年協議してきたと思っているのか。自ら代替案を出さないのも誠意が感じられない。

――いま八ッ場について思うことは。

 悪夢を見ていたような気もする。ダム問題は自分の人生そのものだったかもしれない。だから今はダムが完成し、我々が考えた再建案が実現し、故郷に良くなってほしいと思う。ダム湖で本当ににぎわいが戻るかはわからないが、住民がその目標を立てたのだから、それを早く実現するのが最良の再建策だろう。