2009年10月31日付けの産経新聞政治面の連載記事の内容について
【検証・八ツ場ダム】(3)費用度外視の「中止」
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/091031/stt0910310022000-n1.htm
上記の記事では、八ッ場ダムが建設されないと、下流で引き堤が必要になるとして、「3度目の立ち退きを行えというのか」と憤る「江戸川改修促進期成同盟会」の根本崇会長(千葉県野田市長)の声が紹介されています。また、群馬県の試算として、「利根川の分流である江戸川(長さ60キロ)だけで、5千戸超の立ち退きが必要。県特定ダム対策課では「鉄道や国道などの橋梁(きようりよう)改良も必要。あと6年で治水効果がでる八ツ場ダムに比べ、河川改修では長い期間と莫大(ばくだい)な費用が必要となる」という見解を紹介し、立ち退きの用地買収費だけで2兆円を超えるとの試算もあるとしています。しかし、利根川に対する八ッ場ダムの治水効果はその代替策を考える必要がないほどわずかなもので、引き堤(堤防の拡幅)を必要とすることは決してありません。
また、同記事では、中央大学の山田正教授(土木工学)氏による、「『引き堤』に加え、堤防の整備計画自体もガラリと見直されることになる」「右岸と左岸でそれぞれ300キロの延長がある利根川水系。全部を整備し直すことは不可能に近い。堤防の強化とダムの両輪があって、やっと治水ができる」という指摘が紹介され、
「八ツ場ダムが調節しようとする利根川水系の水量は、既存の6つのダムが規制する「毎秒5500立方メートル」の半分近くにあたる「毎秒2400立方メートル」にもなる。これだけの水量が調整できないとなると、下流域の堤防計画は当然見直しが必要になる。」
としています。
この記事の内容には誤りがあると考えられますので、市民団体の見解をお伝えします。
毎秒5500立方メートルとは、利根川水系河川整備基本方針(長期的な河川整備の方針)において治水基準点「八斗島」より上流で必要とされている洪水調節量です。すなわち、八斗島地点における200年に1回の洪水流量(カスリーン台風洪水の再来)(基本高水流量)が毎秒22,000立方メートル、河道整備で可能となる流下能力(計画高水流量)が毎秒16500立方メートルで、その差である5500立方メートルのことです。
国土交通省によれば、そのうち、既設6ダムの調節量が1000立方メートル、八ッ場ダムが600立方メートルとされ、残り3900立方メートルを将来のダム、遊水池で調節することになっています。
一方、毎秒2400立方メートルは八ッ場ダム地点における洪水調節計画の数字です。すなわち、八ッ場ダムの洪水調節計画ではダム地点で毎秒最大3900立方メートルの流入量のうち、2400立方メートルを調節し、1500立方メートルを放流することになっています。毎秒2400立方メートルは八ッ場ダムの洪水調節容量をきめるための数字です。
治水基準点「八斗島」での治水効果とダム地点の計画洪水調節量とは全く意味が異なる数字であり、記事の説明はこれを混同していると考えられます。
国土交通省の数字でも、治水基準点「八斗島」での八ッ場ダムの効果は1/200洪水に対して600立方メートルしかありません。利根川はほとんどのところで十分な流下能力が確保されていますので、そのわずかな効果を必要とはしていません。