八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

群馬県知事に公開質問

 八ッ場あしたの会ではさる12月4日、群馬県知事宛に公開質問書を提出しました。質問内容は10月27日に前原大臣との会談において、大澤知事が示した平成10年利根川河川敷増水についての見解を問うものです。
 ここに公開質問書の全文を公表します。

 平成21年12月4日
 群馬県知事  大澤 正明様
                     八ッ場あしたの会
                     
     前原国土交通大臣との会談における発言に関する公開質問書

 平成21年10月27日 、前原国土交通大臣と関係都県知事との会談がウェルシティ前橋(群馬県前橋市)にて開かれました。その模様は同日のテレビニュース、翌日の新聞記事等にて報道されております。
 当会ではホームページを通じて、会談時における大澤正明群馬県知事の発言に関して、問題点を指摘しました。<資料1>
 後日、当日の議事録が群馬県ホームページ内「八ッ場ダム関連情報」にて公開されましたのを確認し<資料2>、ここで改めてその場における大澤知事の質問発言の中で、平成10年台風5号から発生した利根川増水に関する発言内容に関して、下記のとおり質問いたします。文書でお答えくださるよう、お願いいたします。

◆質問1
 大澤知事は、次のとおり、発言されています。
「これ(※写真パネル)は平成10年に出た大水なんですけど、島津さん、よく民主党の方々が言われる島津さんの説だと13cmしか上がらないとのことですが、とんでもない話です(問題点①②)ね。これは、車が70何台も流されて、死者が出るような事件であった訳です(問題点③)。だから大臣、しっかりとした検証をしていただいて、透明性のある答えを出していただければありがたいと思っています。」

 まず、嶋津暉之(八ッ場あしたの会運営委員)の説について、「とんでもない話」という表現で誤謬と指摘しています。
 嶋津さんが指摘しているのは、「八斗島地点における八ッ場ダムの水位低減効果」であり、その数値を「最大で13cm程度」と試算しております。
 1998年9月16日、台風5号の降雨によって利根川の増水が発生し、八斗島観測地点に於いては同日午前12時の時点で【最大流量:9222.35立方メートル】【最高水位:3.36メートル】が観測されています(国土交通省関東地方整備局・利根川上流河川事務所ホームページ<資料3>)。
 なお、上記「河川情報」によれば、前橋市群馬大橋地点における最高水位[8.86メートル]、最大流量[5650.99立方メートル]を9月16日午前11時に記録していますが、同時刻の水位は利根川上流河川事務所による前橋地点の断面図<資料4>と照らし合わせても堤高より少なく見積もっても4メートル以上は下に位置しています。
パネルを示しながら訴えた大澤知事のご発言の文脈から検証すると、前橋市群馬大橋地点での水位を議論の材料にされているようですが、嶋津氏が指摘している観測点は伊勢崎市八斗島地点です。
大澤知事のご認識(前橋で13センチの上昇)に誤解があるのではないでしょうか?

◆質問2
 平成10年5号台風を元にした議論は、国会に於いても衆議院において質問主意書が提出され、政府答弁が明らかになっています。<資料5>
それによれば、別紙1のとおり、政府は「利根川における八ッ場ダムの治水効果を最近三〇年間の洪水について計算したものは、国土交通省が現時点で詳細を把握しているものは存在しない。」と答弁しており、平成10年洪水についてもその計算がされていないことが明らかになっています。
 大澤知事は嶋津試算に対し「(13cm程度の低減能力は)とんでもない話だ」と指摘されましたが、このご発言がどのような論拠によるものかを明らかにしてください。

◆質問3
 埼玉県では上田知事が定例会見において、大澤知事のご発言を元に、「大澤知事も言われましたが、平成10年の段階でも極めて危ない水面すれすれで、土手近くに置いてあった駐車場の車が全部流される」という不適切な見解を表明し、「八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会」との間で議論が展開されるなど、問題が広範化しています。<資料6>
 その発言内容の問題点を指摘し、改めて大澤知事のご見解を求めます。

「車が70何台も流されて」とされたように、大澤知事は当該の車両の流出はあたかも台風による自然災害であるかのように説明されましたが、実際には、当時の駐車場使用承認の際、及び河川敷駐車場の入り口に設置した利用案内に、「河川の増水または非常事態発生のおそれのあるときには駐車を利用してはならないこと」と明示されていました。現在は使用禁止となっている危険が予知される場所(利根川の河川敷)に駐車場を設置したこと、及びその当日の県庁河川課から駐車場を管理する総務部への増水情報の連絡不行き届きの2点が原因とされ、これは謂わば行政の過失による人災ではないでしょうか。
 その証左に、大澤知事ご本人が県議会議員として出席された平成10年9月議会本議会一般質問に於いて、2名の質問者からの質疑・答弁が群馬県議会議事録に残っています。<資料7>  その抜粋は別紙2のとおりです。
 議事録における当時の総務部長の答弁からも明らかなように、本来危険箇所である当該河川敷を駐車場として利用したこと、その利用については増水の際には駐車を禁じていたこと、緊急に際して避難が遅れたことなどが問題点として認識されています。しかし、前原国交大臣や他都県の知事に対しての発言内容のような説明では、あたかも増水被害という天災が発生したかのような誤解を与えます。
 この件に関して大澤知事のご見解を明らかにしてください。

◆質問4
 同様のことは、「死者が出るような事件」というご発言においても、極めて大きな認識錯誤を生じます。
 先日群馬県公式サイト「八ッ場ダム関連情報」に公開された【利根川増水時の映像とその写真】では「県内の被害は、負傷者1名の人的被害」と説明しています。<資料8>
 上記県議会議事録でも明らかなように、当時、駐車場管理職員は過大な自責の念を負って自らの命を絶たれましたが、大澤知事のご発言は、その場の列席者およびその後の報道で事件を知った方々に、人命が増水によって流され奪われたかのような誤解を与えます。亡くなられた県職員の職務に対する忠誠と人命の重みを鑑みて、このようなご発言はその尊厳を大きく損ねるものです。
 このことについて大澤知事のご見解をお示しください。

 以上4点について、誠意あるご回答をお願い申し上げます。

 なお、当会は過日、関係各知事宛に
『「八ッ場ダム建設事業に関する1都5県知事共同声明」の事実認識の誤り』という見解を関係各団体連携の上で提出させていただきました。
 大澤知事におかれましてもお読みいただいたものと期待申し上げますが、今回の質問に併せご認識とご見解を示されますようお願い申し上げます。

 一方、当日のご発言のうち、最後の談、
 「地元の方々は、57年となる長きに渡りまして翻弄されてきた訳であります。大臣も心配していただいておりますが、私はあまり長くこの問題を引きずることは、地元の方々の気持ちを考えた時、とても耐えられないと思っております。ぜひ、しっかりと生活再建は遅滞することなく進めていただいて、ダムの問題については、治水、利水の面でしっかりと検証していただき、地元の方々が本当に未来が描けるような政策をとっていただけるよう、心からお願い申し上げまして、私のお願いといたします。」
・・という大澤知事のご見解は、当会としても深く共感するところです。
 地域の歴史と風土、悠久の未来と自然環境の保全を念頭に、地域社会の明るい将来設計を願う気持ちをここに改めて表明させていただきます。

◆参照資料
◇資料1:
八ッ場あしたの会ホームページ「関東知事会における群馬県知事発言の説得力」
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=720

◇資料2:
群馬県ホームぺージ【平成21年10月27日 『前原国交省大臣と八ッ場ダム関係1都5県知事との話し合い』議事録】
http://www.pref.gunma.jp/cts/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=86711

◇資料3:
『利根川河川情報』~国土交通省 関東地方整備局・利根川上流河川事務所
http://kasen.tonejo.go.jp/

◇ 資料4:
前橋地点利根川河川断面図~国土交通省 関東地方整備局・利根川上流河川事務所
http://kasen.tonejo.go.jp/suii/graph.asp?I=SUII&S=11&C0=00&TY=0

◇資料5:
『八ッ場ダム問題に関する質問主意書』提出者・石関貴史
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon_pdf_s.nsf/html/shitsumon/pdfS/a169432.pdf/$File/a169432.pdf

『同上答弁書』
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon_pdf_t.nsf/html/shitsumon/pdfT/b169432.pdf/$File/b169432.pdf

◇資料6:
公開質問書に対する県の回答と埼玉の会のコメント
http://yambasaitama.web.fc2.com/pdf/2009/11/re-re-ueda.pdf

◇資料7:
群馬県議会議事録『平成10年9月定例会-09月30日-02号』
http://snipurl.com/tkxmf

◇ 資料8:
群馬県公式サイト:八ッ場ダム関連情報
【平成10年9月16日】台風5号による利根川増水状況
http://www.pref.gunma.jp/cts/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=87132

【別紙1】 質問主意書と政府答弁書(抜粋)

平成二十年五月に、群馬県選出の石関貴史衆議院議員からも質問主意書が提出され、当時の福田総理名にて答弁書が出されています。

以下、同様に質問と答弁を一問一答式に列挙します。

二 利根川に対する八ッ場ダムの治水効果について
 国土交通省によると、八ッ場ダムが計画されている吾妻川の流域面積は、治水基準点「八斗島」(群馬県伊勢崎市)の上流域の1/4を占め、また八ッ場ダムの治水容量は利根川上流域にある六ダムを合計した治水容量の約六割を占めるため、利根川下流域の洪水被害を軽減するとのことである。国土交通省のいう洪水被害の軽減がどの程度のものなのか、八斗島治水基準点における、具体的なデータについて質問する。

<質問>
 2 最近の洪水における八ッ場ダムの治水効果
 最近三〇年間の洪水について八ッ場ダムがあった場合の八斗島地点での治水効果を計算したものがあれば、その計算結果について詳細に説明されたい。八ッ場ダムがあった場合の洪水ピーク流量と最高水位の計算結果、及び実際の洪水ピーク流量と最高水位の観測値、その発生年月日・時刻を明らかにされたい。また、その時の八ッ場ダム地点の最大流入量と最大放流量の計算結果、及びそれぞれの発生年月日・時刻も明らかにされたい。
<答弁>
お尋ねの「最近三〇年間の洪水について八ッ場ダムがあった場合の八斗島地点での治水効果を計算したもの」は、国土交通省が現時点で把握している限りでは存在しない。

<質問>
 3 最近の洪水における八斗島以外での八ッ場ダムの治水効果
 八斗島地点以外で利根川における八ッ場ダムの治水効果を、最近三〇年間の洪水について計算したものがあれば、その計算結果について詳細に説明されたい。八ッ場ダムがあった場合の洪水ピーク流量と最高水位の計算結果、及び実際の洪水ピーク流量と最高水位の観測値、その発生年月日・時刻を明らかにされたい。また、その時の八ッ場ダム地点の最大流入量と最大放流量の計算結果、及びそれぞれの発生年月日・時刻も明らかにされたい。
<答弁>
 お尋ねの「八斗島地点以外で利根川における八ッ場ダムの治水効果を、最近三〇年間の洪水について計算したもの」については、国土交通省が現時点で詳細を把握しているものは存在しない。

【別紙2】 平成10年9月30日群馬県議会本議会一般質問の議事録(抜粋)

【山下勝県議による質問】
 台風5号の大雨で利根川河川敷駐車場から大量の車両が流失するという被災状況が報道され、まことに気の毒だと思いながら見ておりました。当日の職員関係の状況を聞きますと、出勤して間もなく増水の放送があり、駐車場に行ったが間に合わなかった。出勤後、仕事に出かけて庁舎にいなかった。増水が従来にない速さで、1時間もかからずに車流失までに至ったなど、大雨の怖さというものを改めて認識させられました。後日、職員間で台風が予報されているのになぜ駐車させたのか、駐車したのか、もっと素早く強引に搬出できなかったのか、もっと強力な放送や連絡をしなかったのかなど、いろんな意見が交わされたやに聞きます。
 その後、駐車場担当者の自殺が報道され、理由はわかりませんが、私は大変お気の毒なことだと感じました。とりわけこの種事件のありように思いをはせました。経過や内容はともあれ、現実は自然災害が起きたのですから、まず次の災害を食いとめる、そして災害復旧、今後の対策をどうするかという手順ではないかと思うのであります。
 そこで、第1は、河川敷駐車場でどういう被災状況だったのか、まずお聞きいたします

【総務部長答弁】
 御指摘のとおり、まさに経験したことのないような速さで水位が上がりまして、そのため今回の被災となったというふうに考えておるわけですが、現在までに把握できている流された車の台数、報告されたものといたしまして85台となっております。そのうち確認できたものが73台、大変にお気の毒なことであったというふうに思っています。
 流された車の引き揚げ費用の負担についてでありますけれども、もともと河川敷駐車場は県や前橋市の職員などの利用者に便宜を図るというふうな趣旨で設置されているものでありまして、駐車場使用承認の際及び河川敷駐車場の入り口に設置した利用案内によりまして、河川の増水または非常事態発生のおそれのあるときには駐車を利用してはならないこと、また、駐車場で発生した事故についてはすべて当事者がその責めを負うものとするということを承知していただいております。したがいまして、流された車の撤去費用については、これも大変に気の毒ではあるわけですけれども、駐車場の当該利用者にお願いいたしまして、県としては保険請求等に必要な罹災証明の発行など、できる限りの協力をしているというふうな状況であります。
 また、河川敷駐車場が利用できなくなったことにより、職員が通勤に不便を来しています。今後の対策についは、現在鋭意検討を進めているところでありますが、河川敷駐車場についてはこれを廃止することといたしまして、当面、本庁舎及び大渡町庁舎を含めた周辺の職員駐車場を利用するための距離制限の見直し及び通勤方法を公共交通機関に変更していただくなどの方法により対応したいというふうに思っております。

【早川昌枝県議による質問】
 さて、今回の車の流失は、一歩間違えば人命にもかかわりかねない事故であったこと、また、本当に残念ながら、その後の処理の中で職員の方のとうとい命が失われたことを重大にとらえ、質問させていただきます。
 県は今回の事故に対して、県としては責任がないことを事故後いち早く公言していますが、果たして本当にそう言い切れるのでしょうか。県は職員に駐車許可を与え、ゲートやパスカードまでつくり、河川敷という災害時にはリスクの多い場所に駐車させているのです。今回は、台風直後とはいえ、出勤時には際立った水位変化も目視できず、駐車禁止の指示もありませんでした。出勤した職員が何の情報も指示もない中で通常の駐車をしたとしても、やむを得なかったと思います。
 最大の問題は、この朝、5時30分ごろより急激な水位変化が起こることをいち早く察知できていた河川課から、朝7時には、危ないからゲートを閉めた方がよいという重大な情報提供を迅速・正確に受けとめ、判断し、ゲートを閉めるなどの緊急対応ができるシステム、マニュアルがなかったことです。確かに管理運営要綱には緊急災害時の対応について会議を招集するなどの決め事がありますが、肝心の河川課との関係は極めて不十分でした。
 そもそも河川敷を脱法的に駐車場に流用しているのですから、そうした厳格なマニュアルがあってしかるべきだったのではないでしょうか。そうした決め事がされていれば今回の事故は未然に防げた可能性があります。

【総務部長答弁】
 台風5号による河川敷駐車場での県職員などの車両流出事故についての御質問にお答えをいたします。
 まず、お話にありました緊急時の対応についてでありますが、河川敷駐車場は構外職員駐車場管理協議会で管理運営を行っており、緊急事態のときはこれまでも、たまたま河川課は構成メンバーではありませんけれども、河川課から適宜必要な情報を得て対応し、その役割を果たしてきたというふうに考えております。
 今回の問題ですけれども、この5号につきましては、8時過ぎに河川が急激に増水いたしまして、直ちに駐車場を閉鎖する作業に取りかかったわけですけれども、増水が余りにも急激だったため、数百台の車は移動させることができたわけですけれども、残念ながら85台は流出してしまったものであります。
 県の事後の対応についてでありますけれども、先ほど○○議員にお答えいたしましたとおり、河川敷駐車場はもともと県や前橋市の職員などの利用者に便宜を図るという趣旨で設置されたものでありまして、県では、繰り返しになりますけれども、駐車場の使用承認の際及び河川敷駐車場の入り口に設置いたしてありますところの利用案内によりまして、河川の増水のおそれのあるときには駐車場を使用しないでくださいとか、あるいは駐車場で発生した事故につきましては当事者がその責任を負ってくださいというふうなことで、そのことを承知していただいているというふうなものでございます。したがって、流された車の撤去費用については、大変お気の毒でありますけれども、当該利用者にお願いをしております。
 御指摘のありましたいろんなところとの話し合いはどうかというふうな問題でありますけれども、関係職員とは話し合いをしてきており、既に多くの職員には納得していただいておりますし、また、職員団体とも今後の対応などについて話し合いをし、理解と協力をいただいているところであります。(傍聴席より「でたらめやっているんだ」と呼ぶ者あり)