利根川の中流域に位置し、利根川治水において重要な立場にある埼玉県では、上田知事が八ッ場ダム推進の旗振り役となっています。利根川流域では、八ッ場ダム推進勢力による影響力が強い自治体において、ダム推進の意見書が出されてきていますが、埼玉県の大利根町議会では、このほど意見が真っ二つに割れ、両意見書が可決されるという前代未聞の事態となりました。
利根川流域では、治水上八ッ場ダムが必要かどうかについて、未だに公開討論が行われないという、きわめて非民主的な状況が続いています。ダム反対派の呼びかけにダム推進派が応じないためです。
◆2009年11月26日 東京新聞埼玉版より転載
ー八ッ場ダム問題、一体どっち? 『推進』『中止』両意見書可決ー
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20091126/CK2009112602000080.html
一九四七年のカスリーン台風で、利根川の堤防の決壊場所となった大利根町の臨時議会で二十五日、鳩山政権が建設中止を打ち出している八ッ場(やんば)ダム(群馬県)の建設の推進と中止を求める二つの意見書が同時に可決される“珍事”があった。
臨時議会では、議員提出議案として、「八ッ場ダム事業中止に伴う治水・利水の再検証の早期実施」などが盛り込まれた堤防事業の推進を求める意見書と、同ダム建設推進を求める意見書が、同時に上程された。
決議には十一人の町議が臨んだが、一人の町議が、両方の意見書に賛同したため、いずれも賛成が六人ずつになり可決された。
両方に賛成した町議は「選挙で民主党を応援したので建設反対には賛同できた。ただ堤防近くに住む支持者を考えると、(ダムと堤防を)両方やってもらいたい」と話した。
同町は近く、両意見書を鳩山由紀夫首相らに提出するが、議会を傍聴した町内の無職男性(63)は「非常にわかりづらい。外から見たらまとまりのない印象を与え笑いものではないか」とため息をついた。建設推進を求めてきた柿沼トミ子町長は「(中止を求める)議会の意思があるのは厳然たる事実として受け止める」とコメントした。 (池田宏之)
◆2009年11月26日 朝日新聞埼玉版より転載
ー矛盾をはらむ2意見可決 大利根町議会でー
http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000000911260002
◇八ツ場ダム「継続を」「中止前提の対応早く」
大利根町議会の臨時会は25日、群馬県での八ツ場ダム建設事業をめぐり、建設の継続と中止の両方の政策を想定した二つの議員提案の意見書を可決した。ダム事業の継続を求める一方で、ダムに頼らないことを前提に利根川の堤防強化事業の促進や治水・利水の再検証の早期実施などを求めた。一人の議員が両議案に賛成したため、相互に矛盾をはらむ内容の2意見書がともに採択される事態となった。
まず斎藤和雄議員=無所属=が提出した「利根川流域の安全・安心を守る首都圏氾濫(はんらん)区域堤防事業の促進を求める意見書」を審議。工期が延長されればダムの総事業費が増額され、河川改修が後回しになるのではないかなどと指摘。現在も進む堤防強化事業の促進や、ダム事業中止の場合の治水・利水の再検証の実施、ダム予定地の住民の生活再建・地域再建を可能とする法の整備も要請する内容だ。採決は議長を除く11人で行われ、6対5の賛成多数で可決された。
続いて栗原肇議員=無所属=が提出した「八ツ場ダムの建設事業の継続を求める意見書」を審議。1947年のカスリーン台風で利根川堤防が決壊して大きな被害があったことなどから治水・利水面でダムは必要とし、建設で移転を余儀なくされた住民の生活再建はダムを前提に進められているとして、早期完成を要求する内容。6対5の賛成多数で可決された。
議会は来週にも、両意見書を鳩山由紀夫首相、前原誠司国交相、衆参両院議長に提出する予定だ。
両意見書に賛成した駒宮之男議員=無所属=は「ダム建設に反対ではない。堤防強化工事を優先に考えるべきだ。ダムも堤防もやってほしいことを主張したかった」と話した。柿沼トミ子町長は2意見書の可決について、「決壊地の議員として町民の安心・安全の装置の確保を目指す方向は同じだと思う。
◆2009年11月26日 毎日新聞埼玉版より転載
ー八ッ場ダム建設:大利根町議会、真っ二つ 意見書、賛否とも可決 /埼玉ー
http://mainichi.jp/area/saitama/news/20091126ddlk11010223000c.html
大利根町議会は25日、政府が中止方針を示した群馬県八ッ場ダム事業について、中止を前提にした意見書を賛成多数で可決した。一方で、ダム事業の継続を求める意見書も可決し、ダム中止に賛否が真っ二つに割れる結果となった。二つの意見書は近く政府と国会に送る。
八ッ場ダム事業は埼玉・東京の14万戸以上を浸水させた1947年のカスリーン台風被害が計画の契機になっており、大利根町は洪水の発端となった利根川の決壊地。
中止が前提の意見書は、▽ダムによる治水効果がない▽総事業費の増額が想定される▽将来の水需要が減少--などの問題点を挙げ、むしろ利根川の堤防を強化する首都圏氾濫(はんらん)区域堤防事業の促進が求められると指摘した。さらに、「ダム事業中止に伴う治水・利水の再検証」と「ダム予定地住民の生活再建・地域再生を可能とする法整備」を求めた。
中止に反対の議員らは「カスリーン台風被害は多くの住民にとっていまだ記憶に新しい。ダム中止の根拠は薄く、ダム反対派の受け売りでしかない」などと反論したが、採決は今夏の総選挙で民主党候補を推した議員らが賛成して1票差で決まった。
この後、ダム推進の意見書は1人が態度を変えて可決された。
事業継続を国に求めている柿沼トミ子町長は議会後、「議会の意思であり、私から申し上げる筋でない。地域の安心安全のための方向性は議会も変わらないと思う」と話した。【金沢衛】