八ッ場ダムの水没予定地、川原湯温泉は、多くの人々に愛されてきた山間のいで湯です。川原湯の行方を心配している人は沢山いますが、いまだにダム事業にがんじがらめで、地元の人々の主体性も、観光客の自由な発想もまるで生かされていません。
八ッ場ダム事業の”生活再建関連事業”は続いていますが、本当の生活再建や地域振興はいつになったらスタートするのでしょうか?
2010年6月2日 毎日新聞群馬版より転載
-追跡ぐんま:ダム問題で揺れる川原湯 温泉街、疲弊止まらず /群馬ー
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20100602ddlk10040082000c.html
◇宿泊助成増額も客足減少傾向 生活再建事業は着々進む
八ッ場ダム中止問題で揺れる長野原町の川原湯温泉。80年代に22軒あった温泉旅館はこの春、老舗の休業で6軒に減り、温泉街の疲弊は止まらない。昨夏の政権交代でダム問題は全国的な注目を浴び、水没予定地の上空に十字架のように架かっていた「湖面2号橋」は観光スポットになったが、最近は客足も減りがちだ。旅館経営者からは「いつになったらトンネルから抜けることができるのか」とため息が漏れる。【鳥井真平、奥山はるな】
休業したのは、幕末から明治期にかけて創業したと伝えられる「柏屋」。道幅が狭い上り坂の温泉街で、最も奧に位置している。同温泉屈指の約120人の収容人数を誇ったが、4月から休業した。
柏屋の豊田幹雄専務(43)は「これまで、ダム湖に沈むかもしれない旅館に設備投資ができず、今後の先行きが見えなくなった。国の都合に振り回されるのが嫌になった」と話す。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所によると、湖面2号橋のそばにある国のPR施設「やんば館」の09年度の来館者数は、08年度の5倍近くの約11万3300人に増加した。ピークは昨年11月の2万9820人。温泉街を取り巻く環境は一変したが、旅館「やまきぼし」を経営する樋田省三さん(45)は「物見遊山で来る人は増えたが、宿泊までしてくれる客は少ない」と語る。
県は10年度、川原湯温泉の団体宿泊客らを対象に、1人当たり3000円を助成する事業費を約1・5倍の1325万円に増やした。建設中止問題が全国的な関心を呼んだため、宿泊客の増加が見込めると判断した。助成対象は、10人以上でダム関連の工事現場を見学した団体客と、同温泉を2度目に利用する個人客。08年度は570万円、09年度は875万円の予算を組んでいた。10年度は前年度比で約5割増の4400人への助成が可能となる。
県がこの助成制度を創設したのは、自民党政権下の08年。ダム本体工事の完成は当初、00年度のはずだったが、再三にわたり延期され、08年には「15年度完成」に変更された。老朽化したまま営業を続ける旅館を支援する必要が生まれた。
しかし、旅館「高田屋」を経営する豊田明美さん(45)は「助成はありがたいが、客は増えていない。減りを少しだけ食い止める効果はあるが、それでも高田屋では客足は毎年5%減っている」と話す。長野原町によると、同温泉の宿泊・日帰り客は、統計が残る81年が25万8600人だったが、08年は11万9500人に半減した。
民主党は「建設中止」を掲げるが、ダム本体以外の橋や道路など、生活再建事業は着々と進む。湖面2号橋の橋げたの接続工事は5月25日に終了。国交省八ッ場ダム工事事務所によると、橋は全長159メートル、高さ86メートルで、今年度中に開通予定。6月末に地元住民を招き接続の記念式典を開催する。