八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

フジテレビからの回答について

2010年8月20日 

 昨年の政権交代後、八ッ場ダムに関する報道が大量に流され、それまで知られていなかった”八ッ場ダム”という言葉が多くの人たちに知られるようになりました。ただ、報道の中には、58年におよぶダム問題の複雑さを必ずしも伝え切れていないものが少なくなく、関係者の間では報道のあり方について多くの批判があるのも事実です。
 さる7月18日に放映されたフジテレビの番組「八ッ場ダム三代 ~愛するふるさとよ 沈んでくれ!」は、番組制作にあたり「八ッ場あしたの会」への取材がありましたが、番組の放映内容は「八ッ場あしたの会」の活動内容をひどく誤解させるものでした。
 私たちは、この番組の報道姿勢が二つの点でバランス(公平性)を欠き、一面的であったと受け止めています。

①  あしたの会の趣旨であり、他の団体と比して最大の特徴でもある「生活再建支援」への取組みにはまったく触れなかった。
② 現地住民の心情は、下流市民団体は相手にしないという類型的なものではないことは現地取材からも、また他の新聞やテレビの報道からも容易に察せられるのに、敢えて対立的な構図のみ存在するかのように描いた。

 そこで、7月22日に書面で申し入れを行い、フジテレビと話し合いの場を3回持ちました。

 フジテレビ側は堤康一情報政策局次長・プロデューサー、宗像孝プロデューサー、高橋龍平ディレクターでした。八ッ場あしたの会からは、事務局長の渡辺洋子、運営委員の嶋津暉之、深澤洋子が出席し、あしたの会の活動内容を誤って伝える番組が恣意的に制作されたことを強く抗議しました。

 この話し合いのあと、以下の回答が送られてきました。内容は、謝罪はしないが、あしたの会の活動趣旨は理解しているというもので、例えば以下のように書いています。

「このドキュメンタリーは水没予定地の住民が主人公であり、彼らの生きざまを伝えることに番組の主眼を置いているため、貴会についての説明は、一定の範囲にとどまりましたが、貴会の主張や活動に誤解を生じさせる意図など全くない。」

 全体に「悪意では無かった」「貴会のことはちゃんと理解している」などと、取材の時点での姿勢の弁明に終始し、肝心の報道時点での視聴者に対するバランスを重視すべきだったことについては、時間の制約のせいにするだけで、ほとんど触れようとしていない点は、誠意に欠けるといわざるを得ません。

 社会的に議論となる事象についての報道では、社会に広範な影響を及ぼすマスメディアは物理的制約の中でもバランスを最大限重視しなければならないはずです。特に②は、誰もが望まない無為な対立を煽ることになりかねない点で、報道の姿勢が疑われるものです。
 今後、BPO(放送人権委員会)に申立てをすべきかどうかについてよく検討したいと思います。

↓フジテレビからの回答

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八ッ場あしたの会様 

 2010年7月18日(日)に放送いたしました「ザ・ノンフィクション八ッ場ダム三代~愛するふるさとよ沈んでくれ!~」につきまして、貴会から申し入れの書面をいただきましたので、以下当方の見解を申し述べさせていただきます。 

 弊社情報制作局制作のドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」では、国が利根川上流に計画した八ッ場ダム建設をめぐって、半世紀もの聞、その時々の政治の判断や行政の動きに翻弄され続けてきた地元住民の苦難の歴史を、2年半にわたって取材してまいりました。
 当初は、ダム反対の旗印に結集していた住民の方々も、長い闘いの中で、次第に疲弊し、身も心も擦り切れ、やがてダム建設容認という苦渋の決断をします。この間、やむなくふるさとを離れる住民も相次ぎ、かつてあった地域社会はその姿を大きく変えました。そうした過酷な運命を受け入れた地元住民に対し、政権交代によって今度はダム建設中止という新たな政治判断が下されます。今住む場所は、人口の減少などによって、かつてのふるさとの面影を失いつつあり、新しく移り住む予定の代替地も、工事の遅れで、先行きが見えない状況です。
 「ザ・ノンフィクション八ッ場ダム三代~愛するふるさとよ沈んでくれ!~」は、川原湯温泉で旅館業を営むご主人らの日常生活を追うことで、水没予定地に暮らす人々の視点から、八ッ場ダムを考え、この問題の在りかを探ることを主眼として制作、放送したものです。

 このたび貴会より、番組で取り上げました、2008年5月の地元住民と貴会との親睦会につきまして、放送内容が貴会の活動に誤解を与えるものであったとのご指摘をいただきました。
 上記の通り、番組の企画、取材、放送の趣旨は、あくまで水没予定地住民の置かれた状況や心情を伝えることであり、貴会の活動内容に誤解を生じさせる意図など微塵もないことは、改めて申すまでもありません。
番組では、この親睦会で、代表世話人の一人である加藤登紀子さんが地元の方々と対話した内容の一部を放送しましたが、貴会からの申し入れの書面にも記されていますように、加藤登紀子さんの発言は、地元住民の方々の生活再建を心配して発せられた言葉であったものと拝察いたします。しかし、この時の地元の方々の反応から伝わってきたのは、長い年月をかけて下した苦渋の決断に対して、仮にそれが自分たちの行く末を案じた意見であっても、受け入れられないこともあるという現状でした。
 したがって、この場面は、そのようなギリギリの状況におかれた地元の方々の苦しい心情が伝わる映像情報として、番組制作に必要不可欠と判断し放送したものです。
 また、このドキュメンタリーは水没予定地の住民が主人公であり、彼らの生きざまを伝えることに番組の主眼を置いているため、貴会についての説明は、一定の範囲にとどまりましたが、貴会の主張や活動に誤解を生じさせる意図など全くないことは前述の通りであります。

 他方、私どもは、貴会が、「八ッ場ダム事業の見直しと水没予定地の人々の生活再建」を目指した市民団体であり、長年にわたって、地元住民の方々の苦境を理解しようとしながら、活動を続けてこられたことは十分認識しています。
 加えて、貴会は八ッ場ダムについて、科学的に複数の観点から検証を行っており、この計画に関わる問題点を現実に沿って指摘された上で、公共事業中止を視野に入れた法整備に、いまだに手がつけられていないわが国の現状の中で、「ダム計画中止後の生活再建支援法案」にも取り組まれていると聞いております。貴会のこれらの活動についても、私どもとしては十分に理解しています。

 先に行われた参議院選挙で民主党が惨敗し、今後の政治状況はさらに不透明さを増しています。そうした中で、八ッ場ダム問題がこの先、どのように推移していくのかは多くの国民のさらなる注目を集めるものと考えています。
 弊社情報制作局では、今後もこの問題に関心を持ち続け、「ザ・ノンフィクション」をはじめとするドキュメンタリー番組や情報番組において、引き続き八ッ場ダムの行く末をさまざまな視点から取材、放送していく考えです。

 以上の点について、ご理解いただきたく、お願い申し上げる次第です。

2010年8月17日                   

㈱フジテレピジョン
情報制作局情報制作センター                   
プロデューサー  宗像孝                     
ディレクター   高橋龍平