八ッ場ダム中止宣言から一年

◆2010年9月16日 朝日新聞群馬版より転載
ー中止表明から1年 「生活再建道筋示せ」ー
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581009160001

 政権交代直後に八ツ場ダム中止が表明されて間もなく1年になる。前原誠司国土交通相は民主党代表選で再選された菅直人首相を支持しており、ダムの地元・長野原町では「大幅な政策変更はない」との見方が強い。生活再建の見通しを早く示してほしいという声にどう応えるか。

 川原湯地区で飲食店を営む水出耕一さん(56)は、ダム中止問題は、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題と同じと考えている。「大騒ぎして、あとはほったらかし」

 ダム本体工事が凍結された以外は、ダム建設を続けてきた自民党政権が決めた工事を続けている。「我々はどう生活再建の道筋をつければいいのか」と訴える。

 政権交代以前からダム建設に疑問を口にしていた川原湯地区の牛乳製造販売業、豊田武夫さん(58)は、前原国交相が今年1月に地元との意見交換会に出席して以後、民主党の国会議員が地元の話を聞きに来ないことが不満だ。

 「非公式にでも地元で住民の話を聞くべきだ」。以前は来ていた政治家も音沙汰(さ・た)がないという。「政権交代後、1年かけて勉強した成果をみせてほしい」

 一方、林地区の茂木郁司さん(67)は二転三転する政権運営を批判しつつも、八ツ場ダムについては「立ち止まって考える時間ができたのはよかった」と評価する。

 川原畑地区の中島泰さん(61)は「野党時代にマニフェストで掲げた政策は、政権与党になって実現の難しさがわかったはず。八ツ場ダムも含め、検証が必要だ。その上でダムができないなら仕方がない」と話した。

 ◇   ◇

 八ツ場ダムの中止表明から1年が経過することに関連し、大沢正明知事は15日の記者会見で、8月に一度延期になった、前原誠司国土交通相と下流6都県で議論する機会を、早期に設ける必要性を強調した。

 知事は利水の重要性を強調。「地方(下流都県)が将来の水計画を考え、ダムの費用を負担している。それを話し合いもなく一方的に『利水は不要だ』と言うことは、いきすぎだ」と、これまでの経過をあらためて批判した。

◆2010年9月11日 東京新聞群馬版より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20100911/CK2010091102000068.html

ー八ッ場ダム 中止宣言から一年<上> 是非論の停滞 国と流域都県 平行線ー

民主党代表選の告示を間近に控えた八月二十七日。前原誠司国土交通相は、八ッ場(やんば)ダム事業について「予断を持たずに(事業の是非は)検証するが、建設中止の方向性は変わらない」と述べ、自らの政策の正当性を強調した。あらためてこう言わざるを得ないのは、事業廃止という要の議論が停滞を続ける裏返しでもある。

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 「マニフェストに書いてある通りに中止する」。鳩山前政権が発足した直後の昨年九月十七日未明。前原氏が発したこの言葉が、計画提示から半世紀以上の歴史を経た八ッ場ダム建設事業をめぐる状況を一変させた。

 「税金の無駄遣い」「政官業癒着の温床」などと国の大規模公共事業がやり玉に挙がる中、八ッ場ダム中止の是非は全国的な議論となり、政権交代を象徴する“騒動”にまで発展した。

 だが、この一年間、議論が深まりを見せることはなかった。「コンクリートから人へ」のスローガンを掲げ、福祉重視の国政への転換を説いた前原氏。一方、ダム事業に参画する流域六都県は、「ダム計画に翻弄(ほんろう)された地元住民の切実な願い」を盾に中止撤回を連呼し、互いの主張は具体性を欠いたまま平行線をたどった。

 着工前だったダム本体工事の“凍結”に踏み切った前原氏は、ダムの必要性に関する判断については「事業再検証」の方針の下に結論を先送りにした。再検証のスケジュールについて、「早ければ今月中にも、地方自治体との検討の場を立ち上げたい」として、六都県を交えた作業を始める意向を示している。

 だが、再検証終了後のシナリオは不透明だ。検証作業の結果、仮に国がダム建設中止を決めたとしても、ダム事業を法的に廃止できるめどは一切立っていない。

 前原氏は「関係都県の理解を得るまで、法的な中止手続きはしない」とし、六都県は「中止反対」で足並みをそろえる。各都県の合意を得た形での事業廃止は不可能な情勢だ。

 一方、ダム中止撤回に向け攻勢を再び強めようとしていた六都県も、民主党代表選が菅直人首相と小沢一郎前幹事長の一騎打ちによる与党内政争の様相となり、“足踏み状態”を強いられている。

 六都県は、ダム問題を協議する知事会議を八月二十四日に設定したが、国政の流動化に伴い日程の延期を余儀なくされた。東京都の石原慎太郎知事は「この時期に、何を決議しても豆腐にかすがい(で効果がない)」と不満をあらわに。群馬県の大沢正明知事も「地元住民の苦悩が晴れる見通しが立たない」と訴える。

 八ッ場ダム建設事業の是非をめぐる国と都県の新たな「対決」は、民主党代表選の終了後に持ち越された。政権与党の新たな体制が一体どうなるのか。八ッ場ダムの政策に影響はあるのか。各都県の関係者は、次の展開を見据えて事態を静観するしかない。

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 政権交代に伴い、八ッ場ダムの建設中止が宣言されてからまもなく一年を迎える。国と地元住民、関係都県との間で意見の相違が埋まらないまま、問題の決着点は今も見えない。ダムの必要性に関する議論の現状や現地の生活再建の課題、住民の率直な心情を取材し、ダム問題の現実を探った。 (この企画は中根政人、山岸隆が担当します)

◆2010年9月12日 東京新聞群馬版より転載
ー八ッ場ダム 中止宣言から一年<中>生活再建の行方 地域振興策 めど立たずー
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20100912/CK2010091202000085.html

中止宣言から1年を迎える八ッ場ダム予定地。生活再建事業のゴールはいまだに見えない=長野原町で、本社ヘリ「おおづる」から

 「建設中止の方針が示されてから、住民は毎日大変な思いで過ごしてきた。一刻も早く生活再建を進めなければならない」。大沢正明知事は七月二十八日の定例会見で、八ッ場(やんば)ダム問題が一向に進展しない現状にいら立ちを隠そうとしなかった。ダム本体建設の是非に関する議論が滞る一方で、ダム予定地住民の生活再建事業も一向にゴールがみえない。

 そもそもダム建設と一体的に計画された生活再建事業。国や県は政権交代前、水没対象地区の移転先となる代替地を用意し、街区や道路などの整備や住民の移転を完了させた上で、地域振興を図る目標で臨んでいた。

 前原誠司国土交通相がダム中止を表明した後も、ダム事業自体の最終的な取り扱いは決まらず、今も現地では代替地の造成や道路建設などの工事が「ダム完成」を前提とした内容のまま進む。一方、生活再建の根幹をなす地域振興策については、完了の見通しがまったく立っていない。

 県は二〇〇八年、健康増進をテーマに地域振興を目指す「ダイエットバレー構想」を提案。長野原町川原湯の代替地に、中核となる健康施設「エクササイズセンター」の建設を計画したが、「集客力が見込めない」などと疑問の声が上がり、施設内容の再考を迫られている。

 このほか、観光物産施設「道の駅」や行政施設「住民総合センター」の建設なども計画されているが、運営が軌道に乗るかは未知数だ。こうした施設にかかる費用は、流域都県の支出金を積み立てた「利根川・荒川水源地域対策基金」から拠出することになっているが、基金に出資する群馬以外の都県は「建設費は出すが、施設完成後の維持管理費の負担は難しい」と主張。施設運営の赤字補てんなどにつながる財源支出を拒んでいる。

 国土交通省関東地方整備局によると、昨年度末までに執行された八ッ場ダム建設事業費は約三千四百億円。このうち、二千億円以上が生活再建事業として代替地の整備や付け替え道路の建設などにつぎ込まれた。さらに、「水源地域対策特別措置法」に基づく事業費約五百五十八億円と、同基金から約四十七億円も生活再建の費用として支出された。

 生活再建事業について、前原氏は「責任を持って取り組む」と表明するばかりで、個々の事業への言及を極力避けている。現状では、ダム本体の是非を判断する「再検証」の結果が出なければ、事業の行方は定まらず、ダム予定地に住む人々の将来像もはっきりしないままだ。

 ダム建設中止を求める市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「中止宣言から一年が経過したにもかかわらず、生活再建事業として具体的に何が必要なのか、把握も精査もしていない」と前原氏の姿勢を強く批判。国には、生活再建の最終的な“着地点”を明確にする義務があると主張している。

◆2010年9月14日 東京新聞群馬版より転載
ー八ッ場ダム 中止宣言から一年<下> 疲弊する地元住民 長期化にしらけムード ー
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20100914/CK2010091402000085.html

 高原の風がさわやかな草津温泉の玄関口にある長野原町。例年なら少しは涼しくなってもいいはずの中山間地域だが、今年は九月中旬になっても猛烈な残暑が続く。

 水没予定地区だった住民の移転先となる代替地の造成現場は、細い山道に大型トラックなど多くの工事車両が、砂ぼこりを巻き上げて行き交い、住民の生活再建に向けた工事が行われている。

 ダム建設を前提にダム湖を横断する橋として着工した移転代替地の林、川原湯両地区を結ぶ「不動大橋」(湖面2号橋)。一年前に十字架のような姿をした建設中の橋脚が何度も報道され、八ッ場(やんば)ダムの象徴として有名になった同橋も本年度内には通行開始の見通し。国道145号八ッ場バイパスも約七キロ区間が通行可能となり、移転代替地の林、横壁両地区を結ぶ「丸岩大橋」(湖面3号橋)も開通した。

 こうした周辺工事が進む一方で、かつて多くの観光客でにぎわった川原湯温泉街は老舗旅館が休業に追い込まれるなど深刻な状態。同温泉街は高台の代替地に移る予定だが、造成の遅れなどで旅館の移転は進んでいない。

 「今となってはダムができようが、できまいが、どちらでもいい。早く高台に移転したいよ」と語るのは同温泉街で「やまた旅館」を経営する豊田拓司さん(58)。建設中止宣言から一年たっても、何も変わらなかったという思いが強い。「政治家は口先だけ。官僚は政策を引き延ばすだけ。行政には期待できないことが分かった一年だった」。調理の手を休め、顔に汗をにじませながら玄関で本音を話した。

 同町林地区の自宅の土間で、うちわで涼みながら取材に応じた八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会事務局長の篠原憲一さん(69)は「下流都県の住民の利水や治水のためにダム建設を受け入れたのに、いつまでダムに翻弄(ほんろう)されるのか。事業再検証を急ぎ、ダムを早く建設してほしい」ときっぱり。その上で、「でもね、住民の間では『もうダムはできないんじゃないか』という意気消沈した、しらけムードが漂っているのも事実だよな。みんな以前より元気がないよ」とつぶやいた。

 高山欣也町長は町長室で「ダムに振り回された一年。新政権もダム中止なら代替案を出すべきなのに、それもない。もちろん、町としては中止を前提にした話し合いには応じないけれどね」とした上で、「事業再検証を早期に行い、中止方針を撤回するのが最良の判断だ」と強調。

 これに対し、「あれだけの大規模事業を見直すのだから、検討に時間がかかっても仕方ない」と話すのは、川原湯温泉街の近くで乳業を営む豊田武夫さん(58)。「町内でダム建設に依存する人はわずか。大半の住民は口には出さないが、内心はダムはできないと感じていると思う」

 ダム中止宣言後の騒動から一年。ダム建設への悲観とあきらめが、住民を覆っている。

◆2010年9月10日 埼玉新聞より転載
ー八ッ場ダム中止表明から1年 今月末にも検証開始 流域首長との溝埋まらずー

 前原誠司国土交通相が就任直後に八ッ場ダム(群馬県)の中止を表明して約1年。早ければ今月中にもダム事業の検証が始まるが、建設を求める流域の首長らとの溝は埋まらないまま。水没予定地からは、将来の見通しが立たないことに対する恨みの声が漏れた。

□終着駅
 群馬県長野原町の水没予定地にある川原湯温泉では先行きの不透明さから、4月から休んでいる「柏屋」に続き、11月下旬からは「高田屋」が休業することになった。
 「すべてめちゃくちゃになった。営業はやめたくないけど、これ以上ダム完成が延びてしまっては」と豊田明美社長(45)。ダム湖畔に造る予定だった新しい旅館の計画書を見つめて「もう少しがんばればと思ってやってきたのにな」と肩を落とす。
 1年がたった現状について水没関係5地区連合対策委員会の篠原憲一事務局長(69)は「どこに終着駅があるのか分からず、みんな意気消沈している。旅館は別だが、本当はみんなダムができなくてもいいと思っているのかも」と弱気の声も。

□支払い留保
 八ッ場ダムの中止に反対する流域の6都県は今年7月、検証結果が早期に出ることが明らかになるまでの間、本年度の直轄負担金と利水負担金の支払いを留保すると前原氏に通告した。
 高山欣也長野原町長は「地元の不安を解消するためにも、早く検証結果を出してほしい」と強調。さらに「下流のために必要なダム。中止という結果にはならないだろう」と、建設継続に期待を込める。
 前原氏は8ガス27日、「早ければ9月中にも地方自治体との検討の場を立ち上げたい」と表明。国交省の有識者会議が7月にまとめた判断基準案を基に、近く6都県と協力し検証の作業を始める方針だ。

□大臣次第
 八ッ場ダムの中止を「河川行政、公共事業の在り方を見直す入り口」と位置付ける前原氏は「全国のダム建設事業は予断なく再検証していく」としながらも、八ッ場ダムは民主党の昨年夏の衆院選マニフェスト(政権公約)に基づき中止すると明言した。
 「予断なく検証することと、八ッ場の中止ありきとは矛盾する」(国交省幹部)ものの、中止は民主党の看板政策の一つだけに官僚側の判断だけで変えることはできない。
 ただ民主党代表選では、八ッ場ダムは争点になっていない。国交省の幹部は「政権公約にも明記されているので中止は簡単には覆らないだろう。代表選が終わるまでは様子を見るしかない。どうなるかは大臣(の判断)次第だ」と指摘する。
 高山町長は「前原さんがいいというわけではないが、もし代表選後に大臣が代わるとまた一からとなる。さらに時間がかかってしまう」と話した。