2010年10月26日 東京新聞社説より転載
「ダム事業検証 斬新な結論が出せるか」
政権交代以来の課題だった個別ダム事業の検証作業が、やっと始まった。しかし作業の期限は不明確のまま、関係自治体による検討の場が重視され、“ダムに頼らない治水”が実現できるのか。
対象は国直轄二十五、水資源機構五、道府県による補助ダム五十三の計八十三事業で、国土交通省が検証主体の同省地方整備局、道府県知事らに通知した。
皮切りの八ッ場(やんば)ダム(群馬県、国直轄)は、関東地方整備局が関係六都県、九市区町から構成する「検討の場」を設け幹事会が初会合を開いた。二十五日は事業推進の立場の六都県のうち、石原慎太郎東京都知事ら五都県知事が予定地を視察した。
他の事業も検証の準備は進んでいるが、第一に問題となるのは検証作業の期限が定まっていないことである。
検証対象の国と水資源機構の事業は、原則として新しい段階に進めない。八ッ場はダム湖を横断、移転代替地を結ぶ橋の建設や国道付け替え、設楽ダム(愛知県、国直轄)は移転住民の生活再建用地の一部取得など、関連の工事が実施されているのみである。
事業続行か中止かはさておき、方針の決定の先送りは無責任である。関係住民の不安解消のため、検証日程の明示を求めること自体は当然だろう。これこそ政治の責任である。
検証は事業者と関係自治体からなる検討の場で行う。検討の場は原則公開、節目ではパブリックコメントを実施、学識経験者、関係住民や利水者の意見も聴く。
治水対策として、検証対象ダムを含む案とダムを含まない案を作る。さらに新規利水や流水の正常な機能維持の観点からの検討も加えて、総合的な評価を国交省に報告する。対応方針は同省が最終的に決定し、国交相による再検討指示もありうる。
検証主体が事業者自身なので、すでに補助ダムについて、公正な評価ができるか不安の声は強かった。しかし国直轄事業なども、関係自治体からなる検討の場が重視されると、極論すれば自治体が認めなければ、ダム事業中止の結論にはならない恐れがある。
鳴り物入りで喧伝(けんでん)された“ダムに頼らない治水”が、吹っ飛ぶことも考えられる。取りあえず検討の場の完全公開、ダムを必要としたデータの全面的開示と、それが信用できるかどうかの徹底的な再検討、関係住民の意見の自由な表明の保証を強く求めたい。