八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

馬淵大臣会見(1月5日)と大澤県知事会見(1月6日)-治水(基本高水)について

2011年1月8日

 馬淵大臣が八ッ場ダム建設の是非に直結する治水データの検証のために、新たに有識者会議を立ち上げることを明らかにしました。新たに選ばれる有識者が本当に中立的な立場で科学的検証をするにふさわしいメンバーなのかをよく見極める必要があります。一昨年、前原大臣によって立ち上げられた有識者会議のメンバーは、当初、中立的な立場の学者を人選したというふれこみでしたが、中立的な立場の学者に加え、御用学者も複数含まれ、これらの学者によって、ダムの検証基準が国交省河川局にとって都合のよいように決められたという経緯があります。その結果、現在、補助ダム(補助金で造られるダム)を抱える全国の道府県では、ダム推進にお墨付きを与える形ばかりの検証作業が急ピッチで進められています。

 馬淵大臣の記者会見と関連記事、これに対する大澤群馬県知事の反応を示す知事会見と関連記事を転載します。

◆2011年1月6日 上毛新聞より転載  
 ー利根川基本高水 「有識者で協議の場」 国交相 結果受け八ッ場再検証ー  

 馬淵澄夫国土交通相は5日の年頭記者会見で八ッ場ダム問題に言及し、ダム建設の根拠となる利根川で起こりうる最大規模の洪水流量「基本高水流量」の検証方法について、「ダム建設反対、推進それぞれの論点に立つ有識者に公正に判断してもらう枠組みを考えている」と述べた。外部有識者を集めた協議の場を設置し、検証を進める考えだ。 ダム本体建設の是非をめぐる再検証の結論を今秋までに出すとしているのに対し、基本高水の検証結果を出す時期については「(ダム建設の)大前提。ダムの再検証の後であってはならない」と語り、基本高水見直しを踏まえて、ダム本体の再検証を決着させる意向を示した。 有識者による協議の場の位置付けは「あくまで独立した形」としており、ダムを再検証する「検討の場」とは切り離す。 利根川の基本高水をめぐっては、1980年までの国の計算に基づき、カスリーン台風(47年)時の伊勢崎市八斗島(やったじま)の最大流量とされる毎秒2万2千トンに設定されているが、馬淵氏は「計算資料が確認できない」などとして、妥当性の検証を指示していた。

◆2011年1月7日 上毛新聞より転載
 ー利根川の基本高水 「多角的に検証を」 国交相発言に知事ー

 八ッ場ダム問題で、馬淵澄夫国土交通相がダム推進、反対両方の有識者による協議の場を設け、利根川の「基本高水流量」を検証する考えを示したことについて、大沢正明知事は6日の定例会見で「双方の意見を聴くのはやむを得ない。いろいろな角度から検証してほしい」と述べた。
 基本高水流量は利根川で起こりうる最大規模の洪水流量。国はこの数値をベースとして、八ッ場ダム建設を含む利根川治水の基本方針を定めている。
 大沢知事は菅直人首相が内閣改造で馬淵氏の交代を検討しているとの報道にも触れ、「(中止表明後)3人目の大臣への対応は大変と実感しているが、1都5県知事で連携して頑張りたい」と語った。

◆国土交通省ホームページより、馬淵大臣記者会見(2011年1月5日)の中で八ッ場ダムに関連する部分を転載 http://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin110105.html

 次に「八ッ場ダム」でございます。
八ッ場ダムにつきましては、昨年、全国の直轄・水機構ダムのトップを切って検証体制の立ち上げを行いました。
私は、現地に赴き中止の方向性には一切言及しないと、このように申し上げ、今後、一切の予断を持たずに再検証を行うと。
また、今年の秋までには結論を得るということを目標としてお伝えいたしました。
また、さらには1都5県の知事の皆様方との御議論もさせていただき、できる限りこの目標を前倒しできないかといった要望に対しても、私どもが力の限り進めてまいりたいということをお伝えしたところであります。
こうして結論を導くという過程においては、常にオープンに皆様方に御提示をしてまいりたいと思っております。
さらに、こうした再検証のみならず、そもそも治水のあり方の前提となる基本高水についての再検証もスタートいたしました。
これは、かつて河川局で示してきた基本高水の再検討、平成17年報告書の中で出されていた数値について、その確認が十分できないといった状況が起きている、すなわち昭和55年の経過報告書のまま今日まで前提として推移してきたということが明らかになった時点で、私が基本高水の検証を改めて指示をしたものであります。
これによって、ダムの検証と並行して基本高水の検証が行われることになりますが、当然ながら、結論としては基本高水を先んじてその結果を明らかにするように指示を出しております。
さらには、様々な関係各方面、これはダムの建設反対、あるいは推進、それぞれの論点に立つ有識者の方々にも公正に御判断いただけるような枠組みを考えてまいりたいと思っております。
間違っても、国土交通省が自前で御用学者を集めたなどと言われることが無いようにしっかりと皆様方に公正性、透明性、客観性を持って御判断を頂ける材料を提示してまいりたいと、このように思っております。
このダムによらない治水に関しては、以上のように再検証の仕組み、プロセス並びに基本高水の検証という2つをもって国民の皆様方に説明責任を果たしてまいりたいと、このように思っております。  

(中略) 質疑応答
(問)先ほどおっしゃられた八ッ場ダムの確認で3点ほどお尋ねしたいのですが、基本高水の検証の結論を出すのを当然先んじてやるというようなお話だったのですが、ということは八ッ場ダムの再検証のための基本高水の是非を判断する大きな柱になるということの前提のために先んじてやるというお考えなのかというのが1点と、ダムの建設推進反対の方を入れた新しい枠組みを考えていらっしゃるということでしたけれども、現在設置されている1都5県との検討の場との関係はどういう関係になるのかということと、その新しい枠組みというのは八ッ場ダムだけではなくて、他の検証対象になっている80以上のダム全部にこういった新しい枠組みが設置されるというお考えなのか、3点を確認させてください。

(答)基本高水の結論を待って再検証をやるとなれば遅れますから、ダムの再検証に関しても並行して進めます。そして基本高水は大前提となるものですから、当然その結果がダムの再検証の後に出てくるようなことがあってはなりません。
先んじて結果を出すように最大限の努力をさせるということを申し上げました。
その上で、基本高水の検討のメンバー等を含めて、先ほど申し上げたように、国土交通省が何か自らが判断して集めた人間だけということではなく、しっかりと客観性の高いメンバー、枠組みで進めていきたいと考えております。
基本高水を検討するメンバーといいますか、検討する枠組みに関しましては、まずは八ッ場ダム、これをなぜ基本高水の見直しを指示したかと言えば、今まで基本高水の問題というのは何ら問題ないということを国土交通省としては一貫して言い続けてきたわけです。
しかし、平成17年報告書の中では確認ができなかったと、これは昭和55年の結果ありきではないかということを、改めて私が国民の皆様方に明らかにした上で検討を行うと申し上げたわけでありますから、まずはすべての水系ではなくて利根川水系について行うということであります。
そして再検証の今の枠組みはダムの再検証でありますから、それぞれの主体が中心となって進めていくということでありますので、これと何らかの形でリンクするというものではありません。あくまで独立した形で基本高水の検討は行ってまいります。  

◆群馬県ホームページより、大澤知事の記者会見(1月6日)の中から、八ッ場ダムに関連する箇所を転載

○八ッ場ダムについて
(記者)  昨日、馬淵大臣が閣議後の記者会見で、八ッ場ダム建設の前提条件になる利根川水系の基本高水、再計算すると以前からおっしゃっていたものですけれども、その再計算に関して、出てきたものを外部の有識者、建設賛成の立場、あるいは反対の立場、そういういろいろな立場の方々にもきちんと検証してもらうという趣旨のお話をされていました。実際に、八斗島で(再大流量とされる毎秒)2万2千トン、これがもし下げられてしまうと、「八ッ場ダムが必要ではない」という結論も出かねない状況なのですが、そもそも再計算に外部の反対の人も入れるという、今回、馬淵大臣が示された方針について、まずどのようにお感じになりますか。

(知事)  馬淵大臣の立場とすれば、双方の意見を聞くというのはやむを得ないと思っています。これは、いろいろな角度から検証してもらいたいと思っていますし、現状、あそこまで仕上がっているという問題もあります。基本高水の問題も、私には詳しいことはよく分かりません。ただ、国が地方と約束をして、ここまで80パーセントを超える事業が成り立っていますから、これを中止にするという問題においては、国はしっかりとした議論を公開の場でしていただいて、すべての人が納得できるようなかたちで進めていくべきではないかと思っています。

(記者)  基本高水の再計算もですし、八ッ場ダムそのものの再検証自体も、なかなか(国土交通省)関東地方整備局で何をやっているのかというのが見えてこないのではないかという声は、群馬県を含めて1都5県でよくそういうお話を聞きます。現状については、どのようにお考えですか。

(知事)  国が、ダムを造って治水をやろう、ということで始めた事業です。基本高水がどういう計算式か、我々にも分からないところがあります。国が説得、説明して、地元を納得させ、1都5県も納得して負担金を出して、利水においては地方、それぞれの都県が利水計画に基づいて負担をしているわけですから、その辺のところを、しっかりとオープンなかたちで検証して進めてもらいたい、というのが今の気持ちです。我々がいくら言っても、我々がそこに参加できないという口惜しさもあるわけですが。