八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム事業の工期延長と事業費増額に関する公開質問

2011年2月8日

 本日、八ッ場あしたの会では八ッ場ダム事業の工期延長と事業費増額に関する公開質問書を国交省関東地方整備局長へ送付しました。

  これらの質問では、
 今後、八ッ場ダム事業が継続された場合、国交省が明らかにしていない数多くの問題があることから、工期も事業費も国交省が公表している数字は過少であることーつまり八ッ場ダム事業が継続された場合、平成30年度にはまだダムは完成せず、事業費もさらに膨れ上がってゆく可能性がきわめて高いことを示す事実を具体的に指摘しています。

 公開質問書の全文を以下に転載します。

2011年2月8日

 八ッ場ダム事業の検証検討主体関東地方整備局長 菊川 滋 様

 八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑ほか 

             八ッ場ダム事業の工期と事業費についての公開質問書

 去る1月14日に開かれた八ッ場ダム建設事業の「関係地方公共団体からなる検討の場」第3回幹事会で、八ッ場ダム事業を継続した場合は工期が延長され、事業費が増額されるという試算結果が発表されました。今回の試算結果は、仮にダム事業が継続に切り替わった場合は八ッ場ダム基本計画の大きな変更を必要とすることを示すものであって、八ッ場ダムの是非を判断する上で重要な意味を持っています。
 そこで、この試算結果について質問しますので、真摯にお答えくださるよう、お願いいたします。ご回答は2月22日までにお願いします。

1 工期について
 今回の試算結果は、2011年秋の検証結果により仮にダム事業が継続に切り替わった場合は、現計画の2015年度末完成が2018年度末完成となるとしています。関東地方整備局の資料によれば、その工程別の期間は次のようになっています。このことを踏まえて下記のとおり、質問します。

 ダム本体工事
  契約手続き(公告→契約)  9ヵ月
  転流工           9ヵ月 
  本体掘削          2年弱
  堤体工           3年3ヵ月強
  試験湛水          6ヵ月
  計             7年3ヵ月
 
関連工事等
  付替鉄道          1年9ヵ月
  付替国道・県道・町道    事業完了までに付替完了
  代替地           本体打設開始(3年半弱)までに移転終了

1-1 付替鉄道の工期の遅れの理由と今後の見通し

① 政権交代前の計画では付替鉄道は2010年度末完成予定でしたが、上記の試算では2011年度末から1年9ヵ月となっていますので、2013年度後半の完成になり、約3年の遅れとなります。付替鉄道の工事は政権交代後も従前どおりに工事が行われてきています。この付替鉄道の工期の大幅な遅れはどのような理由によるのでしょうか。

② 付替鉄道のうち、新・川原湯温泉駅付近は共有地があって、その権利関係が複雑であるため、用地買収が難航しているとされています。新駅付近の鉄道用地の買収は終わったのでしょうか。もし終わっていなければ、用地買収はいつ終わる見通しなのでしょうか。

1-2 付替国道の完成の見通し

① 付替国道は昨年12月19日から雁ケ沢から上流の9.4kmから供用開始されましたが、現国道から付替国道・雁ケ沢ランプへの進入路は急カーブ、急傾斜で、途中に現鉄道(JR吾妻線)の踏切があるため、交通量には限界があり、いまだ不十分なものです。政権交代前の計画では付替鉄道は2010年度末完成予定でした。下流側の1.4kmも含めて付替国道が完成するのはいつになるのでしょうか。

② 雁ケ沢から下流側1.4kmは現鉄道と交差するところがあって、その部分は、現鉄道を廃止しないと、工事ができないと聞いています。となると、付替鉄道が完成しない限り、付替国道も完成しないことになりますが、そのように理解してよいのでしょうか。

1-3 八ッ場ダム事業の工期遅れの本当の理由

① 仮にダム事業が継続に切り替わっても、上記の付替鉄道、付替国道が完成しなければ、ダム本体の本格的な掘削工事をはじめることができません。ダムサイト予定地を現鉄道、現国道が通っているため、本格的な掘削工事を始める前にそれらを廃止する必要があるからです。付替鉄道、付替国道の工事は政権交代後も従前どおりに工事が行われてきました。ということは、政権交代がなくても、八ッ場ダムの2015年度末完成はもともと無理であって、3年程度の工期の遅れは必至であったということになります。このことについて関東地方整備局の見解を示してください。

② ところが、1月14日の第3回幹事会では①の説明がなかったため、仮にダム事業が継続に切り替わった場合は、政権交代による方針転換の影響で2018年度まで工期が延びると受け取られ、そのような報道もされました。なぜ、付替鉄道、付替国道の工事難航による全体の工期の遅れをあいまいにするのでしょうか。

③ このことを裏付けるのは、ダム本体工事の工程別期間として、契約手続き(公告→契約)に9ヵ月、転流工に9ヵ月の期間が見込まれていることです。転流工は一昨年にすでに完成しているものであり、これから9ヶ月の期間を見込むとは、どういう意味なのか理解に苦しみます。また、契約手続きは一昨年1月に開始され、9月に入札直前まで行っていたのですから、これも9ヵ月も見込む必要はありません。これらは付替鉄道、付替国道の工事難航に合わせるために、ダミーの期間として挿入されたものではないでしょうか。このことについて関東地方整備局の見解を示してください。

④ 以上のとおり、仮にダム事業が継続に切り替わった場合の工期の遅れ、2015年度末から2018年度末への遅れは、政権交代がなくても避けられないものでした。関東地方整備局は工期遅れの真の理由が付替鉄道、付替国道の工事難航によるものであることを公表する考えはないのでしょうか。

1-4 地元住民にとっての工期遅れの問題

① 仮にダム事業が継続に切り替わっても、ダム完成が2018年度末になるという試算結果はダム湖観光を期待している地元住民にとって深刻な問題であると考えられます。ダム湖観光が果たして成り立つのか、疑問の点が多々ありますが、そのことはさておき、仮にダム事業が継続に切り替わっても、ダム湖ができるのは今から8年後のことです。8年間はきわめて長い期間です。その8年間、地元の方々は何を拠り所にして生活していけばよいのでしょうか。

② そして、今回公表された2018年度末完成も新・川原湯温泉駅付近の鉄道用地の買収が進んだ場合であって、用地買収が難航すれば、完成時期がもっと延びることになります。さらに、仮にダム本体ができても、奈良県の大滝ダムや埼玉県の滝沢ダムのように試験湛水中に貯水池周辺で地すべりが起き、その対策工事のため、ダム完成が5年、10年と延びることも十分に予想されます。関東地方整備局はそのような工期の見通しの真相を公表する考えはないのでしょうか。

2 事業費について

 第3回幹事会では、仮に八ッ場ダム事業が継続に切り替わった場合の事業費の変動についても試算結果が示されました。
事業費減額分 契約実績や物価変動等による減額     21.7億円
事業費増額分 工事中断と工期遅延(3年)に伴う増額  55.3億円

 さらに、この試算結果の表の注2,6,7に事業費の増額につながる重要なことが書いてあります。

注2 堆砂計画の点検、「貯水池周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針(案)・同解説」の改訂に伴う追加的な地すべり対策の必要性の点検、「宅地造成等規制法」の改正に伴う追加的な代替地の安全対策の必要性の点検の結果、事業費の変動があり得ます。

注6:現計画事業費及び点検後事業費には、代替地整備費は含みません。

注7:代替地整備費を含むH21迄実施済み額は、3,425.8億円です。

 以上のことを踏まえて下記のとおり、質問します。

2-1 三つの要因による事業費増額の可能性

 今回の試算結果を見ると、数字が出ているものだけでは、事業費の減額分が21.7億円、増額分が55.3億円で、差し引き33.6億円の増額になりますが、注2では三つの要因で「事業の変動があり得ます」と書かれており、仮にダム事業が継続に切り替わった場合は事業費の増額が33.6億円よりさらに大きな金額なることを示唆しています。そのように理解してよいかどうか、関東地方整備局の見解を明らかにしてください。

2-2 堆砂計画の点検による増額

① 堆砂計画の点検による事業費増額とは、具体的にどのようなことを意味するのかを明らかにしてください。

② 八ッ場ダムの計画堆砂量1,750万m3(100年分)は、利根川水系の既設ダムの堆砂実績と比べると、集水面積1km2あたり年間堆砂量がその1/2~1/3で、明らかに過小です。堆砂計画の点検とは、このように堆砂見込みが過小であるので、貯砂ダムなどの堆砂軽減対策を実施する必要があることを意味するのでしょうか。

2-2 追加的な地すべり対策の必要性の点検による増額

① 追加的な地すべり対策の点検による事業費増額とは、具体的にどのようなことが想定されているのかを明らかにしてください。

② 八ッ場ダム貯水池予定地周辺には国土交通省の資料でも地すべりの可能性があるところが22か所もありますが、対策を講じるのは現計画では川原畑地区の二社平と林地区の勝沼だけとされています。追加的な地すべり対策の点検とは地すべりの可能性があるところ全体について調査と対策を実施することを意味するのでしょうか。

③ 奈良県の大滝ダムや埼玉県の滝沢ダムでは試験湛水中に地すべりが発生したため、150~300億円規模の地滑り対策工事が行われています。八ッ場ダムではそれ以上の規模で地すべり対策が必要となることも予想されます。八ッ場ダムの地すべり対策がどの程度の規模になるのか、関東地方整備局の見通しを明らかにしてください。

2-3 代替地の安全対策の必要性の点検による増額

① 代替地の安全対策の必要性の点検による事業費増額とは、具体的にどのようなことが想定されているのかを明らかにしてください。

② 打越代替地第二期分譲地は安定計算に国土交通省の計算ミスがあって、現状のままでは安全性を確保できないので、現在、補強工事が行われていますが、問題はこれだけではなく、1月21日、25日に当会が八ッ場ダム工事事務所に提出した公開質問書のとおり、国土交通省による安全性の検証には重大な疑問があります。代替地の安全対策の必要性の点検とは、代替地の安全性を一から抜本的に検証し直すことを意味するのでしょうか。

2-4 代替地の整備費用

① 関東地方整備局の資料の注6に書かれているとおり、現計画事業費及び点検後事業費には代替地整備費は含まれていません。同資料によれば、代替地整備費を除くH21迄実施済み額は3330.4億円、代替地整備費を含むH21迄実施済み額は、3,425.8億円(注7)ですから、H21までの代替地整備費は約95億円になります。この代替地整備費用はダム事業費とは別枠になっていますが、本来はどこから支出するものなのでしょうか。代替地の分譲収益で対応するものなのでしょうか。

② 代替地の整備はまだ途中の段階ですから、その整備費用は総額で百数十億円の規模になると想定されます。一方、代替地の分譲収益は分譲戸数、分譲価格からみて、数十億円程度にとどまると予想されます。となると、整備費用のうちの100億円程度は公費で持たざるを得ず、結局はダム事業費の一部として支出することになると考えられます。このことについて関東地方整備局の見解を示してください。

③ 一般のダム事業における代替地は既存の農地や林地などを使って造成するもので、その整備費用はさほど大きなものにはなりえず、分譲収益で対応できるかもしれませんが、八ッ場ダムの代替地は山を切り崩したり、谷を埋め立てたりして造成するものですから、費用が嵩み、(分譲価格はひどく高額ですが)分譲地の売却だけではとても対応できません。八ッ場ダムの場合は100億円規模の代替地整備費用をダム事業費の一部として負担することになることを関東地方整備局は関係都県に伝えているのでしょうか。

2-5 八ッ場ダム事業費の大幅増額
 以上のとおり、仮に八ッ場ダム事業が継続に切り替った場合の事業費増額は、今回、数字として示された(増額分―減額分)33.8億円だけでは済みません。堆砂計画の点検、追加的な地すべり対策、追加的な代替地の安全対策、さらに、代替地の整備費用の負担によって、八ッ場ダム事業費の大幅な増額が必要になります。このことについて関東地方整備局の見解を示してください。
                              以上