愛媛県の山鳥坂(やまとさか)ダム予定地の住民に対して、県が初めて生活再建支援の予算を組んだというニュースが入ってきました。
山鳥坂ダムは1994年に基本計画が告示された国直轄のダム事業ですが、当初から必要性が疑問視されてきました。1998年には当時の与党三党(自民党・公明党・保守党)が中止を勧告しましたが、加戸守行愛媛県知事(1999~2010年)の強硬な働き掛けにより、計画が継続されました。当初予定されていた治水・利水を合わせた多目的ダムから、「利水」が抜け、「治水」目的のみのダム事業として進められ、2008年より道路の付け替えなどの関連工事が始まっています。
下記の地元紙社説が伝えているように、山鳥坂ダム予定地の住民を取り巻く状況は、八ッ場ダム予定地と似通っており、先頃、八ッ場ダム予定地の住民は山鳥坂ダム予定地を視察しています。「国や県の今後の責任を考えたとき、建設を前提とせず、事業本体とは切り離して支援体制を構築すべきだ。長い年月の「借り」は、住民に返済し続けねばなるまい。」というこの社説の指摘は、八ッ場ダムにも当てはまります。
◆2011年02月19日 愛媛新聞特集社説より転載
-山鳥坂ダム住民支援 建設を前提とせず生活再建を―
http://www.ehimenp.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201102191373.html
国が凍結している大洲市肱川町の山鳥坂ダム建設で、水没予定地域住民の不安不便を解消するため、県が生活基盤緊急支援事業を始める。
住民の安全を確保し、安心して生活できるための飲料水送水管交換や防火水槽設置、県道の舗装改修などの予算4525万円を、2011年度当初予算案に盛り込んだ。
建設推進と反対のはざまで揺れ、国の迷走に振り回されてきた住民に、やっと届いた朗報だ。置き去りにされてきた地域に差し始めた光を、絶やしてはならない。
国直轄事業である以上は生活支援も国の責任だとして、県はこれまで予算化してこなかった。住民の苦悩の歴史を鑑みれば、中村時広知事の方針転換をまずは歓迎したい。
山鳥坂だけでなく、ダム事業でもっとも不便を強いられてきたのは水没予定地域の住民だ。行政間の身勝手な線引きが結果的に住民生活をないがしろにしてきた歴史を思えば、愛媛独自の支援が他県のダム事業に波及する可能性にも注目しておきたい。
ただ今回の支援は、住民にとって一里塚にすぎない。
地権者団体と国が合意している補償基準に基づいた用地買収の個別補償などは凍結されたままだ。
地域の高齢化は進む。補償を前提に、生活設計の変更を余儀なくされている住民がいる。補償を当てにして施設に入った住民さえいる。状況は深刻度を増しているのだ。
国や県の今後の責任を考えたとき、建設を前提とせず、事業本体とは切り離して支援体制を構築すべきだ。長い年月の「借り」は、住民に返済し続けねばなるまい。
生活支援をダム建設の追い風ととらえることはできる。しかし、地域振興は建設が前提だという構図を作ったのは国側だ。その構図を覆し、現実に生活支援が本体とは別に進み始めたことで、純粋にダム事業の是非を議論する環境が整ったともいえよう。
事業検証のため国と知事、大洲市長ら3市町による「検討の場」が設置されたのは、計画が凍結されて1年以上経た昨年11月だ。この間、住民を中ぶらりんにしてきた責任は重い。拙速は避けたいが、いつまでも結論を先延ばしにしてはなるまい。
費用対効果に加え、建設予定地の貴重な環境の保全や水質維持など検討すべき要素は多い。今度こそ、治水に臨む行政の真価が問われる。堤防の建設や川底のしゅんせつといった流域住民の要望にも、国や県は、真摯(しんし)に耳を傾ける必要があろう。
改造中の鹿野川ダムの洪水調節機能とも併せ、肱川の治水はどうあるべきなのか。支援事業の開始を、治水全体の中でダム事業の位置付けを見直す基点としたい。
—転載終わり—
★山鳥坂ダム情報
・山鳥坂ダム建設の中止を求める市民団体のホームページ
http://www.hijikawa.com/index2.html
・国土交通省山鳥坂ダム工事事務所のホームページ
http://www.skr.mlit.go.jp/yamatosa/