八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

JR線付け替え工事メド立たず、本体工事への影響は?

 八ッ場ダムの本体工事現場(名勝・吾妻渓谷)には、JR吾妻線と国道が通っています。鉄道と国道が通る交通の要衝がダム本体予定地であることは、八ッ場ダム計画の大きな特徴です。このために、ダムの関連工事が膨大となり、全国一のダム事業費を計上することになっているのですが、ここにきてJR線付け替え工事の難航が大きくクローズアップされてきました。
 
 国道の付け替え工事も難航し、昨年の暫定開通後も落石事故が相次いだことをお伝えしてきましたが、工事が難航している箇所を迂回できる道路と異なり、鉄道の場合は一部が滞っても開通不能です。ダムに沈む予定の吾妻線の補償として計画された新線は、殆どがトンネルで、トンネル区間はほぼ完成しています。難航しているのは、川原湯地区の新駅予定地周辺です。
 
 昨日の群馬県議会では、鉄道付け替え工事完了のメドが立っていないこと、従って、ダム本体工事に本格的に着工するメドが立っていないことが明らかになりました。自民党は民主党政権のせいでダムの工期が伸びるのは許せないと抗議していますが、ダムの工期が伸びるのは、自民党政権下で計画された事業の杜撰さに原因があります。
 構想から59年目にして本体着工のメドが立たず、いつになったら出来上がるのかも分からないダム計画のために、湯水のごとく税金が投入され、地元の犠牲が続いているのです。

◆2011年3月5日東京新聞群馬版より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110305/CK2011030502000079.html

 -新線開通めど立たず 「八ッ場」関連の吾妻線付け替え―

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の建設を前提とした生活再建事業の一環として実施されているJR吾妻線の付け替え工事について、国土交通省が「目標とした二〇一〇年度中の完成は困難」との判断を示し、新線開通のめどが立っていないことが分かった。同省は「早期完成を図る」としているが、工事が長期化すれば、ダム本体建設を再開した場合のスケジュールに影響する可能性がある。 (中根政人)

 吾妻線の付け替え工事は、同線の岩島-長野原草津口間がダム完成時の水没地区を通るため、ダム湖となる区域を迂回(うかい)する形で現行のルートより南側に新線を建設し、途中の川原湯温泉駅については新駅を設置する内容。付け替え区間の延長は一〇・四キロに上る。

 仮にダム本体の建設を進めても、水没地区の住民移転や鉄道付け替え工事などが完了しなければダム湖への貯水は不可能なため、吾妻線付け替えはダム完成の絶対条件となる。

 国交省関東地方整備局は一月中旬、吾妻線付け替えについて「(今秋を目標とする)ダム再検証終了後の約二年間で付け替えを完了させることが望ましい」との見解を新たに示した。だが、同省八ッ場ダム工事事務所は「一部区間で土地取得が難航している」として、開通時期を明言していない。川原湯温泉駅の新駅の整備も進んでおらず、今後の工事の行方は不透明な状況のままだ。

 一方、ダム本体工事については〇九年九月に当時の前原誠司国交相が建設中止を宣言後に凍結された。国交省関東地方整備局は「今秋以降に本体工事に着手しても、完成は現行の計画より三年遅い一八年度にずれ込む」と試算。政権交代による工事凍結が、ダム本体の完成時期の遅れに影響するとしている。

 だが、ダム事業見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「吾妻線の付け替えは、凍結されることなく工事が続いてきた」と指摘。「ダム完成が遅れるとすれば、自民党政権時代からの付け替え工事の遅れが大きな要因の一つだ」と主張している。

◆2011年3月8日 読売新聞群馬版 
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20110308-OYT8T00066.htm

 -JR線付け替え大幅遅れ 八ッ場ダム建設事業 本体工事に影響も―

 八ッ場ダム(長野原町)建設事業を巡り、JR吾妻線の付け替え工事の進捗率が、昨年8月末から同12月末まで89・5%のまま滞り、大幅に遅れていることが7日、わかった。同日の県議会八ッ場ダム対策特別委員会に県が報告した。ダムサイト脇を走る線路を廃止しないと、本体工事の岩盤掘削は難しく、検証終了後、建設が再開されても、2015年度末の完成目標が大幅に遅れる可能性が生じる。流域6都県は、完成の遅れを認めない方針だが、大畠国土交通相は検証による中断を理由に「3年遅れ」を明言していた。

 JR線工事の進捗率は、昨年3月末は87・5%。同8月末まで2ポイント伸びたが、その後は、用地取得の遅れが影響し、今年度末の完成目標は達成困難になった。

 特別委では、角倉邦良県議が、JR線工事の遅れに絡み、「政権交代がなくても15年度のダム完成予定は、3年間遅れたのではないか」と質問。県は「15年度完成の基本計画は変更されておらず、掘削工事もそれに間に合うようやってもらう」と回答するにとどまった。

 一方、特別委では、用地補償など各事業の進捗率も明らかにされた。

 県によると、昨年末時点の用地取得は、456ヘクタールのうち85・5%に相当する390ヘクタールが完了。移転補償対象470戸のうち、91・7%に当たる431戸が国と補償契約を結んだ。地元では、今年度分用地補償費の執行の遅れが問題視されていたが、今年1月末の執行率は61・8%。11・1%だった昨年8月末から50ポイント以上伸びた。また、代替地への移転は、昨年末で、分譲予定の134世帯のうち48世帯が移り住み、国・県道の付け替え工事の進捗率は90・4%になった。

 電撃辞任した前原外相が、政権交代直後に八ッ場ダム中止を表明してから約1年半。長野原町では、ダム本体工事は止まったままだが、移転代替地の整備や橋、国道の付け替えなどの工事は進み、山あいの小さな町の景観は様変わりしている。 渋 川市方面から長野原町に向かい、国道145号を走ると、右側にループした真新しい道路が現れる。「雁ヶ沢ランプ」(東吾妻町)。付け替え国道145号(10・8キロ)のうち、同ランプから長野原めがね橋(長野原町)まで9・4キロが昨年開通した。

 吾妻川沿いを走る現在の国道より道幅は広くてカーブも少なく、草津町などを目指す観光バスやマイカーにも定着している。

 付け替え国道沿いの川原畑地区は、かつて100世帯近くあったが、ダム問題の長期化などで現在は約20世帯に減少。代替地には古里を離れた人たちが「この地にいた証し」として墓地に観音像を建てている。

 同地区では、前原外相が、代替地に移転した住民らに配慮して建設継続を決断した湖面1号橋(494メートル)の工事が進む。

 川原畑の隣、林地区では、橋げたが「巨大な十字架」のように見えて有名になった湖面2号橋(不動大橋)がほぼ完成した姿を見せる。道路舗装などを残すのみで、今月下旬に開通する予定だ。

 林地区から、すでに開通済みの湖面3号橋(丸岩大橋)を渡った横壁地区では、付け替え国道の脇に、付け替えJR吾妻線(約10・4キロ)の工事現場がある。大半がトンネルで現在は約9キロ過ぎの地点まで掘られ、レールも設置されている。(佐賀秀玄)

◆2011年3月8日 東京新聞群馬版 
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110308/CK2011030802000069.html

 -「八ッ場」吾妻線付け替え 「工事遅れ残念」県が国批判―

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の建設を前提としたJR吾妻線付け替え工事の完成や新線開通のめどが立っていない問題について、県は七日に開かれた県議会八ッ場ダム対策特別委員会で「工事の遅れは非常に残念なこと」と国の対応を強く批判した。 (中根政人)

 国が付け替え工事の遅れの原因に挙げる「土地取得の難航」について、県は「未買収の土地の面積は聞いていない」「理由の詳細な説明もない」と答弁。工事の進行状況に関して、国と県の情報共有が不十分な現状があらわになった。

 未買収の土地の問題について、角倉邦良氏(リベラル群馬)が「買収完了の見通しはいつごろか」と質問。古橋勉・県特定ダム対策課長は「国からは『(土地取得の作業が)相当に進んでいる』と聞いている」と答えた。

 だが、県側から進捗(しんちょく)率などの具体的な数字は提示されず、角倉氏は「進んでいるのに見通しが示せないのか」と県の“情報不足”を厳しく指摘した。

 吾妻線の付け替え工事完了は、ダム本体を完成させる場合の絶対条件だが、国土交通省は「目標だった二〇一〇年度中の完成は困難」として、開通時期を明示していない。

 一方、長野原町・川原湯温泉の移転代替地に建設する方針の地域振興施設について、県は今月中に案をまとめ、新年度以降に詳細な設計を行う方針を明らかにした。
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 〇九年九月に当時の前原誠司国交相がダム建設中止を宣言したのを受けて、同十月に設置された八ッ場ダム対策特別委員会は、この日で約一年半にわたる審議を終了した。

 採決では、本体工事費を含む約九十七億円の県ダム関連予算案について、昨年は修正案を出して否決されたリベラル群馬も容認に回り、全会一致で可決した。