利水の検証は関係都県に最大限の配慮

 八ッ場ダムの主目的は「利水(都市用水の補給)」と「治水(利根川の洪水調節)」です。
 政権交代後、八ッ場ダム計画の検証を行うことが決まりました。八ッ場ダムに疑問をもつ多くの国民は、ダム計画の欺瞞性が明らかになることを期待しましたが、本質的な検証は一向に進んでいません。さる5月24日、国土交通省関東地方整備局は、八ッ場ダムを中止した場合の「利水」の代替案を公表しました。
 当日の資料は、国交省関東地方整備局のホームページで見ることができます。↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000175.html

 東京オリンピックが開催された1960年代、東京をはじめとする首都圏は高度成長時代の只中にあり、水需給が逼迫していました。八ッ場ダム計画における「利水」目的は、「オリンピック渇水」で都市住民が不便を強いられたこの時代に浮上しました。
 その後、利根川上流には数多くの水源開発事業が進められ、多くの工場が地方に転出したこともあり、首都圏は水余りの時代を迎えました。八ッ場ダムが完成するとされている2018年度ごろには、首都圏は人口減少時代に入ります。中部地方の徳山ダムと同様、ダムはできても、水の使い道は無い、という状況になるのは確実です。
 けれども、八ッ場ダムの関係都県は、過大な水需要予測を設定し、八ッ場ダムが必要だと主張し続けています。国交省関東地方整備局は関係都県の主張をそのまま認め、八ッ場ダムを中止した場合も、ダムによって開発されるべき水量を他の水源開発事業によって生み出さなければならないとして、代替案として新たに、荒唐無稽な事業を四つ並べて見せました。「実現の見込みは無いから、八ッ場ダムを造るしかない」という結論を導くための小道具に過ぎないことは明白です。
 八ッ場ダムを推進してきた国交省関東地方整備局と関係都県が自ら、「利水」上の必要性はなかったと認めるのであれば、八ッ場ダムはとっくに中止されていました。なぜなら、1970年代には高度成長は終わり、当時から水需給の状況が変わることは十分予測できたからです。
 「利水」の検証作業は、民主党政権がダム計画を推進してきた官僚組織に八ッ場ダムの検証を丸投げしたことがそもそもの間違いであったことをあらわにしています。国と関係都県がいい加減なダム行政を誤魔化すための茶番劇に、納税者はいつまで付き合い続けなければならないのでしょうか。

◆上毛新聞 2011年5月30日

 -国交省 八ッ場ダム検証で利水代替4案 現実離れ 双方批判 6都県側 検討価値ない 見直し派 形示しただけ-

 八ッ場ダム建設の是非を決める検証作業で、国土交通省関東地方整備局が、本県など関係6都県にダム建設に代わる四つの利水代替案を示した。静岡県から導水路で水を運んだり、既存ダムの治水用、発電用の水の利水用への転換などで水源を確保する内容。今後、内容を具体化した上でダムと比較評価するが、6都県側は「非現実的。やはりダム建設しかない」と攻勢を強める。見直し派の市民団体は「形ばかりの検証」と手法に反発している。

 整備局はまず、国交省の有識者会議がダム建設以外の水源開発手法として示した「地下水取水」など16手法を組み合わせ、12案を作成。その上で関東平野は地盤沈下防止の保全地域が多く「新たな開発が非常に困難」として地下水が主力の案など8案を除外した。

◆高いハードル

 残った4案の一つは静岡県の富士川水系で発電に利用された後、川に放流されている水を導水路で本県の利根川まで運び、再利用して必要量の9割を確保する。1割は保全地域外の渋川市周辺の地下水開発や藤原ダムの貯水池拡大で賄う。
 他の3案は、矢木沢ダムや丸沼ダムなど群馬、栃木圏内の既存6ダムが治水、発電用にためている水を買い取り、利水用に換えることで必要量の約7割を賄う点が共通。残り3割の確保策が①下久保ダム、利根大堰の貯水量を増やすかさ上げ②渡良瀬遊水地の第2調整池の整備③富士川からの導水ーなどと異なる。
 だが、これらの手法もハードルは高い。八ッ場ダムの残事業費が1千億円程度なのに対し、導水路建設は概算で1兆円以上かかるとされる。地権者との調整も必要で工事の長期化は必至とみられる。
 既存ダムの発電用の水買い取りは電力事業者との協議が終わるまでコストが不明。治水用の水を買い取っても、その文の治水対策が別に必要になる。渡良瀬遊水地は貴重な植物が生息する湿地帯で、環境省がラムサール条約に登録する方針を示している。
 県は「値段が高い上、どれほどの時間がかかるのか。とても検討に値しない案ばかり。八ッ場ダムの優位性が明確になった」と早期建設を求める。他の都県も同様のスタンスだ。

◆水利権議論を
 整備局は各都県などが将来の水需要予測などに基づき、八ッ場ダムによる水源開発が必要とする水道水、工業用水の量「毎秒22.2立方㍍」も検討した。 ダム見直し派は人口減、節水機器の普及などから「実績とかけ離れた過大な予測に基づく不必要な水」と反論。ダムを扶養とする根拠の一つにしており、行方が注目されていた。
 検討の結果、必要量の推定方法が日本水道協会の「水道施設設計指針」に沿っていることなどから妥当とした。県は「当然のこと」と胸を張る。
 一方、見直し派の市民団体、水源開発問題全国連絡会は「指針自体が過大な予測ができる仕組み。指針に沿っているかを検証しても意味がない。もっと踏み込んだ検証をするべきだ」と不満をもらす。
 その上で、「毎秒22.2立方㍍という大量の水源開発を前提にすればダムが必要という結論になる。代替案も非現実的。検証した形を示すだけの茶番劇だ」と批判。各都県が現在、将来のダム完成を根拠に河川から取水している「暫定水利権」の扱いなど水利権制度に関する議論がないことも問題視している。  (報道部 西山健太郎)

◆朝日新聞群馬版 2011年05月25日
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581105250001

 -代替の利水対策案 県側は「非現実的」―

 八ツ場ダム(長野原町)の必要性を検証する「検討の場」の幹事会が24日、さいたま市内であり、関係する群馬や東京など6都県の担当幹部が集まった。検証主体の国土交通省関東地方整備局は、ダムにかわる利水対策として4案を挙げたが、都県側は「非現実的だ」と拒否した。

 国交省は、発電専用のダム容量の水を買い取って八ツ場ダム開発分を確保するなど4案を代替案として提示。これに建設続行を加えた5案について都県側から意見聴取し、八ツ場ダムを建設するかどうかの検証結果を今秋までに示す考えを繰り返した。

 都県側は、東日本大震災で協議が停滞しているとして国側に注文をつけた。群馬県は「会議が開かれず、地元の不安は大きい。今後の詳細なスケジュールを明らかにして欲しい」と要望。埼玉県は「震災で利根川の堤防破損や地盤沈下が起き、この状態で大雨の時期を迎えるのは危険。『秋までに検証結果』とする計画を前倒ししてもらい、ダム完成を望む」と述べた。

 これに対し、国交省側は「先日の国会で大臣から『一切の予断を持たずに、秋までのできるだけ早期に』との発言があった。これに沿って作業を進めたい」と述べるにとどめた。

◆東京新聞群馬版 2011年5月25日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110525/CK2011052502000074.html

 -八ツ場ダム再検証 4代替案 比較検討へー

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の是非に関する再検証について、国とダム流域六都県が事務レベルで協議する「検討の場」の五回目の幹事会が二十四日、さいたま市内で開かれた。

 国土交通省関東地方整備局は、利根川流域の治水とともに、ダム建設の主目的とされた利水(水道・工業用水の確保)について、「現行の法制度では、ダムを中止した場合に、ダム事業への参画を条件に流域都県に分配する水利権が失われる」と主張。既存ダムの改良による貯水量確保や、別の河川からの導水などを組み合わせた代替案を四パターンに絞り込んで、現在のダム計画と比較検討する方針を明らかにした。

 代替案は、藤原ダムの掘削や富士川からの導水、群馬県渋川市周辺での地下水取水▽利根大堰(おおぜき)や下久保ダムの改良、発電・治水ダムからの水量確保など▽渡良瀬第二調節池への貯水、利根大堰の改良、発電・治水ダムからの水量確保など▽富士川からの導水、発電・治水ダムからの水量確保など。

 同整備局は「代替案は、大幅な法改正や河川行政のシステム変更を伴わない範囲で、あらゆる方法を模索した結果」と説明。ダム中止に伴う補償法制定によって、流域都県にダム建設の場合と同程度の水利権を分配するなどの踏み込んだ政策は示さなかった。

 代替案について、流域都県は「荒唐無稽(むけい)だ」「実現性に乏しい」と一斉に批判。八ッ場ダム建設を前提とした再検証作業の早期終結を強く要望した。 (中根政人)