日本学術会議が進めてきた八ッ場ダムの建設根拠である利根川治水のデータ検証が大詰めを迎えています。
最終結論は6月20日に公表される予定ですが、すでに前回会議までに八ッ場ダム計画を追認する方向性が明らかにされています。
八ッ場ダムをはじめとして未だに完成していないダムの多くは、「治水(洪水調節)」を目的の中心に据えています。「水力発電」のように恩恵が明らかなものと比べ、「治水」は大変わかりにくいものです。これまでに、「治水」を目的としてダムが建設された河川でも多くの水害が発生していますし(2004年新潟水害など)、ダム計画の想定規模を超えた洪水が襲ったことで緊急放流によって被害が拡大したと指摘されているものもあります。ダムによる治水効果は本来、限定的なはずですが、行政のダム計画はどれもダムの治水効果を大きく見積もっています。
日本学術会議による「利根川治水」の根拠データの検証は、全国のダム計画に影響するきわめて重要なテーマでした。けれども、全体にこの会議に対するマスコミの関心は極めて低く、継続してこの問題を追ってきたのは東京新聞ぐらいのものでした。こうした報道姿勢は、議論の内容が抽象的、専門的で、一般読者に伝えるのが難しいことも一因だったといわれます。
日本学術会議の議論に対する批判については、「事務局だより」にアップしています。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1253
「河川行政を追認する日本学術会議」
関連記事を転載します。
◆2011年6月12日 東京新聞「こちら特報部」より転載
-「八ッ場」建設根拠 利根川最大流量 国の再計算値なお疑問 –
八ッ場ダム(群馬県長野原町)建設の根拠になってきた利根川の最大流量(基本高水)。国土交通省は従来より低い値をはじき出し、点検する立場の日本学術会議もこれを容認する方向だ。だが気になる点が二つある。依然として値が大きくないか。森林成長による保水力向上を過小評価していないか。国交省や同会議の議論を点検した。 (篠ケ瀬祐司)
国交省は今月、約三十年間主張してきた基本高水の値を引き下げた。
「新モデル(計算式)」で再計算し、日本学術会議「河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会」に示した基本高水は毎秒二万一千百立法㍍。これまでの二万二千立方㍍より九百立法㍍少ない。四八㍉としてきた利根川上流部の「飽和雨量」(土壌の保水力を示す係数)は一三〇~二〇〇㍉に引き上げた。
「こちら特報部」では、上流部は森林が多いのに、飽和雨量を水田並みの四八㍉とするのは不適切と指摘。保水力が小さく見積もられ、基本高水が過大計算されていると指摘してきた。国交省はこれを受け再計算した。
問題は下げ幅だ。飽和雨量が二・七~四倍になっても、基本高水は4%ほどしか減っていない。
分科会メンバーの専門家が八日に提出した資料によると、別の計算式で導いた基本高水は、毎秒約一万九千六百立法㍍で、当初から10%以上減っている。国交省の再計算には疑問符がつく。
同省の再計算を「評価」する立場の分科会の判断も不可解だ。これほど差があるのに、小池俊雄委員長は八日の分科会後の取材に「大きな誤りがあるとは認められない」と、国交省の再計算を容認する方針を明らかにした。
疑問がもう一点ある。森林が水を蓄えて洪水を抑える「緑のダム」効果に、分科会が否定的なことだ。
分科会が国交省に提出する「回答」の骨子案では、樹木の葉に遮られた雨の蒸発や、樹木が地中の水分を吸い上げて大気中に発散させる「蒸発散」について、「洪水ピークへの影響は小さい」と指摘。森林土壌が雨水をためる能力についても「戦後の土壌発達はわずか」として、森林の成長は大洪水時の基本高水に影響しないとしている。
骨子案を見た専門からは疑問視する。
長野県治水・利水ダム等検討委員などを務めた藤原信・宇都宮大学名誉教授(森林経理学)は「戦後の植林で、状発散が盛んな針葉樹の人工林ができた」と指摘した上で、森林の成長による基本高水の軽減効果はあると反論する。
藤原氏は「土壌生成は一年に一㍉といわれている。戦後の造林で、かつてのはげ山も六㌢ほどの土壌ができ、保水力は上がった」と、分科会の考え方に異を唱える。
分科会が提出した資料には、一九五九年の洪水時は実際の最大流量が計算値よりも多かったが、九八年洪水では、実際の最大流量が計算値を下回ったとのデータが掲載されている。
これにすいて拓殖大学の関良基准教授〈森林政策)は「三十九年間で山の保水力が向上し、流量が小さくなったことを示唆している。こうした結果に忠実に結論を導くべきだ」として、分科会に再考を促している。
分科会は十三日にも検討内容を取りまとめる方針。
利根川の基本高水 国土交通省は1980年の「利根川水系工事実施基本計画」で、47年のカスリーン台風並みの雨(3日間で319㍉)が降った場合、治水基準点の八斗(やった)島(群馬県伊勢崎市)に最大毎秒2万2000立法㍍の水が流れると試算。これを前提に二〇〇六年策定の「利根川水系河川整備基本方針」で、八ッ場ダムを含む上流ダム群などで毎秒5500立方㍍を調整するとしている。
◆2011年6月13日 朝日新聞社会面より転載
http://www.asahi.com/national/update/0613/TKY201106130399.html
大洪水が起きた時に想定される利根川水系の最大流量(基本高水〈きほんたかみず〉)について、日本学術会議分科会は13日、国土交通省の新たな計算式を妥当とする見解をまとめた。この方法で計算すると、従来の数値とほぼ一致した。近く正式に公表する。
利根川水系の基本高水は八ツ場(やんば)ダム(群馬県)建設の必要性の根拠になっているが、算出根拠の資料が国交省内で見つからず、馬淵澄夫国交相(当時)が昨秋、検証を指示していた。
基本高水は雨量や流量データを分析し、流域に応じた計算式を作るなどして算出する。国は1947年のカスリーン台風をもとに、80年、八斗島(やったじま=群馬県伊勢崎市)地点で毎秒2万2千トンとした。
国交省は新たな計算式で基本高水を毎秒2万1100トンと算出。分科会はこの方法を妥当と評価した。独自計算もしたところ、ほぼ同じ数値が出た。
◆2011年6月14日 東京新聞群馬版より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110614/CK2011061402000073.html
-国の再計算認める 八ッ場ダム基本高水検証 有識者会議-
八ッ場ダム建設の根拠となっている利根川の最大流量(基本高水)を検証する有識者会議が十三日、東京都内で開かれた。ダム建設の是非に影響する可能性があるとして、検証作業で最大の焦点だった一九四七年のカスリーン台風並みの降雨時の最大流量について、国土交通省が示した再計算の内容を“追認”する方針を確認した。
国交省は今月一日の会議で、治水基準点・八斗(やった)島(伊勢崎市)の最大流量について、新たな手法による再計算の値を提示。上流の森林保水力を表す「飽和雨量」を、これまでの四八ミリから一三〇~二〇〇ミリに引き上げて計算しても、最大流量は従来の毎秒二万二千立方メートルとほぼ同じ毎秒約二万一千百立方メートルになると説明。「結果はダム建設の是非に影響しない」と示唆した。
会議委員長の小池俊雄東大教授は国交省の再計算を、「大きな誤りは認められない」とし基本的に妥当との見解を示している。森林が水を蓄えることで基本高水を低減させ水害を抑止するとされる“緑のダム”効果については「(効果が)明確とは言えない」と否定的な考えを示した。 (中根政人)
◆2011年6月14日 毎日新聞群馬版より転載
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20110614ddlk10010105000c.html
-八ッ場ダム・流転の行方:基本高水評価検討分科会、追加資料の提出要請 /群馬-
◇国交省再試算に不明点
八ッ場ダム建設の根拠として国が示していた利根川の基本高水(最大流量)を検証中の日本学術会議河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会(委員長=小池俊雄・東大大学院教授)は13日、東京都内で第10回会合を開いた。同分科会は前回の8日の会合で、基本高水に関する国土交通省の再試算結果を「妥当」と認めたが、この日は試算手法に不明な点があるとして追加資料の提出を国交省に要請した。
基本高水を巡り、国交省は政権交代以前、毎秒2万2000立方メートルとしていたが、算定根拠が不明として、同分科会は国交省に再試算を求めていた。
国交省は今月1日の第8回分科会で再試算結果を提示。基本高水は、利根川の観測史上最大となった1947年のカスリーン台風による洪水を想定し、森林の保水力を示す「飽和雨量」を従来の48ミリから130~200ミリに引き上げて計算した。それでも毎秒約2万1100立方メートルで従来値と大きく変わらないとしている。
第9回分科会で了承された回答骨子案では、この再試算結果を「妥当」と認めたが、第10回会合では雨量の算出方法に不明な点があるとして追加資料の提出を国交省に要請。さらに骨子案には今回新たに「社会基盤の構築の基本値の一つである基本高水に関して、確かな情報が広く共有されていない状況が、社会の混乱、合意形成の障害を引き起こす」との文言を盛り込んだ。小池委員長は「我々専門家にも確かな情報が共有されていない。ぜひ是正してほしい」と述べ、国交省に情報公開を徹底するよう求めた。
同分科会は、国交省とダム関係自治体による「検討の場」の依頼で、基本高水などの検証を行っている。【奥山はるな】
◆2011年6月14日 上毛新聞より転載
-ゲリラ豪雨考慮 日本学術会議「新たな河川計画を」
利根川で起こりうる最大規模の洪水流量で、八ッ場ダム建設などの根拠になっている基本高水流量の妥当性を検証する日本学術会議分科会の第10回会合が13日、都内で開かれた。国土交通省への回答書の中で、ゲリラ豪雨と呼ばれる局所的な集中豪雨など、近年の気候変化を踏まえた新たな河川計画の必要性を指摘することを確認した。
同日示した回答書骨子案で、国交省から要請を受けた基本高水検証への回答とは別の付帯意見として盛り込まれた。骨子案ではこうした気候変化がこれまでの河川計画の前提条件に影響を与える可能性を指摘し、「新たな河川計画、管理の在り方を検討することを要請する」としている。
国交省が基本高水流量を設定した際の手法や根拠が不明確だったことを踏まえ、「(基本高水に関する)確かな情報が広く共有されていない状況が社会の混乱を引き起こす」と国交省の対応を強く批判する内容を盛り込むことも確認した。
検証作業は、国交省が1980年に利根川の基本高水流量を現在と同じ毎秒2万2千立方㍍に設定した際、200年に1度の規模の洪水流量を「総合確率法」と呼ばれる手法を使って毎秒2万1200立法㍍と算出した点を検討。国交省に対し、この手法を選んだ根拠や計算に関する技術資料を提示するように求めた。