2011年7月11日
さる7月3日に実施された群馬県知事選は、現職の大沢正明知事が新人3人を大差で引き離して再選されました。今回の知事選は、自民党や各組織が軒並み推す大沢知事が圧倒的に有利で、過去最低の投票率36,62%が示すように、盛り上がりに欠けました。
しかし、群馬県政最大の課題といわれる八ッ場ダムの生活再建問題は、今のところ矛盾を先送りにしているものの、早晩行き詰るのは明らかで、二期目の大沢県政にとって、ますます重荷となることが予想されます。
地元では、ダム推進派が有力なため、ダム事業が進めば問題が解決するように言われていますが、実際には事業が進めば進むほど事態は厳しいものとなることが予想されます。県民の多くも、いまだに八ッ場ダム問題の本当の深刻さを知らされていない状況です。
知事選の関連記事を転載します。
◆2011年6月24日 読売新聞群馬版より転載
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1308592723031_02/news/20110624-OYT8T00073.htm
-2011知事選 県政課題 【4】八ッ場ダム 結論ずれ込み地元疲弊-
建設か中止かで揺れ続ける八ッ場ダム(長野原町)。今秋には建設の是非を判断する国の検証結果が出るが、地元は疲弊の色を濃くしている。
「東日本大震災以降、客はますます減った」。水没予定地の川原湯温泉街で食堂「旬」を営む水出耕一さん(56)は、ため息をつく。
民主党が政権交代直後にダム中止方針を表明した一昨年秋以降、老舗旅館2軒が宿泊営業を休業。「観光客を一人も見かけない日も少なくない」(80歳代の住民女性)。旅館取り壊しも進み、周囲では、代替地同士を結ぶ湖面1号橋建設工事や、JR吾妻線付け替えのトンネル工事が佳境に入り、ひなびた温泉街は工事現場と化している。
世間の耳目は、震災や原発事故の行く末に集まる。50歳代の住民男性は「最近は、ネット検索しても八ッ場のニュースが見つからない。忘れ去られてしまったか」と不安を漏らす。
来年5月には、代替地に移転する旅館に温泉を供給する配湯施設が完成予定だが、国は肝心のダムについて、建設再開でも3年遅れの2018年度にずれ込む可能性を示唆。用地買収の遅れも続き、JR線工事や代替地整備の遅れにつながっている。休業中の老舗旅館「柏屋」会長の豊田治明さん(75)は、旅館再興の時期にめどが立たず、「とにかく生活再建を進めてくれないと困る」と焦り、高山欣也町長は「代替地に家を建てるだけでは生活再建とは言えない。ダム湖という観光資源があってこそだ」と訴える。
付け替えられるJR吾妻線のトンネル工事が進むなど、様変わりする川原湯地区。奥には4月に開通した不動大橋が見える(23日、長野原町で) 群馬など共同事業者の1都5県は、建設推進を主張するが、八ッ場ダムは国直轄事業のため、予算配分も含めて主導権を握るのは国。県が地元のために国にどう働きかけていくのか、トップの手腕が問われる。
◇<知事選アンケート>候補者の回答(一部要約)
大沢正明氏 65 無所属 現
【設問1】〈1〉
【設問2】八ッ場ダムは、利根川流域の生命・財産を守り、首都圏の水資源と電力の安定確保に資する必要不可欠な施設。自ら犠牲になる覚悟をし、半世紀にわたって苦労した地元の思いに応えなければならない。地元住民がこれ以上、将来への不安や生活上の不便を来すことがないよう、検証結果を一日も早く出し、中止撤回と生活再建の早期完成について、1都4県と連携して強く政府に求める。
後藤 新氏 50 無所属 新
【設問1】〈3〉
【設問2】ダム計画後、約50年以上が経過しており、「建設か中止かの政治的な思惑無し」で、科学的に見直すことは重要。同時に「ダム建設を前提」にせずに、「ただちに地域の再生・活性化」を最重要に考え、長年の地元の苦難に応えるべきだ。半世紀にわたり、国の無責任・無策のために地域住民を翻弄してきたことに対して、国は「ダム建設の有無にかかわらず慰謝料」を出すべきだ。
小菅啓司氏 60 共産 新
【設問1】〈2〉
【設問2】首都圏で水が余る中、新たな水がめをつくる意味はない。洪水低減効果もごくわずか。建設地は地滑り多発地帯で、ダム湖が新たな災害を誘発する危険も大きい。八ッ場ダムの水力発電には稼動中の発電所の水を回すため、既存の発電量が減り、自然エネルギー増につながらない。どこから見ても不要なダム。地元には、納得のいく説明と十分な補償、ダムなしの地域振興策などが必要。
※回答は届け出順。候補者4人のうち海老根篤氏は締め切りまでに回答がなかった。
◆2011年7月4日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000771107040001
-大沢氏 大差で再選-
知事選は3日投開票され、現職の大沢正明氏(65)が新顔3氏を大差で破り、再選された。明確な政策的争点がなく、大沢県政の1期目に対する評価が問われるなか、自民党や業界団体などの組織力で他を圧倒した。投票率は36・62%で過去最低となった。
◇
午後7時3分、前橋市野中町の大沢氏の事務所に早々と当選確実の知らせが入った。大沢氏が満面の笑顔で姿を見せた。
「4年間、市町村と県の壁を壊そうと対話と協調路線を進めてきた。その実績が評価された。多くの方にご支持をいただき本当に感謝しています」。集まった支持者にあいさつし、大きな拍手が送られた。
前回は自民党公認で立候補した。今回は「幅広く県民の支持を得たい」と無所属に。県議50人中、民主党2人を含む43人が支援を表明し、市町村長の多くが選対支部の役員を務めた。
連合群馬も「自主投票」としながら、一部産別労組は大沢氏を支持。前回は小寺弘之前知事を支援した団体も、ほとんどが大沢氏を推薦するなど「現職の強み」を見せた。
選対の中心を担ったのは自民党だった。中曽根弘文参院議員ら国会議員が遊説に同行、福田康夫元首相はみずから企業を回った。1日には谷垣禎一総裁も駆けつけ、太田市やみどり市で「まじめにこつこつと本質的なことをやってくれるリーダー」と持ち上げた。
大沢氏は中学生までの医療費無料化、ドクターヘリの運航開始、東京・銀座の総合情報センター開設など、4年間の実績を強調。「市町村とさらに連携したい」と若者の就職支援や第1次産業の育成、がん検診率50%などを公約に掲げ、支持を広げた。
選対が「主戦場」と位置づけ、小寺氏に前回約4千票差をつけられた前橋市でも、後藤新氏に約1万7千票差をつけるなど、県内全域で支持された。
◇
後藤新氏は、自宅で家族とともに開票を待ち、テレビのニュースが大沢氏の再選を伝えると、前橋市問屋町の事務所に向かった。真っ赤なTシャツ姿の「女性の会」メンバーらに大きな拍手で迎えられた。
「結果が出せなかったのは、自分の力不足の一言。政策面では大きな対立軸ができたが、浸透しなかった。至らぬ候補者でした」と頭を下げた。
小寺前知事時代、出納長や商工労働部長などを務めた。小寺氏の後継者として存在をアピール。「一党一派に偏らない」を合言葉に、大沢氏との差別化をはかった。「女性の会」を選対に組み込むなど、女性票や無党派層、非自民票の取り込みに奔走した。
選挙戦では、「自然エネルギー日本一」などを公約に掲げた。終盤は、「県民所得の10%増」「県民税の10%減」「県人件費の10%削減」の3点に絞ったが、争点化できなかった。
前橋市では高木政夫市長や市議らの支援を得て支持を広げたが、藤岡、沼田両市には後援会支部を設けられず、知名度不足を解消できなかった。記者団に対し「準備不足。組織づくりが遅れてしまった」と敗因を述べた。
◇
小菅啓司氏は前橋市古市町の事務所で、「県政のあり方を大もとから問いかけることで、(県民が)正面から考える機会にできた」と敗戦の弁を語った。
選挙期間中、原発の廃止、自然エネルギー先進県への転換を公約の一番目に挙げ、学校や幼稚園、保育所への放射線測定器の完全配備などを訴えていた。県内をこまめに回り、小さな街頭演説を1日に20カ所近く開いてきた。だが立候補表明が5月末と遅れ、共産党支持者以外に支持が広がらなかった。
海老根篤氏は妻とともに選挙戦を展開していた。
◇
《解説》あっけない幕切れだった。大沢正明氏が、有力候補後藤新氏の2倍以上の票を集めて圧勝した。
4期16年務めて県議会自民党と対立した小寺前知事に反発し、前回立候補した元自民党県議の大沢氏。小寺県政の幹部として、大沢氏や自民党に対して批判を続けた後藤氏。
「因縁の対決」と言われた知事選は、古巣の自民党をはじめ公明党、みんなの党、100超の団体から推薦を受けた大沢氏が、後藤氏の「草の根」選挙を打ち負かした。
朝日新聞の出口調査結果でも、投票者の8割近くが大沢氏の1期目を評価した。後藤氏は選挙戦後半に県民税10%減税を急きょ打ち上げたが、あまりにも遅かった。
選挙戦が盛り上がらなかった理由の一つに、両氏の政策の対立軸がはっきりしなかったことがある。政策を競うはずの選挙が、有権者には小寺前知事と自民党の対立構図を引きずっていたように映ったのではないか。
大沢氏は全国初の中学までの医療費無料化などは党派を超えて評価される。一方で、県債残高は2009年度に1兆円を超え、借金体質は続く。国の方針に逆行し公共事業を増やすなどする姿勢は、「業界団体の調整役」と揶揄(や・ゆ)される。
大きな失点もないが、群馬を全国に売り込むには迫力不足だとも言われる。財政難時だけに大胆な「選択と集中」も求められる。
県議会の責任も重大だ。議会50人のうち43人が大沢氏を支援した。知事提案を丸のみするだけでは困る。県政を監視し、逆に政策を突きつける努力が必要だ。我々は議会の姿勢も見据えていきたい。(木村浩之、石川瀬里、牛尾梓)
◆2011年7月5日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000771107050001
-大沢氏、党派超え支持 知事選出口調査-
大沢正明知事(65)が全市町村で得票率1位という「完全勝利」で再選された知事選。朝日新聞が投票日の3日に実施した出口調査の結果を分析すると、大沢氏は出身の自民、公明の支持層だけでなく、無党派層、民主支持層からも幅広く票を集め、様々な政策で評価を受けていることが浮かび上がった。
「この4年間の大沢県政を、どう評価しますか」と尋ねたところ、「大いに評価する」が14%、「ある程度評価する」が64%で、投票者の8割が大沢知事の1期目を評価していた。
大沢氏は、自民、公明の支持層の9割近くを固めた上に、無党派層、民主支持層の過半数からの支持を集めた。後藤新氏(50)は、民主、みんなの党支持層の4割以上の支持を得たが、自民支持層からは1割程度だった。
「投票の際、何を一番重視しましたか」という設問は、「経済・雇用」が32%、「医療・福祉」が27%と高かった。後藤氏や共産党の小菅啓司氏(60)が強調した「防災・原発対策」は17%とさほど重視されなかった。
「防災・原発対策」など、どの政策を重視した人も、大沢氏に6割以上が投票していた。
長野原町の八ツ場ダム建設については、「建設するべきだ」が最大の46%。「中止するべきだ」は17%、「どちらとも言えない」35%だった。「中止するべきだ」と考える人の3割程度も、ダム建設推進派の大沢氏に投票していた。
調査は県内の投票所60カ所で行い、2796人から有効回答を得た。
◆2011年7月14日 東京新聞群馬版
-「開かれた県政」実現を-
県政の将来を占う知事選は、大沢正明氏が再び当選を果たしたものの、投票率は過去最低を記録。県内の全有権者に占める大沢氏の支持率は2割超にとどまり、「大沢県政」の過去四年間が無条件で信任されたとは言い難い結果となった。
経済活性化、行財政改革、原発に代わるエネルギーの問題・・・。選挙戦では、各候補の主張が分散化し、争点が明確にならなかった。有権者が投票の基準を定められなかったことが低投票率の一因となった可能性がある。
一方で、本県にとって緊急性や重大性の高い政策課題であるはずの八ッ場ダム問題については、建設的な議論が一切深まらなかった。
地元にとって有効な生活再建策の構築が求められる中、大沢氏はダム建設
推進を繰り返すのみで、地域振興の青写真を示すことはなかった。敗れた後藤新氏も、建設の是非への言及を避けるなど、いずれの候補からも、ダム予定地を抱える本県の複雑な事情に真正面から立ち向かう姿勢は感じられなかった。
選挙戦の質の問題はともかくとして、大沢氏の二期目の県政運営が始まる。八ッ場ダムに限らず、福島第一原発事故による放射能汚染への対策、前橋赤十字病院の移転問題など、県政の今後には難題が山積だ。大沢氏には、政策課題の中身や解決策を県民に詳しく示し、「開かれた県政」を実現していく責任がある。(中根政人)