2011年8月20日
8月7日夕刻に八ッ場ダム水没予定地を襲った集中豪雨により、JR川原湯温泉駅周辺で大規模な土砂災害が発生しました。
八ッ場ダム事業によって造成中の打越代替地の流路工からあふれた沢水が大量の土砂と共に直下のJR川原湯温泉駅周辺に流れ下ったもので、JR吾妻線は翌日まで不通となり、駅前を走る国道145号線は8月11日になってようやく復旧しました。
以下をクリックすると、8月10日に国交省八ッ場ダム工事事務所が公表した記者発表資料が見られます。
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/kisya/h23/h230810.pdf
打越代替地は八ッ場ダムの水没予定地とされる川原湯地区住民の移転代替地として、山を切り崩し、沢を埋め立てて造成中です。代替地計画は八ッ場ダムの生活再建事業の核とされ、一九九〇年代半ばには代替地が完成する予定でした。当初は住民の大半が代替地への移転を希望していましたが、代替地計画の遅れや高額な分譲地価などさまざまな問題を抱えているため、多くの住民は地区外に流出しました。川原湯の代替地には30世帯以上が居住する予定で、すでに十数世帯が打越代替地に移転済みですが、川原湯地区の中心となるはずの温泉街ゾーンはいまだに未完成です。
今回の土砂災害は、打越代替地の第二期分譲地に造られた打越沢の流路工から水があふれたことがきっかけでした。打越沢の山側には砂防ダムが設けられており、代替地には途中まで流路工が造られています。しかし、流路工の下の水没予定地では湖面1号橋などの工事が進められており、流路工は途中で途切れ、それ以外には暫定的に設置された簡易な排水設備があるだけでした。
8月7日の豪雨の際、流路工が途切れた地点に大量の土砂がたまり、暫定的に設置された排水用暗渠管が雨水と土砂を呑みこめずに詰まりました。溢れ出した土砂まじりの水は、ちょうど溢水地点の目の前の工事用道路を流下し、勢いを増してガードレールをなぎ倒し、川原湯温泉駅前の国交省相談センターの裏山を流れ下りました。
土石流がガードレールをなぎ倒した場所は、工事用道路の一部が崩落しています。このあたりは盛土部分で、そのために被害が拡大したとの指摘もあります。
ゲリラ豪雨という言葉もあるように、近年、これまでなかったような大雨が各地で記録されています。打越代替地については、地形地質を無視した大規模な盛土造成地の危険性がしばしば指摘されてきました。八ッ場ダム事業の代替地は、川原湯地区だけでなく、他の水没予定地区にも造られており、川原湯地区の対岸の川原畑地区では大規模な沢を埋め立て、盛土の上に付け替え国道、住宅などが建設されています。JR川原湯温泉駅周辺からは、対岸の川原畑地区で進められている穴山沢の大規模な埋め立て工事がよく見えます。これらの工事は、もとの地形がわからなくなるほど徹底的に自然を破壊しており、果たして自然に抗うこうした人工的な構造物がいつまでもつのだろうかと疑問を抱く人も少なくありません。
大きな沢は普段はあまり水が流れない場合でも、ひとたび大雨が降ると、山深くから大量の水と共に岩や木々をも押し流します。人工的な排水設備は、沢の大きさから比べるとしばしば小規模です。造成地の安全性は、地元住民、交通網を利用する多くの人々にとって極めて重要であり、今回の土砂災害によって改めて安全性が問われています。人工構造物の維持管理の問題も、将来世代にとっては大きな負担となります。
八ッ場ダムの代替地は、水没予定地の周辺で造成され、ダム計画の他の様々な事業と工事が錯綜している状況にあります。こうした点も、工事の過程で安全性がないがしろにされる要因といわれます。
代替地の安全性については、早急に根本から検証する必要があります。
◆2011年8月8日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20110808-OYT8T00095.htm
-大雨 土砂崩れ相次ぐ JR川原湯温泉駅や国道冠水-
7日の県内は県北部を中心に大雨が降り、土砂崩れなどの被害が相次いだ。片品村では午後2時36分までの1時間に観測史上最大の49・5ミリの雨を記録した。
同日午後4時10分頃、長野原町川原湯の国道145号に、道路南側の斜面から大量の土砂を含んだ水が流れ込んだ。泥水は道路を越え、国道と並行するJR吾妻線川原湯温泉駅の構内やホームも冠水した。
長野原署の発表によると、けが人はなかったが、約40台の車が30分以上、現場で立ち往生した。国道は約100メートルにわたって土砂で埋まり、通行止めが続いている。JR東日本高崎支社によると、同線は大雨のため午後3時半頃から中之条―大前駅間で運転を見合わせており、列車は冠水区間の手前で停止していた。現場は八ッ場ダムによる水没予定地。付け替え国道や県道の整備が進み、迂回(うかい)路は確保されているが、同線の復旧の見通しは立っていない。
土砂は、ダム工事によって川原湯地区住民が移転する高台の斜面から流れ出た。草津町の草津温泉に向かう途中だった、さいたま市の男性会社員(40)は「何度も通っているが、こんなのは初めて」と驚いていた。
同支社は8日午前中の同線中之条―長野原草津口駅間の運転見合わせと、「特急草津」「快速リゾートやまどり」計4本の運休を決めた。
県危機管理室によると、7日午後7時現在、東吾妻町などの少なくとも5か所で土砂崩れが発生、沼田市や藤岡市の住宅など4か所で床下浸水の被害があった。けが人は報告されていない。
◆2011年8月8日 毎日放送
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4795483.html
-群馬の国道で土砂崩れ、車取り残される-
7日夕方、群馬県長野原町を走る国道で数か所で土砂崩れが発生し、一時、車およそ50台が取り残されました。建設中の八ッ場ダムに関連する造成地からも、土砂が流出しました。
警察などによりますと、7日午後4時すぎ、群馬県長野原町と東吾妻町の間を走る国道145号線で、およそ3キロにわたり数か所で土砂崩れが発生しました。
間に、車およそ50台が取り残されましたが、土砂の撤去などを進め、およそ4時間後までに全車両救出されましたが、午前1時前現在も通行止めが続いています。
建設中の八ッ場ダムで水没地域の住民のために造成中の代替地の法面からも、大量の土砂が流出したということです。
◆2011年8月9日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20110809-OYT8T00164.htm
堤排水管詰まり土砂流入か 川原湯温泉駅付近知事視察
7日の大雨で長野原町川原湯地区の国道145号やJR吾妻線川原湯温泉駅に大量の土砂が流れ込んだ問題で、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は8日、原因は、約80メートル上に位置する、移転代替地にある砂防えん堤の排水管(直径約1メートル)が詰まり、雨水があふれ出た可能性が高いことを明らかにした。
同日午後、大沢知事が現地視察に訪れた際に説明した。
また、ダム工事の施工業者から同事務所に対し、大雨が降った7日午後4時から30分間の降水量が64ミリに達していたことも報告されたという。
同事務所によると、ダムが完成すれば水没する川原湯地区の住民が移転する高台の打越代替地の斜面には、沢の土石流をせき止める砂防えん堤が設置されている。
その排水管入り口に土砂がたまり、行き場を失った雨水が工事用道路などを伝って流出。代替地下側の斜面の土砂を大量に削りながら、約80メートル下の国道や同駅のホームや線路まで流れ込んだとみられる。
(写真)大量に土砂が崩落した斜面を視察する大沢知事ら(8日午後、長野原町で)
◆2011年8月9日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000001108090001
-土砂災害 復旧長引く-
長野原町や東吾妻町で7日に起きた大雨による土砂災害は、復旧作業が長引いている。8日はJR吾妻線や国道145号の一部区間が終日通行できず、住民生活にも影響している。
JR吾妻線は長野原草津口(長野原町)―中之条間で運転を見合わせ、国道145号は東吾妻町松谷から長野原町林までの約7キロが通行止めになっている。
県によると、川原湯温泉駅(長野原町)南側の山が崩れ、駅や国道に土砂が流出した。駅構内で厚さ約20センチに及ぶなど流出が大量で、復旧作業に時間がかかっているという。
吾妻線や国道145号は、草津温泉や嬬恋といった観光地に向かう主要ルートだ。JR東日本は、吾妻線の不通区間をバスで代行輸送した。
現場は八ツ場ダムの建設予定地で、8日夕に視察した大沢正明知事は「造成地(の被害)を心配していた。集中豪雨で沢の水が一気に流れたのが原因とみられ、安心した。一日も早く旧道の開通に努力したい」と話した。
国土交通省八ツ場ダム工事事務所は、標高605メートル付近の打越代替地の上部に設けられた防災施設にある配水管の口が土砂で埋まり、あふれ出た水が下方の工事用道路の一部を崩落させ、水や土砂が約80メートル下の川原湯温泉駅まで一気に流れたと見ている。
代替地近くに業者が備え付けた水量計が7日午後4時から30分間で64ミリの雨量を計測したという。
◆2011年8月11日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20110811ddlk10040149000c.html
-長野原の土砂崩れ:雨水流出し浸食 国交省、原因特定 /群馬ー
長野原町川原湯のJR吾妻線川原湯温泉駅近くで7日に発生した土砂崩れについて、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は10日、原因は約80メートル上にある排水路(直径1メートル)が土砂で詰まり、大量の雨水があふれたためと発表した。
同事務所によると、排水路は移転住民が暮らす打越代替地に取り付けられていたが、土砂で詰まったため、大量の雨水が道路や山林に流出。代替地の下の斜面を浸食して土石流になり、同駅や駅前の川原湯総合相談センターに流れ込んだ。
排水路の土砂は取り除いたが、再発防止のためさらに、土のうで雨水の流れ道を造るなどの対策をとっているという。土砂崩れがあった7日午後4時~4時半の30分間で、現場から約2キロ離れた上湯原地区の雨量計は64ミリの大雨を観測していた。【奥山はるな】